北海道エナジートーク21 講演録

 
トップページへ
 
組織紹介
事業計画
行事予定
活動内容
入会案内
講演録
会報誌
リンク集
ご意見・お問い合せ
 
エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2012
エネルギー政策を考える
   〜エネルギー選択と社会・経済の行方〜

(10-9)

日本の電力事情はどうなっていくか

宮崎 エネルギー問題は、どう生きていくかという価値観にも関わってきますね。澤さん、ご意見をお願いします。

 

 「健康」「経済」は果たして対立する概念なのかどうか。どちらが欠けてもうまくいかないという、むしろ補完的なものだと思います。ですから、対立させておいて議論すると解決策がなくなるのではないでしょうか。先ほど小沢さんがおっしゃったように、「リスクをどこまで引き受けるのか」ということについて議論せざるを得ないと思います。

 実は、原子力は全体の約30%を占めるといわれていますが、震災以降はゼロです。大飯発電所が再稼働した以外、実質的に脱原発はなされているわけです。そうなると、この状況には耐えられそうな気がするかもしれませんが、ここで心配なのは、この冬が乗り切れるかどうかということと、電気料金が上がるかもしれないということです。

現実の電力不足状況

 図をご覧ください。企業にとって、埋めるべき供給不足はこういう状況にあるので、この先3〜5年は黄色い部分の見通しが立ちません。泊発電所が動くかどうかわからないからです。つまり、この供給不足がどのくらいの量になるのか、どれくらいの値段になるのかということが、命を支える雇用にも関係してくるわけです。

 もう一つは、原発を火力で代替したら、電気料金がいくら上がるかという問題。イメージ的には約2割です。中小企業にとっては毎月約75万円ずつ上がることになる。人件費でいうと3〜4人分ですね。もしも経営状況がカツカツの場合は、このコストアップ分をどうやって吸収するかが問題です。

 電力会社なら電気料金に転嫁すればいいわけですが、中小企業はそれ以上転嫁できないので、自分たちで吸収せざるを得ない。給料を下げるか、社員を解雇するか、あるいは売上をアップするよう努力させるか、何らかの対応が迫られます。こうした経済への影響がすでに表れつつあるわけです。

再生可能エネルギー全量固定価格買取制度(FIT)のあまり知られていない負担の仕組み

 また、この図をご覧ください。再生可能エネルギー全量固定価格買取制度の負担のしくみについては、誤解されていることが多いようです。太陽光を買うときに「買取価格は42円」と言っています。あれは電力会社を経由して皆さんの電気料金にそのままアップされるわけです。「再生可能エネルギーを導入したらいい。どんどんコストが下がるから」と言う人は、はっきり言ってウソつきです(笑)。

 そうではなくて、例えばこの42円に加えて翌年の買取価格40円をまた負担する。38円に下がってもさらに負担する。最初は42円で負担したこの黄色い額が、皆さんの今年の負担分ですが、数年後には、42円+40円+38円…となっていきます。ですから5〜6年経つと、5〜6倍負担が増えるということです。この点が非常に誤解されているわけです。

 買取期間は20年続きますが、この制度を始めたら後戻りできないので相当の負担額になります。だからドイツは全量固定価格買取制度をやめたわけです。

 日経BPのアンケート結果では、「原発をやめて電気料金が上がってもしかたない」という人の中でも「値上がりは2割以下に収めてほしい」という人が9割います。つまり「原発も嫌だ、しかし料金上げるのも嫌だ」という人がほとんどです。それが世論なんです。しかし、原発が止まって火力に代替された燃料費分として2割分上がり、さらに再生可能エネルギー固定価格買取制度で2割以上も上がってしまう。世論に流されるがままに、施策を考える側は解決策がない。

 ではどうするかというと、政治家は先送りするわけです。「再稼働についての判断はもう少し後で」「電気料金の値上げよりは電力会社のリストラが先だ」という形でみんな先送りします。ユーザーである企業にとっては、先送りにより情報が確定せず、不確実性がすごく増してくるわけです。雇用するにも工場を作ろうにも確定した情報がなく、計画を立てることも難しい。要は、生活を支える経済をどれくらいリスクのあるものにしていくか。そういうこととのトレードオフになってしまうのが、エネルギー問題の難しさだと思います。

 

宮崎 では、手を挙げた方がお二人いらっしゃるので、まとめてお聞きしましょう。

 

講演の様子 会場B 先ほど澤先生から供給責任の話があり、大変意を強くしました。電力自由化の問題点をはっきりと指摘した新聞はなく、澤先生が初めてでした。日本は基本的に地産地消で、その地域で電力をまかなって万が一足りない時は助けてもらうという弱い連携しかありません。ですから、日本の場合は電力自由化によって電気が足りなくなると思っていましたが、澤先生から意見が出て意を強くしました。電力自由化の問題が出たときは、ぜひ供給責任について強調していただきたいと思います。

 

会場C 立地村から来ました。私は昭和55年頃から身体を張って立地運動をしてきました。先ほどご質問の方は、立地村の住民の理解があればこそ、今日の豊かな生活ができるということを忘れているのではないかと思います。

 日本のエネルギー資源は4%しかありません。豊かな電力があるのは原子力でまかなっているからで、泊発電所3基で207万kW、全体の40%を供給できる電力設備が立派に成り立っていますが、今の政治情勢で止められているという現状は、私としては情けない気持ちでいっぱいです。

 大学の先生にお願いです。私は科学技術というものに対して、それに携わっている従事者を信頼するしかないと思っています。今までは不備もあったかもしれませんが、これからは絶対安全な原子力発電にしていくという決意をお願いしたい。先生の師弟にも良い教育をなさっていただきたい。そして、ぜひ科学技術に携わる人たちを信頼しようじゃありませんか。

 

宮崎 ありがとうございます。奈良林さん、ぜひお願いします。

 

奈良林 ご声援いただいたことをしっかり肝に銘じて、学生たちをしっかり指導していきたいと思います。私は今、1年生を教えていますが、大学の全学部から学生が来て、私の講義を取っていただいています。原子力は非常に分野が広く、理系の学生だけではありません。マスコミ志望の場合は文学部、原子力の法規制について制度設計をするのは法学部などさまざまです。ですから、すべての学生に原子力の基礎と目標を明示し、それに立ち向かってくれるようにしたいと思います。では、図をご覧いただけますか。

一瞬の化石燃料時代

 私たちが使っている化石燃料は、ワットの蒸気機関の時代から始まり、あと150年くらいでなくなってしまうといわれています。3〜4億年もかけてできた太陽の恵みの化石燃料を、人類はわずか300年で使おうとしていて、これは100万倍の浪費をしていることになります。

 では、暮らしの中で電気を節約すれば何とかなるのか。例えば病院に行くと、保育器に入っているお子さん、透析をされている方などがいて、病院の電気が止まったら大変です。電車もエスカレーターも、大量の電気を使って人を移動させているわけです。ですから、基幹電源として重い役割を持つ原子力を、より安全なものにすることが大切です。

 それにはまず、発電所が津波でコントロールできなくなるようなことがないように、高台の電源車などの受電設備をしっかりさせておくこと。また、耐震設計によってマグニチュード9.0でも重要なものは壊れていなかったので、そうしたことを含めて安全性を高めていくこと。万一に備えて、深層防護としてフィルター付きベントのようなものをちゃんと用意しておくこと。そういうものを多重に組み合わせて発電所の安全性を確保することが大事です。

 万一事故が起きても、地元に迷惑をかけるような発電所ではいけない。こういうことを日々教え、安全性向上のために学生たちに取り組んでほしいと思います。

ページの先頭へ
  9/10  
<< 前へ戻る (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) 続きを読む >>