北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2012
エネルギー政策を考える
   〜エネルギー選択と社会・経済の行方〜

(10-8)

エネルギーシンポジウム2012『原子力発電 再稼動と電力供給』

原子力のあり方を探るいくつかの視点

宮崎 奈良林さん、この冬に電力が足りるかどうかが気になりますが、どうなんでしょう。

 

奈良林 先日の報道によると、北海道電力はこの冬の電力供給予備率として5.8%を確保すると発表していました。ただし、それにはいろいろな前提条件があります。

奈良林 直 氏 北海道と本州を結ぶ海底ケーブルのことを「北本連系設備」と言いますが、ここには30万kWのケーブルが2本通っていて、うち1本が先日切れてしまった。それだけで30万kWの電力がなくなってしまいます。また、道内の火力発電所はフル稼働に入りますが、30万kW級、60万kW級の火力発電所が一つ止まると、先ほどお話ししたニューヨークの大停電のようなことになりかねません。

 もしも似たようなことが起きたら、どこかの領域は電気の供給を止めなければなりません。そうしないと発電機や変圧器が焼損して大停電になるからです。こうなると、復旧するにはものすごく時間がかかります。北海道の冬は非常に寒く、停電したら凍死者が出るというくらい厳しい自然環境の地域ですね。ですから皆さん、今年の冬は油断せずに、使い捨てカイロやカセットコンロなど、急場しのぎの暖房を用意しておくことが必要だと思います。石油ストーブだって100Vの電気がないと動きません。オール電化のマンションも全部止まってしまいます。他の地域に比べて北海道は非常にリスクの高い地域です。最も電気を必要とする冬をこれから乗り切らなければいけないので、ちょっとした準備はしておくことが大事だと思います。

 

宮崎 昨年の地震直後に、首都圏では計画停電がありました。地域ごとに何時間ずつか消していくと、例えばこちらが停電のときは電子メールが送れない。復旧したから送ろうと思うと今度は向こうが停電など、情報の流通にも関わってきます。経済社会に及ぼす影響は直接的・間接的にも広範囲だと思いますが、この点について小沢さんいかがですか。

 

小沢 電気による産業がこれだけ行き渡ってしまって、いざ電気が足りなくなれば、そのリスクは背負わざるを得ないと私は思います。

 先ほど「革新的エネルギー・環境戦略」について話し合いました。「2030年代に原発ゼロにするために再生エネルギーに変えていく」という考えが馬鹿げているという話も出ました。政府はなぜこういうものを出さなければならなかったか。もしかすると選挙目当てかもしれませんが、「原発ゼロであってほしい」「できれば安全で大丈夫だというものを見つけ、それを実現してほしい」という考えが国民の中にあるから、こういうものが出てくるんだと思います。それを考えると、冬に厚着をしてでも、メールが使えなくて不便でも、私たちはそのリスクを引き受けて乗り越えていくしかないでしょう。

講演の様子 外国に行くとよくわかりますよ。先日私は同世代の友人と海外に行きましたが、友人が「シャワートイレはないの?痔になりそうだ」と言うので、私は「あなた原発反対だったんじゃないの?」って言ったんですけど(笑)。重い物を持って、エスカレーターのない駅の階段なんかとても登れません。そういう生活に慣れすぎているから「電気がないと大変だ」と思うのかもしれませんが、果たしてどこまで大丈夫なのか、一度やってみたらいいと思っています。私もあえて、ヒーターを買わずに寒さを我慢する生活を送っています。体験したうえで、もう一度知恵を出すことが大切だと思います。

 

宮崎 自由と責任のバランスについても考えなければなりませんね。

 

質疑応答

宮崎 ここで、会場の皆さまからご質問をお受けしたいと思います。3人の先生方に答えていただこうと思いますので、コンパクトにお願いします。

 

会場A 札幌在住の土木大好き人間です。エネルギー問題について考えるとき、まず経済発展が大事か、人類の生存が大事か、そのあたりから考えないと解決策は出てこないのではないでしょうか。現在の原子力エネルギーを人間が制御できるのかどうか。本当に安全ならば、都会の真ん中に建てれば送電ロスも少なく済むだろうと思います。将来世代に対して責任ある行動を取るのが我々大人の役目ではないかと思いますが、どうでしょうか。

 

宮崎 まさにそうですね。そういうお話をしてまいりました。では奈良林さん、もう少しわかりやすくお話をいただきましょう。

 

奈良林 では、私からご説明します。

欧州の干ばつと猛暑

 これは欧州の干ばつです。2003年と2006年、ドイツのドレスデンは熱波に襲われ、このように川が干上がってしまいました。気温は48度まで上がり、この2年間で5万人がヨーロッパで亡くなりました。私は、これは二酸化炭素の影響だと思います。だんだん気候が粗豪になり、南極や北極の氷が溶けています。

 もしも「原発はダメ」と根絶やしにしてしまうと、真綿でゆっくりと首を締めるように、私たちは温暖化の影響を受けることになるでしょう。今までは温暖化防止に向けて一生懸命やってきたはずですが、原発事故が起きたことで、二酸化炭素削減をしなくていいわけがない。ですから、安全性を高める努力を徹底して、原子力を放棄しないという考えが私は必要だと思います。

 女川でも福島でもそうですが、地震によって重要なものは壊れていません。受電設備の碍子が折れたということはありますが、重要なものが壊れずに済んだのは、きちんと耐震補強工事をしていたからです。飛行機は空を飛び、車は高速道路を走っています。技術をしっかり高めれば安全性は向上していきます。そうしながら、万一のリスクに対する備えを持っているということが一番大事だと思います。

事故を自然冷却で収束させる原子炉

 また、ご紹介したいものとして、こういう原子炉があります。これは、万一の事故が起きたときに原子炉の中に水が流れ込み、自動的に原子炉を冷やすしくみです。ですから、消防車がなくても、原子炉が自分で冷やして事故を止めてしまう。水浸しになるので直すのは大変ですが、こういう原子炉が開発されていて、中国やアメリカで建設が始まっています。このような原子力発電所なら将来は都市近接立地も可能になると思います。

 私は「今後は新規を認めない」という考えは間違っていると思っていて、安全性が担保できない古いプラントを新しいものに替えていくべきだと考えています。それで初めて安全性が高まります。そういう努力をやめてしまったら、老朽化したプラントを40年間、我慢して使い続けなければならない。ですから、今の原発ゼロ政策は非常に危険だと思います。

講演の様子

 

小沢 先ほどの方がおっしゃったことに関連して、まだ議論していないことがあると思いました。というのは、原子力に反対する方々の中には、「技術的に欠陥があった」「行政的あるいは経営的なミスが重なった」という考え方が一つあると思います。これについては改善策を見つけやすいですね。しかし、別の反対理由として「人類が制御できないものを使うのは間違いだ」という考え方もあります。これはどうしたらいいのでしょう。本当に、この世に存在させてはいけないエネルギーなのかどうか。

 以前、私は「原子力文化」の寄稿として、「人災だと言われればまだマシだ」と書いたことがあります。つまり、いい加減な人たちがとんでもない失敗をしたのが事故の原因だというなら、それはいかようにも直せるんです。しかし「こんなものをいじくり回すのは、神をも恐れぬ仕業であって、絶対無事では済まないんだ」という論理になると、私も立ち往生してしまいます。誰とどんなふうに討論したらいいのか、方法が見つからないからです。

 また、先ほどのように「原子力が安全ならば都会に持っていけばいいじゃないか」とおっしゃる方はたくさんいます。でも、私の知る限り、そもそも原発は過疎地域の企業誘致対策として始まっています。その最初が福井県でした。反対があったのに無理やり建てたわけではなく、地元の方々が「原発だったら来てくれる」ということで誘致したのです。

 原子力について考えるとき、例えば「北海道で冬の厳しい寒さをどう乗り切るか」という身近な視点から、原子力のあり方を見極めていくような議論が必要だと思います。また、建設中の大間発電所では活断層が見つかったそうですが、いたずらに騒ぎすぎず、もっと冷静に議論ができたらいいのにと思います。

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