北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2012
エネルギー政策を考える
   〜エネルギー選択と社会・経済の行方〜

(10-5)

エネルギーシンポジウム2012『革新的エネルギー・環境戦略』と原子力

3.11の教訓をどう生かすか

奈良林 現在、泊発電所では炉心の注水を強化したり、津波が来ても各部に水が入らないようにしたりなどの処置をしています。実は私は、原子力安全・保安院の意見聴取会に委員として出席して、「防潮堤も水密扉も皆、海抜15mで揃えると共倒れになるので、もっと重要なポンプ室などを高くしなければいけない。」と指摘しました。その後調べたところ、意見が反映されて20m、24mと止水対策範囲を上げていました。ですから、北電もしっかり安全性を高める努力をしています。

 原子力発電所の安全性のためには、たゆまぬ努力をしなければいけない。これが世界共通の認識です。各電力会社がしっかりやることによって、初めて安全性が担保できることになります。

泊原子力発電所の安全対策強化

 このガスタービン電源車は4000kV/Aあり、日本最大級です。実は、3.11が起きる前に北海道電力が所有していたものです。

 北海道で雪が降って架線が切れて停電が起きると、凍死する人が出てしまう。そうならないように、このガスタービン電源のトレーラーが走っていって電気を供給し、停電を止めるしくみです。自然災害の厳しい地域でこういう備えができているわけですね。このガスタービン電源車は標高31mのところに配備してあり、送電・受電の開閉所は標高85mにあります。

泊発電所の耐津対策事例

 泊発電所では現在、津波によって海水が入らないように分厚い止水ドアを設置しています。福島の事故の教訓を生かし、電気を確保することと、海水が中に入らないようにすることで津波は防げます。これらをしっかりやることが大事だと思います。

抜本的対策:フィルター付きベント

 もう一つ、私が去年からずっと主張を続けていることとして「フィルター付きベント」の設置があります。チェルノブイリ事故のあとにヨーロッパで放射能が降った国々は、フィルター付きベントを設置して、万一原発が事故を起こしてもフィルターで濾して外に出さないというしくみを持っています。フランス、ドイツ、スイス、フィンランド、スウェーデンでは、ほぼ全部の原発に付けていました。ところが日本は付けていなかった。このことが、地元の方々にご迷惑をかけてしまった最大の原因だと思います。過酷事故を想定して、しっかりした備えを行っておくことが大事です。

奈良林 直 氏 このフィルターを通すと、放射能は100分の1〜1000分の1になります。暫定基準値の5倍というのが100分の5あるいは1000分の5であれば、福島があれほど風評被害にさらされることはなかったと思いますので、これが私が指摘している我が国の規制と事業者の大きな反省事項です。

 昨秋、九州で行われた原子力学会の席で、私はフィルター付きベントについて発表しました。会場からは「なんでそんなものを付けるんだ」と野次が飛びました。しかし、これについてずっと主張を続け、国は今年1月、「フィルター付きベントを法制化して付けるようにする」と宣言。それを受けて電事連も同じく宣言しました。北海道の原子力発電にももちろん付けます。こういう備えをしておくことが、原子力発電所にとって重要なことです。原子力規制委員長は、このような重要なことも推進しないで、ロクにチェックをしていない放射性物質の拡散解析を公表して、地元を不安に陥れています。

フランスのショー発電所

 海外の視察にも行きました。これはフランスのショー発電所で、銀色の碗を伏せたような形ですが、中にフィルターが入っています。

海外の地震・津波対策(米国)

 もう一つ、サンフランシスコのデュアボロキャニオン発電所があります。冷却に必要な海水ポンプに大きな太い鋼鉄製のシュノーケル管を被せて津波が来てもポンプのモータが濡れないようにしています。海水浴のときに使うシュノーケルと同じ原理で、上に2つ穴が開いているところは空気が出入りするところで、モータは空冷されています。このポンプ室の扉は船のハッチのように水密化され、海水が入らないようになっています。このように、津波を想定してしっかりした対策を海外では取っていたのです。

 3.11がなぜ起きたかということを真剣に反省すると、海外でやっていることを日本できちんとやっていなかったことだと思います。

 では、それは何に起因するのか。規制も甘かったと思いますし、電力会社の方々が津波でこんな過酷事故が起きると考えていなかったこともあると思います。また、我々のように大学にいる人間が「フィルター付きベントを付けなくてはいけない」ということを主張し続ける必要があった。そういうディスカッションをして常に原子力発電所の安全性を高める努力をしておかなくてはいけなかったと思います。

福島第一原発事故の原因と対策

 ここに福島第一原発事故の原因と対策を示しました。まず(1)受電設備がしっかりしていること。(2)津波で水が入って非常電源が使えなくならないようドアを水密化すること、高台に電源車・配電盤・バッテリーを用意すること。(3)原子炉が空焚きにならないよう、注水ができるようにすること。(4)格納容器が破損して放射能を外に出さないようにベントをしっかりすること、フィルター付きベントを付けておくこと。こうしたことが重要な対策だと思いますし、これらをしっかりできた原子力発電所は、再稼働をするべきだと思います。

 最後に「立ち遅れた原子力規制」と書いてあります。私も言わせていただくと、民主党のマニフェストに「原子力規制委員会を作る」と書いてあるんです。私はテレビの対談で細野原発担当大臣に聞きました。「なぜ民主党は、マニフェストにある原子力規制委員会を先にやらなかったのですか。早くやっていれば、もっと的確な指示が出せたでしょう」と言ったら、「あれはマニフェストの付録です。本文に書いてあるわけじゃない」と答えました(笑)。

 首相がヘリコプターで物見遊山に発電所を見に行くのじゃなく、事故当日にバッテリーと衛星携帯電話を積んでヘリコプターで運べば、私は福島の事故はその時点で終わったと思います。海外で当たり前にやっている防災の備えを日本でしてこなかった、それが大きな反省事項だと思います。

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