北海道エナジートーク21 講演録

 
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北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2012
エネルギー政策を考える
   〜エネルギー選択と社会・経済の行方〜

(10-4)

エネルギーシンポジウム2012『革新的エネルギー・環境戦略』と原子力

世界各国のエネルギー情勢

宮崎 小沢さんのお話のように、エネルギー政策を大きな視点で考えていくためのお話を、奈良林さんにお願いしたいと思います。エネルギー問題は、昔から安全保障や安定供給に絡んで非常に政治性を帯びた問題であり、国家ビジョンそのものともいえます。奈良林さん、お願いします。

 

奈良林 では、画面を見ながら説明させていただきます。

マレーシアのクアラルンプール

 これはマレーシアのクアラルンプールです。マレーシアは天然ガスの輸出国ですが、最近ではこうして高層ビルが建つなど国内需要が増え、天然ガスが輸出できなくなってきました。つまり、売る商品がなくなると国の経済が成り立たなくなることから「原子力発電所を作りたい」という要望があり、去年、大勢の先生と一緒に原子力の教育に行ってきました。

 ここでは、2004年にスマトラ島沖地震による津波を経験しています。学生たちに討論をしてもらい、「津波に強い発電所を考えてみなさい」と課題を出しました。すると、杭を打って洋上発電所にして、津波が下を通り抜けるような発電所のアイデアを出してきた学生たちもいました。ですから、若い人たちに、しっかりとした発電所を作る必要性や安全性を高める工夫について教えれば、必ずそうした期待に応えてくれる人材が今後出てくるだろうと思います。

サウジアラビアの石油生産量と消費量

 サウジアラビアは日本が最も多く石油を輸入している国で、私はこの国にも原子力の教育に行きました。サウジアラビアは現在、年率2%の割合で産油量の増産に励んでいます。ところが、他の資源国と同様、サウジアラビアも経済発展が著しく、年率8.7%で国内石油消費量が増えていて、2028年には消費量が生産量を上回ってしまうだろうといわれています。つまり、世界最大の産油国が石油を輸出できなくなってしまう。従来、原子力は石油のライバルだったけれども、今や「原子力を友達にしないと国が成り立たない」というのがサウジアラビアの現状です。

 先々週は、アラブ首長国連邦に行きました。この国も同じような状況で、サウジアラビアとアラブ首長国連邦の分を足しただけで、日本が輸入している石油の50%以上を占めます。そのように、産油国は必死に原子力発電所を作ろうとしていて、そのための技術師やエンジニアなどを育成しようと励んでいます。

シェールガス:地下水くみ上げで地震

 これはスペインです。シェールガスは、シェール層という頁岩の部分に閉じ込められているガスのことで、ここに水圧をかけて割ってガスを取り出します。アメリカでは今、シェールガス採掘がブームですが、そのために地下水の汚染が著しいといわれています。つまり、岩を薬品で軟らかくして水圧で砕くので、地下をメチャクチャにしてしまうわけです。

ショーン・レノンさんがシェールガス反対

 「こんな地下汚染は大反対だ」と唱えているのが、ジョン・レノンとオノ・ヨーコの息子、ショーン・レノンさんです。どんな技術開発にも光と影があって、特に影の部分をしっかり認識する必要があります。その意味では、原子力もしっかり反省をしなければいけません。光と影、両方の部分を理解したうえで、影の部分の対策を講じる必要があります。

これからのエネルギーの本命は?

 この図のように、様々な再生可能エネルギーの必要性が叫ばれて、今や多くの国民が過大な期待を寄せています。太陽光、風力、バイオマス、水力、地熱、原子力とありますが、原子力は事故を起こしたためにバッシングに遭っています。水力はもともと活躍していたエネルギーといえます。

ドイツの再生エネルギー

 中でもバイオマスは、ドイツでそれなりにうまくいっています。風力も風が強いのでうまくいっていますが、太陽光はものすごい金食い虫です。ドイツでは、原発とほとんど同じぐらいの太陽電池パネルを敷き詰めました。ただしコストは10倍。「kW」で比較すると、原子力と太陽光の設備容量は互角ですが、実際の発電電力量として「kWh」で比較すると、原子力は22%、太陽光は2〜3%です。つまり、原発の10倍のお金をかけて出てくる電気が10分の1ということは、100倍コストが合わないという意味です。これでは電気代が上がりすぎるので、ドイツでは太陽光発電の抑制を開始しました。

太陽光買取価格大幅引き下げ法案可決

 ドイツでは、太陽光の買い取り価格を大幅に引き下げる法案が可決されました。太陽光は金食い虫で、あまりに焦って導入しようとすると電気代が上がり、国の経済に影響があるということです。

 これは日本経済新聞の報道ですが、例えば朝日新聞はこういうことをしっかり報道しないですね。私は報道の公平性が欠けていると思います。朝日新聞は社説で脱原発宣言をしています。原発を叩く報道はするけれども、太陽光については“行け行けどんどん”で、例えばシェールガスや太陽光の影の部分についてしっかり報道していません。ですから、これによって読者が錯覚に陥ってしまったのが日本だと思います。もちろん、日本経済新聞以外にも、しっかり報道している新聞社があることを付け加えておきますが、NHKも太陽光礼賛です。

チェルノブイリ事故のウクライナの悲劇

 これは1986年にチェルノブイリ事故が起きたウクライナです。ここに国会議員が来て「みんな放射能で死ぬかもしれない」と言って大パニックが起き、原子力発電所の建設を凍結しました。ところが5年経ったあたりで経済破綻が起き、国民の自殺が急増しました。電力不足によって停電が起き、生産が下がり、工場がうまく動かなくなって、クビになる人が出てくる。こういう負のスパイラルが起きると、とんでもないことになります。

 ウクライナでは、天然ガスを買うお金をロシアに払えないくらいまで経済的に追いつめられてしまった。さすがに原子力を使わざるを得ないと、安全性向上に注力して原子炉を動かすことにしました。そこで、チェルノブイリ事故を起こした原子炉以外の1〜3号機を動かし、さらに3基を追加して、現在では15基が動いています。そのことにより、ウクライナでは経済がうまく回っている状況です。

 大事だと思うのは、ウクライナでは放射線検出器を大量生産して国民に配っていることです。仕入れや販売などのときに、製品に放射能が含まれているかどうかをちゃんとチェックしています。そのように、国民の健康についてもフォローしているわけです。

2003年北米大停電

 2003年には、北米で大停電が起きました。澤さんのお話にもありましたが、アメリカで電力自由化をしたら、誰も送電線に投資しなくなってしまった。投資しないことが一番利益になるからです。そういうことをずっとやっていて、送電線が弱くなったにも関わらず電気の需要が増えていった。それである日、電気が足りなくなって、一部の変電所の送電線が焼き切れてしまった。一度焼き切れると復旧にものすごい時間がかかります。そのように、ニューヨークからカナダの一部まで含めて芋づる式に広域大停電が起きました。結果、約5000万人に影響が出ました。

 今年の冬、同じようなことが北海道で起きたらどうなるか。そういうリスクをきちんと認識しなければいけないと思います。

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