北海道エナジートーク21 講演録

 
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北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2012
エネルギー政策を考える
   〜エネルギー選択と社会・経済の行方〜

(10-2)

エネルギーシンポジウム2012『革新的エネルギー・環境戦略』について検証

「革新的エネルギー・環境戦略」の概要

宮崎 皆さんのお話の中にいろいろなテーマが出てきましたが、まずはこの「革新的エネルギー・環境戦略」の中身から入っていきたいと思います。澤さん、ご説明をお願いできますか。

 

 では、お手元の資料をご覧いただければと思います。

革新的エネルギー・環境戦略(概要)

  「革新的エネルギー・環境戦略」は、政府がこれを基にエネルギー政策を進めていくというものです。ただし、論理整合的でないところがたくさんあり、説明がうまくなくても私のせいではないということでご理解ください(笑)。

 冗談はさておき、中身に移ります。これは第5章までありますが、第1章でまず「原発への依存をなくそう」ということが書いてあります。選挙を間近に控えて物事を結論づけるのが難しい時期であるにも関わらず、とりあえず「原発ゼロにする」と政治的アピール色の強い文章が入っているわけです。

 その3原則に掲げられている1番目として、40年運転制限制があります。つまり40年を超えた原子炉は速やかに廃炉にしていくということ。2番目に、規制委員会の安全確認を得たもののみ再稼働するということ。3番目に、原発の新設・増設は行わないということであります。それらにより、原発稼働ゼロを2030年代に可能にしていこうということです。

 次にあるのが、バックエンドといわれる核燃料サイクルの再処理の問題です。バックエンドについては青森県がずっと担ってきました。再処理したあと「最終的にはどこかへ持っていく」という約束があったので、青森からすれば「今それを急にやめるなんてけしからん」ということになっています。また、アメリカからも「燃料を再処理してプルトニウムをつくるというのは日本にだけ認めた話だから、急にやめるのは信義則違反だ」という話もあり、この核燃料サイクルについては「続けてやります」といった内容が書いてあります。

講演の様子 「原発をやめる一方で再処理をやり続けるということが、どうして成り立つのか」といろいろなところから指摘されていますが、政府はこれについて整合的な回答がないという状況です。

 詳しくは触れられていませんが、このバックエンド事業については「国も責任を持つ」と書かれています。今までは完全に民間、電力会社がやることになっていましたが、国も責任を持つと書いてありますが、どういう意味なのかがよくわからない。これはとても大きな問題です。

 また、原子力事業体制と原子力損害賠償制度については何も書かれていません。何も決まっていないから書かれていないわけですが、今後、全く原子力発電を稼働しないということでなければ、バックエンドはもちろん、原子力発電所で事故が起こったときに誰が賠償責任を負うかという問題が出てきます。今までは全部事業者が負うことになっていましたが、今回の事故で、東京電力という大きな会社でも賠償リスクを負いきれないことがわかりました。他の電力会社が果たして賠償リスクを負って事業を続けていけるのかどうか、そのときに国の関与がどうあるべきかが問題になっています。

 また、第2章では「グリーンエネルギー革命」とあり、「再生可能エネルギーを積極的に入れる」ということが書いてあります。非常に野心的な目標で、これはたぶん来年度の予算要求に関することが書いてあるようです。ここにある「節電、省エネ」と「再生可能エネルギー」の両立てで消費電気を減らしていこう、あるいはCO2が出ない発電電源にしていこうとしているわけです。

澤 昭裕 氏 経済界の見方としては、第2章の再生可能エネルギーについては非現実的な想定が多すぎて、「こんな数字は達成できない」「達成しようとするとコストがかかりすぎる」という意見が出ています。原発をやめるとして、その分を本当に再生可能エネルギーで埋めようとしているのか。そのことについて誰も責任を持たないような計画とも言えない計画を作らないでくれ、という批判を強くしたわけです。

 第3章は「エネルギー安定供給の確保のために」という章です。エネルギー政策を考えるときには、本来これが1番重要なはずですが、今や安定供給は原発比率、グリーンエネルギーに劣後しています。従って、ここにある火力発電については非常に重要なポイントであるに関わらず、3番目の位置づけにしかなっていません。

 特に北海道では、今後も泊発電所が再稼働に至らないとすれば、その分を火力発電で埋めていかなくてはなりません。それによって電力が足りるかどうか、万が一トラブルがないかどうかなどが重要になってきます。そういう意味では火力発電は非常に重要であるにも関わらず、この中では地味な扱いで、メディアもあまり取り上げない。今は電力会社の現場の人が火力発電を止めないように必死に頑張っているわけですが、そういう地味な話は全然取り上げられないのが悩ましいところです。

 第4章は電力システム改革の断行です。電力システム改革とは、地域における電力会社の独占体制を競争的に変えなくてはならないということです。北海道電力だけでなく、第二北海道電力や第三北海道電力などが競争相手として参入してきて、それによって電気料金を安くしたり、設備をムダに使わないようにしたりなど、さまざまな課題を競争によって解決していこうという話です。

 競争や、自由化は良いのですが、一方で、電力を自由化し続けると、自社で余剰な設備を持つようなことを誰もしなくなるという問題点があります。例えば、北海道電力がいざというときに用意してある予備電源のようなものは、この競争状態の中ではコストがかかるだけなので誰も持ちたくないと考えるようになります。従って、予備力はどんどん小さくなっていきます。その結果、少しのトラブルによって停電が起こりやすくなったり、需要に対し供給が少なくなれば、電気料金が高騰するため、電力会社が「設備は壊れても直さないほうが得だ」と考えるようになったりなど、さまざまなデメリットも出てきます。これまで、供給義務により培われてきた現場力が失われるという懸念もあります。

講演の様子 電力自由化による大きな問題は、従来の大きな電力会社に供給義務がなくなるということです。現在は法的義務がかかっていますが、電力自由化により法的義務がなくなるので、誰が最終的にバックアップしてくれるかがわからなくなります。

 さらに、電力を自由化してしまったら、政府はそこに介入できなくなります。つまり、マーケットが値段で電源を決めるわけですから、政府がいくら「原発ゼロにしたい」「再生可能エネルギーを3倍にしたい」などと言っても、マーケットに任せようとすればするほど、電源の構成を決めていくことが難しくなる。そういう二律背反の話もあります。

 また、第5章は温暖化問題です。実はこの「革新的エネルギー・環境戦略」については原発ゼロにするということだけがメディアに取り上げられています。しかし、その背景には、なぜ原発が増えたかという問題が残っています。それがCO2問題です。

 日本では大震災以降、地球温暖化に関しては関心が薄くなっていますが、世界では温暖化問題は非常に大きな問題として残っています。原発は安全性には問題があるかもしれませんが、CO2を出さない大型電源としては原発以外に考えられないという面もあり、原発に対する世界の認識は、危なさとともにメリットも非常に大きく、重要な電源として考えられています。そうした中で、日本は国家戦略として原発をなくしていくことを高らかに謳っているわけですから、逆にCO2が増えていく道筋ともいえます。では、CO2が増えることをどう解決すればいいのか。節電や再生可能エネルギーだけでできるかというと、なかなか難しい。

 2009年、当時の鳩山総理が1990年比でCO2を25%削減しようと目標を立てました。そのために日本の電気の5割以上にまで原子力発電を増やそうと決めたのも民主党政権です。それを「原子力をやめよう」と突然逆のことを謳うわけですから、25%削減という国際的な目標をどうするかが悩ましいということも含めて書かれています。これが全体の構造です。

 このように「革新的エネルギー・環境戦略」は結局、いわゆる原発推進派あるいは原発反対派の人から見ても中途半端なので、両方から批判を受けているのが現状です。また、いろいろな矛盾が含まれているので、事業者やユーザーから見ても結局、どうしたらいいかがわかりにくい。例えば北海道に進出したい会社があるとしても、そこに工場を作って雇用を生み、設備投資をして、事業を10年間続けていくことができるのかどうか。電気料金は一体いくらになるのか。そういう見通しが立たないわけです。

 先ほど電気料金の話はしませんでしたが、なぜしなかったかというと、この戦略の中では、「経済的な負担についてはあとで説明します」と書いてあり、電気料金については明らかにされていません。電気が量的に足りるのか、コストがいくらになるのかについてはまったく触れていない戦略ですから、それ以上は何も読み取ることはできません。

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