北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2012
エネルギー政策を考える
   〜エネルギー選択と社会・経済の行方〜

(10-7)

エネルギーシンポジウム2012『革新的エネルギー・環境戦略』と原子力

原子力の安全性はどうしたら高められるか

宮崎 緑 氏 宮崎 わが国では「安全・安心」とひとくくりにする傾向がありますが、この2つはまったく違うものですね。安全は技術で追求するものですが、安心は心理です。その乖離がこういう政策に至ってしまったのかなと思います。

 奈良林さんは早くから安全対策に取り組まれてきましたね。安全のための技術はあるのに、日本でなぜできなかったのか。技術者としても研究者としても悔しい思いをされているのではないかと思いますが、いかがですか。

 

奈良林 私は昨年3月11日から悔しくてたまらないです。先ほどお話ししたフィルター付きベントについて、原子力学会の200人の前で発表したら、会場から「なんでそんなものを付けるんだ」と野次が飛ぶんですよ。原子力の専門家が集まっている学会の中でさえ、私は「原子力 ムラ」の存在を感じてしまいました。

 それから、澤さんが先ほど「電力自由化によっていろいろなことがおかしくなった」とおっしゃっていました。私は研究所にいたからよくわかりますが、電力自由化が始まってから、原子力の安全を高めるための研究費がゼロになってしまいました。

 つまり、電力会社の社長になる人は事務屋さんで、コストダウンをして会社の利益を最大にする人が幹部になれるようになってしまった。特に東京電力などの大きな電力会社はそうだと思います。ただし、ここで言うコストダウンは、正しいコストダウンではありません。例えば、フィルター付きベントの必要性を考えるときに、余計なコストと見るか、必要経費と見るか。実はこういう安全に直結するお金をケチったために、大事故が起きてしまったのです。

 取り返しのつかない10兆円ぐらいの損害ですし、地元をはじめ今まで協力してくれた方々のご恩を仇(あだ)で返すような、とんでもない事故です。いくらお金を払っても取り返しがつかないくらいです。目先の利益を上げるために、安全性を高める努力をやめてしまった。私はそこが一番大きな問題だと思います。

奈良林 直 氏 また、今回の事故ではバッテリーがすぐ上がってしまいました。外部電源が喪失したときに、バッテリーが8時間でいいと誰が決めたのか。それを前の安全委員長の松浦さんに聞いたら、「我が国では、『停電が起きても、すべて30分以内に復旧しているので、原発のバッテリーは8時間分の設備を用意しておけば大丈夫です』と電力会社の人たちに取り囲まれて、厚さ10cmくらいの資料で説明され、そうだなと思ってしまった」とのことです

 しかし、よく考えてみれば、鉄塔や受電設備の碍子が地震で壊れ、あんな津波が来てモータや配電盤が海水でショートしてしまったら、30分以内に復旧するわけがない。どうしたら安全性を高められるかという議論については、反対派の方々も参加して安全性を高める議論をするべきだったのではないかと思います。

 アメリカでもヨーロッパでも、「公聴会」と称していろいろな立場の方々が出てきて、地元の発電所をどうやって安全にするかという議論が行われています。ところが日本では、反対派の人は「原発反対」と言い続けるだけで、原子力発電所の安全を高めるための議論には絶対乗ってこない。原発が安全になると反対する理由が無くなるので、安全になると困るのです。一方、原子力発電を推進する人たちは、反対派の人たちと対話しようとしません。対話会や説明会をやれば、反対派は野次と怒号で混乱に陥れるだけだからです。冷静に、真剣に、原子力の安全性を高めるためのディスカッションを30年間できなくしてきたことが、我が国で今回の事故を防げなかった大きな要因の1つだと思います。私は「原子力 ムラ」に加えて「反原子力 ムラ」の方々にもかなりの責任があると思います。

 さらに、規制側は、原子力発電所の安全性を高めることを大前提に規制を考えなくてはならないと思います。アメリカはどういう規制をしているかというと、規制側にとって究極のセーフティゴールは、人と環境を守ること。つまり「人を放射能にさらしてはいけない」「町や村や森林を放射能で汚染してはいけない」ということです。電力会社のセーフティゴールも、人と環境を守ること。ですから、アメリカはコストダウンではなく、人と環境を守るために、規制側も電力事業者も共通の目標に向かって共に努力しています。

 規制側は、それがきちんと行われているかどうかをチェックする構図です。安全を怠った事業者や事故を起こした事業者がいたら点数を下げ、ランクを下げます。しっかり安全に取り組んでいるところは、良い点数を付けてランクを上げます。ランク分けして公表もしているので、成績がいいところは、株価で高い評価を受けます。経営者は皆、株価を上げたいので、アメリカではしっかりした安全対策を取るというしくみができているわけです。

 日本は単にコストダウンを掲げ、短期の利益を上げることに気を取られているので、そうした究極の目標に向かって努力できるしくみになっていません。新しい原子力規制委員会ができましたが、すべてが安全を高めるための努力になるような規制を進めてほしいですし、電力会社の人たちは安全という目標を共有し、それに邁進していただきたいと思います。

 

安全を安心に変えるコミュニケーション

宮崎 先ほどデモの話が出ましたね。市民運動というのはとても尊いと思いますが、事実に基づいた冷静な議論というよりは、イメージに流されて横並びになりやすい面もあります。小沢さんはどう思われますか。

 

小沢 私は、原子力賛成の人たちが「安全な原子力をよこせ」と文句をつけるためにデモをやる時代になってほしいと思いますよ。

 今の構図は、原子力に賛成だと思っている人が電力会社と仲良くし、政府と仲良くし、たくさんお金をもらってきて、地域にばらまいて偉い人になっている。そういう人たちは、原子力を反対している人たちに対して「馬鹿め、何もわからないくせに」と思っている。この構図はとても残念だと思います。

 むしろ、需要している人たちが先頭に立って、「頼むから原子力を安全にしてくれ」と言わなければいけないと思います。

 

宮崎 そういう意味では、今度できた規制委員会に期待していいのかどうか。この先もう少し見極めなければと思いますが、澤さん、いかがでしょうか。

 

 今回の東電の事故もそうですが、「国の安全基準を守っていればよい」と事業者側が考えているようでは、やはりダメだろうと思います。国の安全基準というのは最低基準であって、事業者としてはもっと上の基準をやるべきだという心構えが、地元にわかるようにしてもらわないと困るわけです。

講演の様子 そのために非常に重要なのは、国の安全基準ではなく自主基準をどう作っていくかということ。そうなると、同じ加圧水型軽水炉であっても「泊発電所は他の発電所とはこう違うんですよ」と安全面での理由がきちんと言えないといけないと思います。今までなら、他の発電所と比べ合うことはタブーだったはずですが、そういう時代じゃない。それくらい安全性を高める努力をするべきだと思います。

 私が奈良林さんとちょっと違うのは、事故の原因はハードよりもヒューマンファクターだと思っているからです。東電が、事故時のテレビ会議の映像を公開しましたが、あれを見ると、関わっている人たちがあまりに緊張感がなさすぎたり、逆に慌てすぎたり、報告が曖昧だったりなど、いろいろなことが見えてきます。

 安全性を高めようとするときに、いかに想定してもゼロリスクはないわけですから、ハードに関しては限界があると皆わかっているわけです。だから、結局事故が起こったときに、最終的に人間がそれをコントロールして制御していくことが必要になります。

 例えば、原子力発電所の所長さんになる人は年功序列ではなく、きちんとトレーニングを受けた人であるべきだと思います。例えば「うちの発電所は福島とはどう違う」ということについて、あの事故調査委員会の報告書を丹念に解説しつつ、ここが違うと説明できるかどうかですね。「安全性を高めるために、うちの所員にはこういうトレーニングをしています。皆さん見に来てください」と胸を張れるかどうか。

 ハード面ばかり強調して「こんなに設備が揃っています」と言われても「ああそうですか」と思うだけですが、人が動いているところを見ると、安心だと思えるものです。そのように、コミュニケーションのしかた、安全対策のしかたについて、原子力発電所が変わらないとダメだろうと思います。

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