エネルギー講演会
「地球温暖化をめぐる国際情勢と日本の課題」
(10-2)
●「2030年45%減」の意味合いは何か
そういった動きに非常に大きく寄与したのがグレタ・トゥーンベリさんをはじめとする若手の環境活動家であります。彼女たちは「もっと野心的な行動を取らなければいけない」と、パリ協定で最も野心的な1.5℃目標を主張し、いまや国連のアントニオ・グデーレス事務総長を含め、国連が中心になって「もう2.0℃ではない、1.5℃だ」と旗を振っているわけです。
1.5℃を達成することになると、今世紀後半のカーボンニュートラルでは全然足りなくて、2050年にカーボンニュートラルを達成しなければいけない。そのためには、いまから8年後の2030年に地球全体で45%ぐらいの削減が必要だという数字も出ています。
これが何を意味するかというと、実は2020年、世界はコロナに席巻されて、世界中の都市がロックダウンされ、飛行機は飛ばない、経済も低調になる、当然エネルギー消費も減るということになり、世界全体のCO2の排出も2019年から2020年に比べて5.8%減りました。
ところが、2021年にまたリバウンドしていますので、そこから出発して2030年45%減をしようとすると、これから毎年7.3%ずつCO2を削減しなくてはいけなくなります。世界全体がコロナで席巻された2020年ですら5.8%であったものを、7.3%ずつ毎年削減していくのは非常にハードルが高い。普通に考えれば不可能じゃないかと思われますが、いま国際的には「2050年カーボンニュートラル」だとされていて、そのためには「2030年に45%減」だという議論がスタンダードになっています。
ただ、これは非常に難しいです。なぜかというと、今後のCO2の排出動態のカギを握っているのは、日本でもアメリカでもヨーロッパでもなく、途上国だからです。これから世界全体のCO2排出の伸びを見ていくと、その増大分が全部途上国から出てくるわけなんですね。そうすると、途上国が温暖化をどうとらえていくかが大事になるわけです。
●気候行動に対する各国の意識の違い
この図は、SDGs(持続可能な開発目標)の17の目標で、2015年に国連で採択されたものです。貧困の撲滅、飢餓の撲滅、教育の充実、保健・衛生など世界が持続可能な形で発展していくための、さまざまな政策的な目標が盛り込まれているわけですが、その中に、下から5番目に「気候行動」が入っています。
国連は2015年以降、世界中で「マイワールド2030」というアンケート調査を実施しています。「SDGsの17の目標で、あなたにとって最も重要と思われるものを挙げてください」ということで複数回答をしてもらうわけです。
国ごとの回答傾向を見ると面白く、例えばグレタ・トゥーンベリさんの出身国のスウェーデンでは、気候行動がトッププライオリティとなるわけです。ところが世界最大の排出国である中国は、17のうちの15番目です。また、ASEANで最も人口の大きいインドネシアは9番目で、先進国と途上国の間で温暖化防止に対する優先順位の置き方が明らかに違うことがわかります。
一人当たりのGDPが低い国であれば、いまの生活水準をもっと向上させたい、もっと豊かになりたいと思うのは当然で、国を発展させるためには経済成長が必要です。経済成長を支えるために、エネルギーを潤沢に供給してもらわなければならないという思いがあるのも当然です。
しかも、そうした途上国が今後、世界の温室効果ガスの排出削減のカギを握っていると考えると、毎年7.3%を減らすということが、いかにハードルが高いかがわかると思います。
先進国は途上国と違って、いかなる犠牲を払ってでも温暖化防止のために頑張るのかというと、必ずしもそうではありません。
シカゴ大学が2019年に行った調査では、最近はアメリカでもハリケーンや山火事などの異常気象があり、アメリカ国民の間でも、温暖化問題はトランプ氏の言うような「フェイク」ではなく、本当の問題であるという認識が高まっています。10人中7人が「温暖化問題はリアルな問題だ」と認識し、「政府として何らかの対策が必要だ」という点では皆、賛成をしています。
ところが、「あなたは温暖化防止のために、月々いくら追加で電気料金を払えますか」という問いに対して最も多かったのが「月1ドル」という回答でした。「月10ドル」となると、支持する人がぐっと減って、7割近い人が反対しています。つまり、年間12ドルまでだったらいいけれども、年間120ドルになると約7割の人が反対しているわけです。
ところが、国際エネルギー機関(IEA)が2021年、世界全体で達成するミッション「シナリオ」を発表し、その中で、先進国については2025年時点でトン当たり75ドルの炭素税のようなものを負担するという前提でシナリオが作られています。
これをアメリカ人1人当たりのCO2排出量にかけると、アメリカ人が負担する金額は2025年時点で1,200ドル、2030年になると2,000ドルを超えることになります。年間120ドルの追加負担でも7割の人が反対だと言っているときに、年間1,200ドルの負担をするかとなると、これは非常に心もとないと思います。