臨界事故は原子炉の暴走?
さて、この原子炉がどのようになっているかと言うと、ここ(図4)にKという値が出ています。原子炉の特性ですが、Kエフェクティブ1.0079(Keff=1.0079)という数値を示してします。実効中性子増倍率と正確にはいいますが、簡単に言いますと、臨界状態ではK=1.0という値になります。これはどういうことかと言いますと、核分裂が起きると二つ半ぐらい中性子が出ることは皆さんもご承知だと思いますが、その出てきたうちの一つが次のウラン235にあたる状態がK=1とうことになります。ですからこれはKが1よりも0.0079多いわけですから、核分裂の量は少しずつ、一回毎に0.0079ずつ増えていきます。
どんどん原子炉の出力が上昇をしていく状態になることを示しております。状態がそのままですと上昇するのですが、核分裂が増えますと熱が出ますので、燃料の温度が上がったり、水の温度が上がったりするのがフィードバック効果、自己制御性効果といってそのうちにまたこの値もKが1になるというのは皆さんもご承知だと思います。今から自己制御効果が活躍をしてまいります。
ここにβエフィクティブを示しておりますが、今私は核分裂と同時に2.5個ぐらい中性子が出てくる、そのうちの一つが次のウラン235に当たると言いました。これ、実は嘘です。核分裂と同時に出てくるのは、2.5近いのですが、大体、99.3%はすぐに出てくるが、あとの0.7%というのは、のんびり坊主で10秒とか20秒とか核分裂が起こってから40秒とか遅れてポロッと出てくる中性子があるのです。どういうことになるかと言うと、核分裂と同時に出てくるのは、10万分の1秒ぐらいでどんどん、くるくる変わってくるわけですから、10万分の1秒で0.79%、これは複利と同じように考えます。10万分の1秒で0.8%の複利になっている、これは1秒も経ったらものすごいお金持ちになる。ところがこのβというのんびり型の中性子がいるがために、この中性子の寿命は大体0.1秒とかそんな程度になるわけです。そうすると0.8%の10乗位ですから、それほど大した値にはならなくて、この中性子があるから原子炉の運転というのは出来るのだ、制御出来るのだという話です。
ところが(図4)をご覧下さい。Kエフィクティブ(Keff=1.0079)という状態からβエフェクティブ(βeff=0.006)という遅い中性子の量を引いてやった量はいくらになるかというと、1.0019>1という、1よりも大きな数になっています。ということは核分裂が起きたら、すぐに出てくる中性子だけでもKは1よりも大きくなるということです。
先ほど言いました10万分の1秒で利子がぐんぐんついてくるような出力の状態になるということです。この状態を「原子炉の暴走」、もしくは「即発臨界状態」と言っております。
この炉心ではその可能性があったということです。ついでですが、これが全部黄色だったらどれぐらいになるのかと言いますと、Kは1.4位に設計されています。そうすると制御棒を抜いたら暴走が起るのではないかと心配になりますが、ゆっくり、ゆっくり原子炉制御棒を引き抜きながら常にKを1にするように、温度が上がっていったりすることによって、Kの1の状態を保ちながら全部引き抜くから暴走状態は起きないわけです。ということはこの黄色いところの、制御棒がどのぐらいの時間で抜けたかによって、この暴走状態が起きたかどうかということが解ります。なにしろ暴走状態が起き得る状態の大きさの炉心であったということが事実なわけでございます。
|