北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2015
「エネルギーの行方について考える」

(8-8)

今後のエネルギー問題への視点
泊発電所の再稼働への道筋

橋本 私から少し質問させていただきます。まず、小崎先生は道の原子力防災委員などを務めていらっしゃいますが、北海道の原子力防災はどのようになっていますか。

 

小崎 泊発電所の防災については、まず国がガイドラインを用意しています。そのガイドラインに従って道や地元自治体が防災計画を作ることになっていて、しっかりとしたものをいま作っているところです。いざというときの安全を確保すること、また、安心して生活できるようにすることが基本的な考え方です。

会場の様子 防災計画は、それを作っても実際に実行できなければ意味がないわけでして、訓練をかなり行っています。年に一度大規模な訓練があるほか、それ以外にも細かい訓練を頻繁に実施しています。先日10月下旬にも大規模な訓練を行い、実際にヘリコプターを飛ばしたり、船を出したりして避難の実効性を確認しています。

 内容も年々グレードアップしていて、今年は観光客をどうやって避難させるかという訓練や、病気をお持ちの方など急に逃げられないような方に、特別な施設に屋内退避していただく訓練も加えられました。道庁や地元の町村、自衛隊、警察などの方々が大変な努力をされています。

 

橋本 ありがとうございました。奥村先生にお聞きしますが、泊発電所は適合性審査をクリアして、これからどんなことが問題なのでしょうか。また、先生は再稼働までにあと何カ月ぐらいかかるとお考えですか。

 

奥村 具体的にあと何カ月という予測は難しいですが(笑)、いまのところ、基準地震動についてはこじれる理由はないのではないかと考えています。基準津波などもかなり余裕があり、安全側のものが出ているように思います。

 

橋本 もう一つ、最終処分地を国がリードして決めていくということですが、最終処分地に合うような場所というのは、地質学的に日本にはあるのでしょうか。

 

奥村 あると思います。問題なのは、その場所で火山噴火が新たに起きること。あるいは新たに断層ができて処分施設自体が断層で食い違うようなことが起きること。その二点です。

会場の様子 地下水に関しては十分な知識はありませんが、遮断ができるだろうと思います。そういう調査をすでに核燃料サイクル機構の時代から進めていて、火山活動がない場所では10〜20万年後にも起きないのです。ここ1〜5万年に突然新しい断層ができて大きな食い違いができた、という例もありません。あると主張する研究者もいますが、それは間違いです。

 地震の揺れ自体はそんなに影響はありません。要は地下にあって地震の揺れは増幅されないし、さらにベントナイト等できちんと密閉されているので問題ありません。

来場者質疑応答

橋本 それでは、会場の皆さまからご質問をいただこうと思います。

 

質問者A 竹内先生に質問です。風力発電は太陽光に比べてもコストが高い。さらに、原子力発電に比べると採算が合わないと思っていますが、いかがですか。それから、イギリスでは3分の1を石炭火力発電でまかなっていますが、2030年までに火力発電を止めると発表しました。その代替に風力発電となると、採算面で将来的にどうなのかと思っていますが、いかがでしょうか。

 

竹内 将来のエネルギー構成を考えるうえで、値段というのは一番大事な要素ですから、政府はちゃんと試算しました。

 これもインターネットに載っていますが、一番左が原子力で、太陽光は大規模用と住宅用とを二つに分けています。2014年にこういう発電所を建てて、どれぐらいのコストがかかるかを全部洗い出して分子に乗せ、生み出す電気で割ったときに、1kWhの電気がどれくらいできるかを表したグラフです。2030年に再エネの技術が進展し、もっと低コストになるであろうことを反映した試算もあります。

 イメージ的には、原子力にはさまざまな見えないコストがかかっていて結局は高いはず、再エネの方が安いと思われている人も多いかと思いますが、実は再生可能エネルギーはあまりたくさんの電気を生産してくれないので、1kWhあたりの電気の値段が高くなってしまうのです。原子力は生み出す電気が莫大なので、コストの点では優位なのです。

 日本の平均で太陽光発電の稼働率は12%です。例えば、12%しか働かない工場を建てますか。12%しか働かない人を社員として雇いますか。たぶん皆さん雇われないと思います(笑)。

 私もこういう仕事をしているので、太陽光発電について実感を持って捉えなければ皆さんにものを言うことができないと思い、太陽光発電をわが家にも導入してみました。発電量のパネルを一日見ていたこともありますが、稼働率は確かに12%程度です。さらに悪いことに、いつ働いてくれるのか、予測が難しいのです。太陽光は年間平均12%、風力発電は日本で平均すると20%ぐらいは働きます。風況のいい場所だと24〜25%働くところもあります。

 電気のコストは、かかるコストを分子に持ってきて、生み出す電気の量で割るわけですね。そうすると、1kWhの電気がいくらでできるかということが計算できます。グラフを見ていただければおわかりいただけると思いますが、確かに再エネは採算性という点では厳しいといえます。

 特に、ヨーロッパでは風力が増えているといわれますが、ヨーロッパは偏西風の地域です。日本は、爆弾低気圧が来てものすごい風が吹いたかと思うと、凪でまったく風が吹かないときもあります。そのように風況が違う国ですから、ヨーロッパでできているからといって日本できるわけではない。ご指摘の通りで、日本でのコストを考えると厳しいといえると思います。

会場の様子

 二点目のご質問のイギリスについてですが、イギリスのエネルギー政策も混沌としていて、おっしゃる通りです。いままで北海油田が出たのですが、油田が枯渇してきました。

 さらに、電力を自由化していると電源が全体として足りないという慢性的な状態があり、温暖化で高い目標を掲げたいので石炭を廃止し、原子力と再エネという低炭素電源を増やしていこうということで、固定価格買取制度のようなものを立ち上げて、原子力もそれに入れています。原子力の電気も市場価格の倍で買い取ることを条件にして、原子力の新設計画がようやく決まりました。

 ただ、久しぶりに原子力発電を新設しようとしたら、イギリスの国内には実はもう技術がなくて中国企業が参画をするということです。先日、中国の首脳が訪英していましたが、そういう理由で中国の技術を使うということです。そこで、イギリスの研究者に「中国の技術を使うんだね」と言ったら、「お金がないから仕方がないよね」と言っていました(笑)。エネルギーの安定供給や環境性、経済性を総合的に考えると、もう原子力を新設するしかないというのがイギリスの判断です。ドイツとは真逆の判断をしています。

 「同じヨーロッパの国でどうしてこんなに違う判断をするのか」という質問をされますが、イギリスの方に聞くと、ドイツは大陸の中央部に位置し、送電線が多くの隣国とつながっています。イギリスは日本と同じ島国なので、イギリスの方は「我々はドイツみたいに能天気なことは言っていられなんだから」と言います。そういう状況の違いがあるのだろうと思います。

 

質問者B 今日、三者の方々のお話をうかがうと「原子力発電は安全なんだ」というご説明にいらっしゃったんだと思います。原子力発電は問題がないと思いますが、やはり想定外というのはあり得るわけです。自然を対象にしている場合は必ず発生すると思います。その意味では、地熱資源を利用したバイナリー発電あるいは太陽の温度差を利用した太陽温度差発電というものを推進すべきではないかと思いますが、いかがですか。

 

竹内 太陽光、風力というのは再生可能エネルギーの中でも自然変動電源といって、風任せ、太陽任せというのがあります。それに比べて地熱は、地下から湧いてくる蒸気で発電をしますから、とても安定的に24時間同じように発電できます。同じ再エネでひとくくりにしていますが、大きな性質の違いがあります。地熱は安定電源として期待できる技術ではあります。

 そのようにポテンシャルはありますが、非常に難しいのは、地面の中は見えないという点です。例えば、石油の世界には「千三つ」という言葉があります。1000本穴を掘って3つ当たれば出てくる油が高く売れるから採算性が取れるという意味ですが、地熱発電で得られる成果物は何かといえば電気です。ということは、安くなければいけないわけです。高値では売れない、そんな確率ではいけないわけです。ですから、技術開発で確実に掘ったらあるというようにしないといけません。

 地熱発電もコストの点で難しいといえます。というのは、1本穴を掘ったら永久にそれを使っていられるわけではなく、温泉の付着物などで10年ぐらいしたらまた掘り直さないといけない。詰まったときのために代替策を持っておかなければならず、すごくコストがかかります。さらに、資源はたいてい山の中ですから、送電線で引っ張って持ってくるためのコストも考えなくてはなりません。自然公園の中にあるポテンシャルが多いこともありますが、コストの問題もとても大きいのです。

 「アイスランドでは地熱発電100%でまかなっているのに、同じポテンシャルを持っている日本でなぜできないのか」とよく言われますが、アイスランドは人口30万人の国です。東京都新宿区と同じぐらいの人口で、日本は1億3千万人。産業構造も違えば人口規模も違い、地熱はこれから増やしていかなければならない資源として政府が支援していますが、そんなに大規模に増えることは期待できないということはいえると思います。

 

橋本 ありがとうございました。エネルギー問題というのは時間をかけても、立ち止まることなくより良い方向に進めなくてはならない重要な問題なのだとあらためて感じました。

 以上をもちましてシンポジウムを終了とさせていただきます。ありがとうございました。

会場の様子

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