北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2015
「エネルギーの行方について考える」

(8-6)

地質・地盤の見識から取り組む
地震(耐震)対策のポイント

事故の教訓を生かすために

橋本 最後は、広島大学大学院文学研究科地表圏システム学講座教授の奥村晃史先生にご講演いただきます。テーマは「地質・地盤の見識から取り組む地震(耐震)対策のポイント」です。

 

奥村 これまでは、竹内先生から環境・経済から見た原子力発電の必要性について、小崎先生からは、安全に対する取り組みが進んでいることと、廃炉や処分への道筋もあることについてお話がありました。そういう状況で安全が確保できるのであれば、再稼働は一日も早く進めることが必要ではないかと思います。

 では、再稼働の手続きはどうなっているのでしょうか。新しい規制基準の成り立ちと、それが地元の泊原子力発電所にどう適用されつつあるかということをお話ししたいと思います。

奥村 晃史 氏 福島第一原子力発電所事故がなぜ起きたかというと、一点目には、地震動によって送電線が倒壊して外から電力供給がなくなったこと。二点目が、津波によって発電・冷却施設が損壊したこと。また、全電源を喪失しするという事態は想定されていなかったので、もしかしたら回避できたかもしれない炉心溶融を防ぐことができなかった。そのように全電源喪失、津波に対する備えがなかったことがあります。

 一方、地震動で原子炉に大きな損傷があったという指摘もありますが、その後の調査等の結論からみると、そうは思いません。マグニチュード9の地震であったにもかかわらず、地震動では数百人規模の犠牲でとどまったことを考えると、地震学者は胸を張ってもいいのではないかと思います。

 では、なぜあのような事故が起きたかというと、柏崎原子力発電所が新潟中越沖地震で緊急停止をして以降は、ほとんど強震動に力点が置かれ、津波についてはほんの少ししか議論がなかった。福島第一原子力発電所については、津波の議論がされていない時点で事故が起きています。火山については審査指針すらありませんでした。「作ったらどうですか」と原子力安全委員会で言った記憶はありますが、結果的に津波で数多くの犠牲があり、福島の事故が起きてしまった。

 それ以降、当時の心理的な状況もあって、「過大な想定にしておけば、想定外を免れることができる」という極めてネガティブな教訓が広がってしまいました。これが中央防災会議の南海・東海地震の評価です。「科学は未熟だから、すべて想定をすることは不可能だ」「福島の事故を防げなかった科学技術は役に立たない」と言う人もたくさんいます。しかし、我々は自然災害と闘っています。闘いに犠牲や想定外はつきものです。どれだけ防いだかということも評価されなくちゃいけない。先ほども言いましたが、マグニチュード9規模の災害を最小限に食い止めたのも地震学だと思っています。

2011東北太平洋沖地震津波と1896明治三陸津波の比較

 これは津波対策を表した図です。上の棒グラフの横軸には、市町村別の死者数が書いてあります。一番人数の多いところが約6000人。1896年の明治三陸津波のときには約2万人の死者が出ました。しかし、その後の津波対策のおかげで、このたび大変不幸な打撃を受けた陸前高田を除くと見事に犠牲者数が減っていることがわかります。ところが世界中から「日本の防災はなってない」「2万人も犠牲者を出すとはまったく役に立たない」と批判を受けますが、絶対にそんなことはありません。

 例えば、この赤い棒部分は、869年に貞観津波が来た地域であることを我々地質学者が地方自治体に伝えて対策を促してきました。しかし、実際にそれが行われてなかったために、釜石、仙台、その南の地域で1万人以上が亡くなっています。これを見て「なぜ科学者は自己否定をしなくてはいけないのか」と思うのは私だけではないと思います。

地震・津波に関する新規制基準の問題点

 

東北・福島後の耐震安全規制

 

奥村 そうした状況で新しい規制委員会が発足して、新しい耐震安全の規則が作られてきました。当然、ここの6番目にあるように、基準津波を作って津波にも対応する、7番目のように、それに基づいた設計をするという基準が作られ、基準地震動も従来の規則から改訂されました。さらに現在も、新基準に基づいて、断層変位や活断層、基準地震動、基準津波の審査ガイドが規制委員会によって作られています。

新規制基準(地震以外の自然現象)+影響評価ガイド

 一方、地震以外の自然現象に対する規制基準も作られました。実際には規制基準には何も書かれていませんが、火山を含む自然災害について影響評価ガイドが作られています。

 火山影響評価ガイドというのは、IAEAの特殊安全ガイド「SSG-21」に準拠して作られています。「大規模な火砕流が来るところには発電所を作ってはいけない」という排除規則になっていて、川内、泊にも適用された結果、少なくともそれはクリアされています。IAEAに新規制基準が準拠しているのは、同じ人が作ったからですが、火山を監視していれば大規模噴火に対応できるだろうということで、泊も含めて大きな問題もなく審査は進められています。

新規制基準(地震・津波)の不思議・問題点

 ところが、地震・津波に関する新規制基準には、いくつか大きな問題があります。一つは、破砕帯ともいいますが、断層変位の問題です。「将来動く可能性があるから、重要施設の下に断層等があってはいけない」ということで、敦賀や東通、北陸電力の志賀原子力発電所では、従来、誰も活断層だと考えていなかったものが活断層と認定され、新聞ではいつも廃炉という言葉が出てきて大きな問題になっています。

 また、地震動を過大に想定するようなしくみがたくさん作られています。「残余のリスク」というのは、想定外のことが起きるからそれに備えなさい、ということです。これは昔からある概念で、「いかに厳しい基準を作って大きな噴火や地震に耐えるようにしても、それを超えることが起こる可能性はある。だからこそ、それをきちんと評価して、安全に役立てなさい」と言いながら、そのために必要とされる確率論的な地震災害の評価をまったく行っていません。その結果、地震に関しては「SSG-9」というのがありますが、それと著しく乖離する規制基準になっています。

 ここ3年ぐらいの間、社会を賑わせていたのは、「将来活動する断層等が原子炉の下で見つかったから、廃炉にしなければいけない」というトピックですが、我々は地下を直接見ることはできないし、さまざまな物理探査や地震波を使って調べても地質現象はなかなかわからない。わからないものについて、黒か白か決めなさいということです。原子力規制委員会の判断は「真っ白以外は全部黒、だから灰色は黒だ」ということで進んできました。

電用軽水型原子炉施設の地震津波に関わる規制基準骨子案 平成23年6月

 さらに問題なのは、強い地震動が原子力発電所を襲うというのは、過去10年ぐらいでも日本で3、4回です。能登、女川、柏崎そしてマグニチュード9の東北と、10年間に4回起きていますが、それによって断層が動くという現象は、後にも先にも世界中の原子炉のどこでも起きていません。ですから地震動を十分検討したあとに、随伴する現象として断層変位を考えるべきなのに、ご覧のように新しい規制基準には、「1-1-1」の1行目にあります。とんでもないことです。これは、活断層を道具にして原子炉を止めようという研究者の意図が反映された結果です。その結果、破砕帯あるいは断層変位にかかわる議論としては、ある研究者が執拗に主張したにも関わらず規制委員会が存在を否定した。おそらく、もんじゅ、美浜も「活断層がない」となっています。一方で、敦賀、志賀、東通は「活断層が存在する」という評価が出てしまいました。

 可能性を推定して安全側の判断をするというのは、科学的な根拠がなくてもできます。例えば、誰かがあなたの顔を見て「おそらくガンですね」と言ったとする。可能性はあります。科学的な根拠は何も必要ない。もちろん可能性を否定することもできない。「だったら、あなたはガンです」と言われたらどうですか? こんなバカな話はありませんが、そういう議論が行われています。

 事業者がいくら調査をして、活断層がないことを示そうとしても「可能性は否定できないでしょう」ということで、安全側の判断で活断層が決めつけられています。どうなったかというと、敦賀も志賀も東通も、有識者の判断は法的な拘束力がないから、適合性の審査を申請するといって議論がこれからも続くことになります。一体、有識者による3年間の議論は何だったのでしょうか。幸い、泊発電所はこの問題をクリアしています。

 断層変位、破砕帯の問題をクリアすると、今度は、新規制基準適合性審査で地震動をどう予測するかという手続きに入ります。敷地ごとに震源を特定する、要するに活断層からの地震と震源を特定せずに策定するということです。「これはやや小さな地震だから地表に活断層がないが、ときどきマグニチュード7ぐらいの規模の地震が起きるのでこれも準備をしなさい」と。そこからそれぞれの地震の揺れを検討し、最終的に基準地震動といって、ある施設で原子炉を置いている岩盤の上でどのくらい揺れるかという想定をすることになります。

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