奥村 そうした状況で新しい規制委員会が発足して、新しい耐震安全の規則が作られてきました。当然、ここの6番目にあるように、基準津波を作って津波にも対応する、7番目のように、それに基づいた設計をするという基準が作られ、基準地震動も従来の規則から改訂されました。さらに現在も、新基準に基づいて、断層変位や活断層、基準地震動、基準津波の審査ガイドが規制委員会によって作られています。

一方、地震以外の自然現象に対する規制基準も作られました。実際には規制基準には何も書かれていませんが、火山を含む自然災害について影響評価ガイドが作られています。
火山影響評価ガイドというのは、IAEAの特殊安全ガイド「SSG-21」に準拠して作られています。「大規模な火砕流が来るところには発電所を作ってはいけない」という排除規則になっていて、川内、泊にも適用された結果、少なくともそれはクリアされています。IAEAに新規制基準が準拠しているのは、同じ人が作ったからですが、火山を監視していれば大規模噴火に対応できるだろうということで、泊も含めて大きな問題もなく審査は進められています。

ところが、地震・津波に関する新規制基準には、いくつか大きな問題があります。一つは、破砕帯ともいいますが、断層変位の問題です。「将来動く可能性があるから、重要施設の下に断層等があってはいけない」ということで、敦賀や東通、北陸電力の志賀原子力発電所では、従来、誰も活断層だと考えていなかったものが活断層と認定され、新聞ではいつも廃炉という言葉が出てきて大きな問題になっています。
また、地震動を過大に想定するようなしくみがたくさん作られています。「残余のリスク」というのは、想定外のことが起きるからそれに備えなさい、ということです。これは昔からある概念で、「いかに厳しい基準を作って大きな噴火や地震に耐えるようにしても、それを超えることが起こる可能性はある。だからこそ、それをきちんと評価して、安全に役立てなさい」と言いながら、そのために必要とされる確率論的な地震災害の評価をまったく行っていません。その結果、地震に関しては「SSG-9」というのがありますが、それと著しく乖離する規制基準になっています。
ここ3年ぐらいの間、社会を賑わせていたのは、「将来活動する断層等が原子炉の下で見つかったから、廃炉にしなければいけない」というトピックですが、我々は地下を直接見ることはできないし、さまざまな物理探査や地震波を使って調べても地質現象はなかなかわからない。わからないものについて、黒か白か決めなさいということです。原子力規制委員会の判断は「真っ白以外は全部黒、だから灰色は黒だ」ということで進んできました。

さらに問題なのは、強い地震動が原子力発電所を襲うというのは、過去10年ぐらいでも日本で3、4回です。能登、女川、柏崎そしてマグニチュード9の東北と、10年間に4回起きていますが、それによって断層が動くという現象は、後にも先にも世界中の原子炉のどこでも起きていません。ですから地震動を十分検討したあとに、随伴する現象として断層変位を考えるべきなのに、ご覧のように新しい規制基準には、「1-1-1」の1行目にあります。とんでもないことです。これは、活断層を道具にして原子炉を止めようという研究者の意図が反映された結果です。その結果、破砕帯あるいは断層変位にかかわる議論としては、ある研究者が執拗に主張したにも関わらず規制委員会が存在を否定した。おそらく、もんじゅ、美浜も「活断層がない」となっています。一方で、敦賀、志賀、東通は「活断層が存在する」という評価が出てしまいました。
可能性を推定して安全側の判断をするというのは、科学的な根拠がなくてもできます。例えば、誰かがあなたの顔を見て「おそらくガンですね」と言ったとする。可能性はあります。科学的な根拠は何も必要ない。もちろん可能性を否定することもできない。「だったら、あなたはガンです」と言われたらどうですか? こんなバカな話はありませんが、そういう議論が行われています。
事業者がいくら調査をして、活断層がないことを示そうとしても「可能性は否定できないでしょう」ということで、安全側の判断で活断層が決めつけられています。どうなったかというと、敦賀も志賀も東通も、有識者の判断は法的な拘束力がないから、適合性の審査を申請するといって議論がこれからも続くことになります。一体、有識者による3年間の議論は何だったのでしょうか。幸い、泊発電所はこの問題をクリアしています。
断層変位、破砕帯の問題をクリアすると、今度は、新規制基準適合性審査で地震動をどう予測するかという手続きに入ります。敷地ごとに震源を特定する、要するに活断層からの地震と震源を特定せずに策定するということです。「これはやや小さな地震だから地表に活断層がないが、ときどきマグニチュード7ぐらいの規模の地震が起きるのでこれも準備をしなさい」と。そこからそれぞれの地震の揺れを検討し、最終的に基準地震動といって、ある施設で原子炉を置いている岩盤の上でどのくらい揺れるかという想定をすることになります。
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