竹内 本来は「安定供給・安全保障」からお話しするべきかもしれませんが、皆さんのお財布に直結する話で、すでに大きな被害が生じている経済性の部分からお話しさせていただきます。
3・11以前、日本の電源の約3割をまかなっていたのは原子力でした。橋本さんからのご紹介にもありましたが、現在は全国でほぼすべての原子力発電所が停止しています。
実はこういう会場で「原子力は止まっていますよね」と言うと、「再生可能エネルギーが増えていますからね」とおっしゃる方が多いのです。「では、再生可能エネルギーがまかなっている電気はどれくらいだと思いますか」と投げかけると、「20〜30%」という答えが返ってきます。それくらいあればいいのですが、太陽光や風力などの再生可能エネルギーがまかなってくれている電気は2.2%です。この前年は1.6%ですから急増はしているものの、まだ2.2%に過ぎません。
では、いまの日本の電気をまかなっているのは何かというと、火力発電です。石油、石炭、天然ガスという化石燃料のいずれかを燃やして電気を作る火力発電に、日本は9割を依存しています。残念ながら、石油も石炭も天然ガスも、日本ではほぼ出ないと思っていただいて結構です。そうなると、海外から燃料を輸入するためのお金が、震災前と比べて2013年の1年間では、それまでよりも3.6兆円多くかかりました。
発電のための燃料費は、それまで年間4〜5兆円でしたが、さらにプラスして3.6兆円。あまりにも大きなお金なので、実感が湧きにくいかもしれませんが、消費税が1%上がると、国民の負担は2兆円増えるといわれています。それぐらいの規模のお金が、すでに国外に出ていくお金として使われてしまっている。消費税は国内で還流しますが、国外に出ていくお金が1年で3.6兆円増え、累積ではもう12兆円ぐらいになっていると試算されています。

そうなれば当然、電気代は上がります。全国平均ですが、家庭用で2割、産業用で3割上昇しています。これは中小企業にとっては死活問題です。日本商工会議所のエネルギー問題の委員もさせていただいていますが、そこで聞こえてくるのは悲鳴です。「日本で雇用は維持できません」とはっきりいわれます。

家計への影響も大きいです。日本の世帯別の所得分布を見ていただくと、全国平均で、一世帯の年間平均所得は537万円です。537万あれば、1カ月の電気代が1000円上がっても年間12000円ですから、吸収できる金額ではないかと思います。ただ、内訳を見ていただくと、年間所得が100万円未満の世帯は6.2%あります。100〜200万、200〜300万の世帯は13.2%ずつあります。要は、一人暮らしで年金生活をするお年寄りの世帯などでは、電気料金の値上がりがどれほど負担かということをよく考える必要があるわけです。
電気というのは、究極の生活必要品です。例えば、夫婦二人で働いていて、出張が多くて家にいないから電気を使わない、収入が多いけれども電気代は安いというご家庭があります。一方で、一人暮らしで年金生活をするおじいちゃん、おばあちゃん世帯は、一日中家にいて、夏は冷房を、冬は暖房をつけないと生きていけません。一日中家にいて使わざるを得ない、収入は少ないけれど電気代の支出は多い。そのように、収入と支出はリンクしないのです。そうした生活必需品の値上がりがどれほど低所得世帯に響くかということを、エネルギー政策では当然考えなければなりません。
震災以降、原発の問題をとらえて「命か経済か」という二者択一の議論がよくありました。「たかが電気」と言った人もいました。エネルギーのことを真剣に考えたら、私はそんなことはとても言えません。
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