北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
世界のエネルギー情勢と日本の進むべき道

(6-4)

●日本の住み良さにはコストがかかっている

日本全体を俯瞰する(5)

 これもイメージでご覧ください。国の社会保障給付額です。一番多い水色の部分が「年金」です。青が「医療」、黄色が「福祉その他」です。年金は、一部の障がい者年金を除いてほとんどが65歳以上です。医療は若年向けのものもあるので、医療費は半分が高齢者と思ってください。福祉のほとんどが、障がい者を除いて高齢者です。ですから、イメージでわかると思いますが、日本の消費税はほとんどが高齢者にいっているということです。

 年金・医療・介護というのは、家族だけではできないことを社会全体で賄う。つまり、他人任せにするということです。年金とは何かというと、リタイアした後、昔は両親の面倒を家族で見ていたけれども、核家族の今はそうもいかない。じゃあ自分で面倒を見るかといったら破産してしまうので、社会全体で少しずつ保険をかけて、みんなで見てもらいましょうというのが年金です。年金制度というのは、自分の親の面倒を他人任せにするということです。

 医療も同じです。皆さんもそうだと思いますが、病気やケガをしたときに素人に診てもらいたくないですよね。医師や看護師などきちんと資格やスキルのある人に診てもらったほうが安心ですね。そういう方々に対価を払うというのが医療保険です。これも専門家に任せるということです。

 介護もそうです。介護士に、自分が働いている間、親の面倒を見てもらうという制度です。保険として多くの人から消費税などの形で少しずつもらって、介護士などの専門家にお任せしますというのが介護保険制度です。

 教育もそうですね。私からすると、親の時間を教育に割けないので国が面倒を見てくれているということです。人任せです。でも、それでうまく回っていると思います。そのための財源です。

 ちなみに、介護の話題の延長でお話しすると、介護離職は本当に良くないと思っています。身内を介護するために退職をしてしまう。特に自分の親の面倒を見るために、自分が退職をして、親の年金で暮らしている場合は危険です。親はたいてい自分より早く亡くなるので、それと同時に年金は終わります。再就職をするのが簡単ではない世の中なので、できれば介護離職というのは避ける方策を考えたほうがいいと思い、講演でもお話ししています。

日本全体を俯瞰する(6)

 医療保険と年金保険ができたのは、1961年、今から約60年前です。年金について言えば、当時の日本人の平均寿命である男性65歳、女性70歳で死ぬという前提でつくられていました。ついでに言うと子どもも多かった。先ほどの資料にもありましたが、今は平均寿命が男性81歳。女性87歳。男性の平均寿命が65歳から81歳ということは、16年の差があります。女性の平均寿命が70歳から87歳ということは、17年の差があります。「だったら財源が足りるわけがないでしょう」と思わないですか。さらに少子化で、保険料を支える現役世代が減っているわけでしょう。だったら消費税を上げないとしょうがないですよね。

 皆さんはどう思いますか。平均寿命が男性81歳、女性87歳に延びた国というのはいい国かそうでないか。私はいい国だと思います。私の親や祖父母の世代が戦後、それだけ頑張ってきたという証しだと思います。ただし、長寿化はいいことばかりではなくて、陰の部分もあるというのが今の少子高齢社会の姿だと思います。それでバランスが取れているんですね。

 また、海外に行くといつも思いますが、日本は世界で一番清潔な国だと思います。世界で一番安全な国だと思います。アメリカなんて夜は歩けないですから。ドイツにも何度か行っていますが、怖いというより暗いですね。

 日本はいい国だと思いますよ。どこに行ってもお手洗いがきれいでしょう。公園の水が飲めるんですから。その代わりコストがかかります。治安が良いのも清潔なのも、コストがかかっています。何かあったときに復旧が早いのもコストがかかっています。日本の道路は穴ぼこがないですよね。昔、ポーランドの首都ワルシャワに行ったことがありますが、道路は穴ぼこだらけでした。あれでは事故が起きます。日本がいい国なのは、それだけコストを払っているということです。

 ちなみに皆さん、日本の女性の平均寿命は世界で一番です。男性は世界で2〜3位のあたりをさまよっています。日本と同じくらい平均寿命の長いのは香港です。意外にも、中国やアメリカは下のほうです。

日本全体を俯瞰する(7)

 社会保障費の推移を見てみます。これは1988年、1998年、2008年、2018年の日本の一般会計の推移です。このピンクの部分が著しく増えています。あとはあまり増えていません。ここが社会保障費です。日本の国の予算は無駄遣いとよく言われますが、その多くは社会保障に割かれ続けています。それを無駄と呼ぶかどうかです。

 道路や橋や堤防などは無駄だとよく言いますが、ああいうものはたいした金額はありません。わが国の財政を圧迫しているのは、我々一般国民です。長寿化が悪いとは思いませんが、僕らの年になると、親が病院で寝たきりになり、いわば生かされ続けているような状態の人がいますから、80代、90代でそれはちょっとかわいそうだなと思います。

 日本には尊厳死法制がないので、尊厳死は法律で認められていません。なかなか難しい問題だと思いますが、長寿の陰の部分というのは本質的に考えなければいけない時代が来そうな気がします。ちなみに私は「ピンピンコロリ」がいいと思っていて、自分も本当にそうしたいと思います。

●2030年、電源構成はどう変わるか

日本全体を俯瞰する(7)

 エネルギーの話に戻ります。我々の生活にとって必要なエネルギーをどうしていくか。2030年の計画が出ています。今どうなっているかというと真ん中あたりです。

 簡単に言うと、2010年、つまり震災前は、日本のエネルギーは割とバランスが取れていました。化石燃料約6割、原子力約3割、その他がほとんど水力で1割。費用的にも結構バランスが取れていました。震災前は、原子力と天然ガスをもう少し増やすという計画でした。

 ところが、震災が起きてからは天然ガスが増えてしまった。石油はそんなに増えていませんが、原子力が止まってしまったんだから、石炭と天然ガスを増やさなきゃしょうがないですね。再生可能エネルギーでは、原子力が止まった分の量は賄えません。

 なかなか信じてもらえませんが、太陽光や風力やバイオマスを原子力あるいは石炭の代替にすればいいじゃないかという人がたくさんいますが、それは無理です。そんなに資源はありません。太陽光は夜に発電できません。風力は風がないときは回りません。バイオマス発電も、廃棄物はそんなにありませんし、あっても高いです。でも、現在は原子力が止まっています。

 それで2030年まであと10年ですからどうしようかということで、再エネを22〜24%で全体の4分の1ぐらいにする。原子力が2割ぐらい。残りは化石燃料が半分ぐらい。そういうことを今やろうとしています。

 再生可能エネルギーの内訳を見ると、水力が一番大きいわけです。1割弱が水力、次が太陽光です。その次がバイオマスで、5%いけばいいぐらい。風力は2%もありません。北海道だけを見ていると風力発電はたくさんあると思うかもしれませんが、日本全体で考えると、なかなか風力の資源は採れません。お金がかかりすぎるからです。赤い部分の地熱は1%にも満たないくらいだと思います。地熱は日本が火山国なので、潜在的には資源があり、お金をかければ採れるでしょう。しかし、天文学的数字になってしまうからできない。いくらお金をかけてもいいなら、地熱だって風力だって拾えます。でも、負担額には限界がありますから、費用見合いということです。

石川 和男 氏 僕はエネルギーの専門家として講演会やメディアなどに出ると必ず聞かれるのが、「この2030年の目標は達成できると思いますか」という質問です。先にお伝えしておきます。原子力がなければ無理です。

 2030年において化石燃料は黙っていても増えるので、化石燃料の目標は達成すると思います。なぜかと言うと、原子力は政治的に難しい。再エネは技術的に難しい。政治的に難しいほうが簡単です。政治が変わればできるからです。原子力は技術的にはできますから。泊発電所も、使用前の一定期間の検査をきちんとすれば、泊発電所はフル稼働できます。しかし、人類が持っている今の技術では、再生可能エネルギーはお金がかかりすぎて採れないです。22世紀になって、太陽エネルギーや風力エネルギー、例えば海のエネルギーで潮力や波力などのエネルギーが安く採れる技術が開発されればできるかもしれません。例えば、映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で、ごみを燃料にして動く「デロリアン」という車型タイムマシンが出てきますが、ああいうものも現実のものになるかもしれません。

 今は再生可能エネルギーも原子力もしんどいですよ。それぞれ技術的な難しさと政治的な難しさを抱えています。技術的に難しいのはいかんともし難い点です。100mを8秒台で走るのと同じで今は無理ですが、我々の孫やひ孫の時代には、実現するかもしれません。

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