北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会
世界のエネルギー情勢と日本の進むべき道

(6-5)

●再生可能エネルギーの課題とは

再エネのコスト負担見直し

 再生可能エネルギーの賦課金が高いとか安いとか、それを負担したくないとか、そういう評価を私はしません。仮に評価したとしても、徴収されるのだからしかたないと思います。負担額はどう変わっていくのでしょうか。

 これは3年ぐらい前に資源エネルギー庁が出した再生可能エネルギーのコスト負担の見通しです。2030年時点で再生可能エネルギーを4分の1ぐらいにしたいと考えたときに、日本人は再生可能エネルギーを買い取るためどれくらいお金をかけるかというと、毎年4兆円なのだそうです。

 4兆円と聞いてもピンとこないと思いますので、ピンとくる数字としてこれだけ覚えておいてください。「消費税1%で日本人の年間負担額は2.5兆円」ですから、それと比べるとどうですか。4兆円というのは、消費税2%分まではいかないですが、1.6%分ぐらいに相当しますね。「2030年時点でそんなにお金を払うのか」と思うかもしれませんが、実は今年の統計を見ると、2021年ぐらいにはもう4兆円に達しようとしています。2020年は3兆7〜8千万円ぐらいですから、消費税1%分はとっくに超えています。これを高いと評価するかどうかはともかく、その分を再生可能エネルギーに投資していることは確かです。ですから、日本は決して再エネ後進国ではありません。

 再生可能エネルギーは水力・地熱・太陽光・風力・バイオマス・波力などを全部ひっくるめています。あえて再生可能エネルギーを分解していくと、日本は、水力については大国とまではいきませんが、世界8位です。でも、太陽光は世界第3位なので、大国と言えると思います。

 問題なのは風力。これはなかなかしんどいですが、しょうがないです。風況のいい適地がなかなかありませんから。専門家の話を聞くと、一般的に山の尾根は風況がいいそうです。ところが、未開の地のような、あまり人間が立ち入れないようなところばかりなので、お金がかかってしょうがないと言っていました。また、そういう場所に風車を建てたとしても、送電線がない。送電線がなければ電気を送ることができまません。だからお金がかかるらしいです。つまり、地理的事情が多いということです。

石川 和男 氏 太陽光がなぜ増えたかというと、太陽光は風力や他の発電施設に比べて簡単ですね。パネルを置くだけですから。もちろんちゃんとした設備でなければいけません。耐震基準もあるし、台風が来ることへの備えもあるし。でも、太陽光発電所を作るのに何年もかからないですよね。森林を伐って整地してからパネルを設置したり、送電線を引いたりするのに時間は多少かかるにしても、風力や地熱のような難しさはありません。だから、太陽光は流行ったんでしょうね。しかし、買取価格がバブル的に高かったので、投機筋の対象になったということもあります。結果的には現在、太陽光パネルの設置量が多いですね。

 次の問題は、太陽光パネルの廃棄をどうするかという問題です。私は東京都の太陽光パネルのリサイクル委員を務めていて、現在は検討中ですが、太陽光パネルのリサイクルやリユースは結構大変です。専門家に言わせると、現状で世界や日本で多い太陽光パネルのほとんどは、ガラスだそうです。ですから、再利用しようと思っても、一度傷がついてしまうと再利用しにくい。それを粉々にしてリサイクルやリユースができるかというと、費用的な問題でむしろ普通の産業廃棄物として捨ててしまったほうがいいという試算も出ていて、実用までにまだ時間がかかるということです。したがってその分は、廃棄コストは将来、すべて義務的に課せられますから、そうしたことを加味しながら太陽光発電を続けていくことが、そのうち認識されるようになると思います。

●ベストミックスに原子力は不可欠

 また、原子力が止まっていますが、なぜ日本が原子力を導入しているかというと、オイルショックで外国から輸入するのはどうかという事情もありましたが、やはり費用のことが大きな理由でした。石油や天然ガス、石炭の3つは海外から持ってくるとなると船賃がかかります。船賃はまけてもらえないから、どうしてもコストがかかります。天然ガスも高い。

 原子力が東日本大震災を機に止まったあと、私のようにエネルギーのベストミックスを政策として重要だと言っている人が常に言うのが、「原子力を止めてはいけない」ということです。もちろん、事故になった発電所はきちんと止めて廃炉にしなければいけません。でも、泊発電所など他の発電所は違います。

 福島第一原発事故は、津波による全電源の喪失が原因でした。地震によって福島第一原発は停止しました。福島第二発電所も女川発電所も、きちんと停止しました。停止して、津波が襲ってきて、女川は問題なく、福島第二は福島第一と同じくらい津波が押し寄せてきましたが大丈夫でした。福島第一が電源を失ってダメになりました。1〜4号機までの燃料を冷やさなくてはいけない。冷やすためには電気が必要だ。その冷やすための電源がダメになったということです。ですから、東日本大震災による福島第一原発事故の正しい教訓としては、次に同じような津波が来たとしても全電源喪失をしないように予防措置をすればいいはずです。事故調査とはそういうものです。

 私も通産省・経産省にいる間に事故の調査を何度かやったことがありますが、すべてそうです。例えば工場で火災があったとか、ガス爆発があったならば、まず原因を究明します。そして、次に同じ問題が起こらないようにするにはどうしたらいいかが基準化されます。基準が規制の条文に載ります。それをもって同じような事故は起きないだろうということで、規制の強化はおしまいです。

 しかし、日本の原子力はそうはなっていないですね。それだけやればいいものを、活断層やテロ対策などの話まで、関係ないじゃないかと思います。原子力規制委員会にテロ対策はやってほしくないです。テロの専門家じゃないですから。どうせなら専門家にやってもらいたいです。こういう声がなかなか届かないのはおかしいですよ。

 外国から言わせると、何をやっているのかということです。先日もイギリス政府に行ってきましたが「なぜ日本は原子力を止めているんですか」と真面目な顔で聞かれます。「福島第一原発が止まるのはわかります。なぜ他の発電所も止まるんですか」と向こうの人は言います。ドイツ政府に行ったときは違いました。「日本はすごい」と言いました。何がすごいかというと、「原子力が全部止まったのに停電しない」と(笑)。ドイツ政府では、いろいろな担当者が同じように「日本はすごい」と言っていました。もう一つは「あの日本人ができなかったことはドイツ人もできない」と。だからドイツでは、2022年に原発をやめようとしています。

5/6