北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2014
「これからの日本のエネルギーについて
 〜新しいエネルギー基本計画を知る〜」

(6-5)

「エネルギー基本計画」に込めた思い

橋本 では、私から3人の先生方にいくつか質問を投げかけたいと思います。

 まず、奥家さんにうかがいます。今回の「第四次エネルギー基本計画」は、奥家さんが中心になってお作りになったと聞きました。これからのエネルギーについて、いちばん伝えたいことは何だったのでしょうか。

 

奥家 「エネルギー基本計画」は3年に1回作ることになっていますが、今回は4年かかりました。これが「エネルギー基本計画」です。皆さんもオンライン書店などで手に入りますので、ぜひご一読いただきたいと思います。

奥家 敏和 氏 A4サイズで77ページぐらいありますが、前半20ページ弱は日本のエネルギー事情について説明しています。いままでの「エネルギー基本計画」は、政策しか説明していませんでしたが、今回はあえてそういう内容を盛り込んだのです。

 どういうことかと言うと、「エネルギー基本計画」を作る過程で私たちが感じたことは、エネルギーについて話をするときに、どうも共通の認識土台に立っていないのではないかということでした。皆思い思いに好きなことを言いがちです。なぜかと言うと、エネルギーというのはあまりにも多くの分野に関わっているからです。

 先ほどお話にあったエネルギーの地産地消の例にしても、実現しようと思えば、コミュニティで話をしなければいけません。ところが、コミュニティで結論を出して、ガスタービンを入れることにしたら、相手国の事情でガスを売ってくれなくなったなど国際問題が絡むことも考えられます。そのように、エネルギー問題が関係することは幅が広いわけです。

 したがって、「エネルギー基本計画」の前半20ページ弱を使ってくどいかもしれませんが、エネルギー問題はどれぐらい広がりがあって、なぜ簡単に解決ができないのかということを説明させていただいたうえで、政策の話に入っています。ここが、一つの大きいポイントです。

 エネルギー政策に奇策はありません。結局は現実的な視点に立って、バランスよく考えるしかない。当たり前のことを言っているかもしれませんが、現実的にバランスのとれた取り組みを、私たちは地道に続けていくしかない。これに尽きます。

 

橋本 エネルギー問題を解決するのは難しいというのがよくわかります。 橋本 登代子 氏例えば、私たちがダイエット計画を作るとしたら、「何月何日までこうしなりたい。そのためにはこうやって」とはっきりした道筋を立てることができますが、「エネルギー基本計画」にはあまりはっきりした提案が見えず、特に「可能な限り原子力を低減させる」というのがわかるような、わからないようなイメージを持ってしまいます。

 

奥家 原子力については、安全性に不安があるという点が大きな課題です。一方で、コスト競争力や馬力がありますから、安定的に一定期間ずっと使えます。さらに燃料の投入量は、100万kWの発電所ケースでは、10トントラック2台分で1年間回し続けられるので、燃料は国内に十分ありますので、電気を国内で作り続けられるというのも強みです。それを他のものですべて補って、原子力を全部ゼロにできるかというと、そんなに簡単ではないですね。さらに、地球温暖化がこれだけ深刻化している中で、二酸化炭素も削減しなくてはなりません。したがって、安全性を大前提に、それが確認された原子力発電所は再稼動を進めたい、としております。

 再生可能エネルギーは確かにいい。重要なエネルギー源です。ただ、先ほどお話ししたように、電気の総供給量に占める割合を1%上げるのに風車約2690基も必要なわけです。

 100万kWの原子力発電所が1基回れば、二酸化炭素の削減量は0.3%。即効性があります。あとは、全体のバランスでどう組むかということに尽きます。要は、簡単にいりませんと言えるのかどうかということですね。

泊発電所の再稼働の見通し

橋本 杉山先生、いま泊発電所は止まっていますが、原子力規制委員会からは、再稼働について大丈夫と言ってもらえるのでしょうか。具体的には、「積丹半島の地形は波の形でできた」というのが北海道電力の見解で、原子力規制委員会では「地震でできた」ということですれ違っていて、話が進まないそうですが。

 

杉山 概ね30km圏についてはかなり厳密に議論をしています。規制委員会が言う16カ所の地震の実績に基づくと、そのうちの実際に活断層が確認できていなかった箇所は2カ所しかありません。

 また、古いルールでは発電所の近くで見つかってない活断層があるとして「M6.5を想定して十分に安全裕度のある設計をしなさい」ということになっていますが、その後に阪神大震災がありました。いま議論している話では、このルールで耐震設計、リスク評価、非常時の対応の専門家も入れて、地質と地震の方と議論すれば3カ月ぐらいで答えが出ると思います。

再稼働に反対する層へのアプローチ

橋本 澤さん、国民にアンケート調査などをすると「原子力が必要なのはわかっているが、でもいらない」という人が半数近く占めるということですが、これについてはどう見ますか。

 

 どういう世論調査をしても、「再稼働に反対」という人は4〜6割ぐらいいます。少し詳しく見ると、反対している人たちのピークが2つあるように思います。

 ひとつは65歳以上の男性です。反対者の一番多い層で、もともと学生運動の時代背景を持っている人たちです。何かこういうことが起こると「燃える」という人がいるわけです。

澤 昭裕 氏 もうひとつは、30代ぐらいの女性。お子さんがいらっしゃるような年代の女性陣が原子力を怖いと考えているようです。原子力発電所というより、むしろ放射能が人体に与える影響について不安を持っている。こういう人たちは、データを正しく理解しようとする前に、ある意味、感じてしまうところがあるわけですね。ですから、そういう人たちにどうアプローチしていくかについては、なかなか答えが見つからないままだと思います。

 政府から一方的に言ったり、専門家がデータを示したりしてもなかなか通じないので、ちょっと別の伝え方をしていく必要があるのかなと思います。6割が反対しているとすると、そのうちの2割か3割はその年代の女性なので、たぶんいちばんコアな層だと思います。

電力自由化によって何が変わるか

橋本 もう一つお聞きしたいことがあります。2016〜2018年にかけて、新エネ、再生可能エネルギーを含めて電力が自由化されますね。この電力改革で、私たちの暮らしや電気料金などに期待できるものはあるでしょうか。

 

 北海道についてだけいえば、あまり関係ないように思いますし、むしろ悪い面だけが起こるような気もします。つまり需要が小さいということと、いくら自由化しても、供給する側として北海道電力以外に儲けられると思う事業者が出てこないのではないかと思います。

 ただし、消費者側から見たときに、どこで電気の契約をするのか、どういうサービスと一緒になるのかは関心事になると思います。例えば他の公共料金と合わせてパッケージで割引するなどの事業者が出てきたら、それはそれで変わった感じがしますね。ですから、電力自由化で消費者にメリットがあるものとしては、サービスの多様化を担う事業者が出てくる可能性はあると思います。ただし、電気代が下がるということについては、なかなか北海道の場合は難しいような気がしますね。

日本の未来を担う新しい技術

橋本 奥家さん、蓄電池と水素社会について希望的なお話をいただけますか。

 

奥家 まず蓄電池は、再生可能エネルギーの導入が早いスピードで動いている北海道と東北で、先ほど澤先生のお話にあった“小さい桶”にあたるものを置こうという取り組みを始めています。具体的には、北海道では「レドックスフロー」というタイプ、東北は「NAS」というタイプの蓄電池を変電所の横に置くというものです。

 これによって、再生可能エネルギーが“風呂桶”に入る前に一回受け止めて、安定的に落とせる工夫をしているということです。ただし蓄電池については、非常にコストが高い。

 いままで、エネルギーを貯めておくというのは、揚水といって夜のうちに上の池に水を汲んでおく方法があります。昼間に必要になったときに水を落とすと、5分ぐらいであっという間に出力ピークに持っていくことができます。基本的に水を流しているだけなので安いと思うかもしれませんが、揚水は電気を使って水を揚げます。ただし使うのは一瞬だけなので、例えば太陽光は40円でも高いという話になるんですが、揚水はkWhの値段でいえば2.3万円。

 蓄電池を使うと、価格競争ではまだ揚水にはるかに及ばない状況です。私たちもいま技術開発を一生懸命やっていますが、目標は揚水並みのコストになるように急ぎましょうという状況。蓄電池は現状ではまだ高いので、どうコストダウンしていくかが課題です。

会場の様子

 水素についてもまだ少し時間がかかります。一方で、水素の場合は、ガスや石炭や石油を改質して作る方法もあれば、水を電気で分解する、もしくは熱で分解するなど、いろいろな作り方があります。貯められるうえ熱効率も高い。熱も電気も作れるので、メリットは非常に大きいです。例えば、原子力から再生可能エネルギーを使って水を電解して水素を作った場合には、二酸化炭素も出ません。ただ、これもまだ時間がかかります。

 また、日本は世界をリードしている国であるということはぜひお伝えしたいと思います。例えば、家庭でガスから水素を取り出して熱と電気を作るという「エネファーム」を使っている方もいらっしゃると思います。エネファームはすでに日本で7万台出ていて、一般家庭が使っているのは日本が最初です。日本のメーカーは海外で売り始めようとしています。

 また、燃料電池自動車は、来年からの予定を前倒しして今年からやると言っているメーカーもいて、一般の消費者が燃料電池自動車を世界で最初に買える国は日本ということになります。

 燃料電池自動車は、電気と同じように二酸化炭素が出ない方法で自動車を使えるわけですが、電気とのいちばんの違いは、航続距離が非常に長いこと。1回3分間、水素を充填すれば500kmぐらい走れます。ただし値段では電気自動車のほうがかなり安いということで、経済産業省でも、燃料電池自動車を買う場合には補助金を出してサポートしようとしています。

 新しい技術は高いですが、非常に夢もある。先ほど澤先生から話がありましたが、「高いのを選びますか。いままでのものを使いますか」という、まさにその分岐点に私たちは立っています。ただ、皆さんは選べるんです。かつてはガソリン車以外選べなかったですね。しかし技術の進歩によって、値段のことも含めて自分はどういうライフスタイルを選び、何がいちばん懸念材料なのかを踏まえたうえでエネルギー選択に参画できるということですから、現在とても重要な時期に差しかかっていると思います。

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