北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2014
「これからの日本のエネルギーについて
 〜新しいエネルギー基本計画を知る〜」

(6-4)

いま、何を議論すべきなのか?
原発停止以来、電気料金が上昇中

橋本 では、21世紀政策研究所研究主幹の澤昭裕さんによるプレゼンテーションです。宜しくお願いします。

 

 お二人のお話と重ならない部分、あるいは本質的な部分にだけ触れたいと思います。

 最近、菅元総理が「原発は高いことがわかったから止めるべきだ」ということをおっしゃっていて、そういう論はたくさん見かけます。もしも原発が高いのであれば、高いものを止めているから電気代は下がるはずです。ところが上がっているわけです。ということは、いまの原発を使うのは安いわけです。

電気料金の上昇状況

 この表は、東京電力管内の家庭用の電気料金ですが、いちばん低かった平成23年3月のあたりが震災の前です。現在は、そこから比べるとほぼ3割上がっています。ですから、原発が止まったあとで上がっていることは間違いありません。

 これは、例えば皆さんが運送業をされているとして、10年間使ってきた軽トラがちょっと壊れたと。最新モデルの軽トラを買うか、それとも古い軽トラを使って運送業を続けるか、という選択に迫られたときに、昔150万円で買った軽トラは、いまとなっては、ほぼコストゼロですね。ガソリンだけ買えば単に動くわけです。ところが、新しい軽トラを買おうとすると昔よりも値段が上がっていて、200万円ぐらいする。それを買うと高いじゃないですか。原発についても同じことがいえるわけです。

 いまから新しい原発を作ろうとすると、値段が高くなっているかもしれない。しかし、いままで使い切ってきた軽トラにあたる原発をこれからも使い続けるときには、ほぼ0円に近い形で使えるわけです。電気代はkWhでカウントされますが、いまの原発を使うとkWhあたり1円ぐらいでできます。でも新しく原発を作ろうとすると、10円ぐらいかかるかもしれない。ところが太陽光は40円かかります。

 そういう意味で安い電気が手に入るから、経済界はできるだけ早くいまの原発が再稼働してほしいと考えているわけです。それは経済界だけでなく、家庭用の電気料金にもそういう形で跳ね返ってくるということです。

電気の地産地消、そのコストは?

電気を「地産地消」にしよう!

 もう一つ、電気を地産地消しようみたいな話があります。皆さんが、例えば10人ぐらいの村に住んでいるとして、電気がまったくない、まだ電化されていない村だとします。そのときに、そろそろ電気を入れなきゃという話があって、ではどの電気でやろうかということを皆さんで話し合っていくことになったとします。

 もし、風力や太陽光で作られた電気だけで生活を営もうとすると、例えばテレビをつけているときに風が止まったら、停電してしまうわけです。太陽光で発電しているときに急に雨が降ってきたら、停電してしまってテレビが見られなくなる、冷蔵庫ではモノが腐る、パソコンは落ちてデータが保存されない。

 そういう不都合が起こるとまずいから、風が吹かないとき、あるいは太陽が照らないときに、代わりにバックアップで電気を作ってくれるものも一緒に持っておかないとまずいということで、自家発電の機材、例えばガスタービンみたいなものを一緒に持っていないと、急な停電には耐えられないわけです。そうすると、自給自足を考えるのであれば、最初からガスタービンだけでやればいいことになる。わざわざ風力や太陽光を入れる必要はないわけです。

澤 昭裕 氏 皆さんの住んでいる場所が島だとすると、いままではガスタービンがあったはずです。わざわざ、風力や太陽光を入れるのは、観光のためだったら別ですが、電気を地産地消する、自給自足するためにやることはまったく無駄な話です。では、村の中でガスタービンのようなお金のかかるやつは、北海道電力に持たせたらどうかと。つまり我々は風力や太陽光をやるけれども、いざ風が吹かないときに電気を供給してくれるのは北海道電力に契約で頼んでおいたらいいじゃないかと、そういうこともできるわけです。電力会社には火力発電所があるので、火力発電所でバックアップしてくれよということを頼むことになります。いま、北海道で起こっていることは、これが起こっているわけです。

 しかし、仮に皆さんが北海道電力の立場になってみてあげてください。皆さんの村で、風が吹いているときは、北海道電力は皆さんの家に売りに行けないわけです。風が邪魔するので、風吹くな、風吹くなと頼まなきゃいけない。風が吹いているときは、自分の火力発電所を動かせないので、その間、他の設備をメンテナンスしないといけないわけです。電気が売れないから、売上が上がらないわけです。

 ですから、地産地消が進めば進むほど、皆さんのところにはいい。しかし、北海道電力からすると、バックアップしようという気がだんだんなくなってくるわけです。

 ここからがポイントですが、そのメンテナンスしなければならない無駄な設備、この費用は誰が払うのかというと、札幌市民が払うんですよね。結局北海道の誰かが払わないといけない。ですから、風がすごくいい地方のまちで風力をどんどん入れたときに、バックアップ電源を支えるのは札幌市民が支えるということになります。ですから、地産地消をやるのはいいですが、誰がそのコストを払っているかということになるわけですね。地産地消というのは簡単そうに聞こえますが、実は違うんです。

再エネ投入に伴う周波数調整の難しさ

再エネ導入によって必要になる周波数調整のイメージ

 最近、「太陽光を導入したいけれど、接続してもらえない」という話がよくニュースで見られます。あの話はどういうことか。電気というのは、周波数を一定にしておかなければいけないという難しい話がありますが、私はよくわからないので、同じようにわかろうとして作った図がこれです。

 これを風呂桶だと思ってください。この風呂桶に水を貯めていると考えてみましょう。電気を使う人がこの栓を抜いて需要がどんどん出ていっているこのイメージ。放っておいたらこの水はなくなっていきますね。だから、この蛇口から水を注ぎこまないといけない。水位を一定にしておかないといけないのが電気のコントロールの難しさで、皆さんは電力会社に勤めていて電気をコントロールする側に立ったと思ってください。

 そのときに、上司から風呂桶の水の量を一定にしておけと言われるわけです。これが一定にならなかったら、急に停電になります。そうなると全部アウト。もしも風呂桶の水が流れ出る分が少ないのに、蛇口からどっと入ってくるとあふれ出ますね。電線の中で電気があふれ出るイメージをすると、電線は焼き切れてしまう。逆に蛇口から入る分は少なくて、栓から出ていく分がすごく多いと停電です。そのように、1cmの間で水位を保つための仕事をやらないといけない。

澤 昭裕 氏 原子力や火力発電所は、この左側のイメージです。ずっと同じスピードで同じ量が流れ出てくるので、皆さんのコントロールが非常にやりやすいわけですね。蛇口を閉める、開けるというのに例えればわかりやすいでしょうが、どれぐらい閉めたら、あるいは開けたらいいのか。

 ですから、火力や原子力がメインの電力会社であれば、コントロールは比較的ラクですが、太陽光や風力をたくさん導入するということは突然水が入ってきたり、止まったりするような性質のものがたくさん入ってきたということです。

 そうすると今度は、栓から水が流れ出ていくスピードと、右の蛇口から入ったり入ってこなかったりするのに合わせて、左側の蛇口を開けたり閉めたりしなければいけない。これが、いま北海道電力が困っている理由です。

系統規模による再エネ導入影響の違い

 同じように、風呂桶の大きさを考えてみましょう。北海道は発電量が少ないので、風呂桶が小さい。東京電力や関西電力、中部電力はもっと風呂桶が大きいイメージです。そうすると、右の蛇口から太陽光や風力が入ってきたとき、左の蛇口を開けたり閉めたりするのを器用にやらなければなりません。

 それが、例えば東京電力のように風呂桶の大きい地域で、右側に太陽光がどんどん入ってきても、風呂桶の容量が大きいので全体の水位に影響がなく済みます。原子力があるなしは関係ないわけです。沖縄電力も、原子力ないのに太陽光の接続はやめてほしいと言っています。「接続をちょっと待ってください」と電力会社が言っている地域は、基本的に風呂桶が小さい地域。つまり、需要が少ない地域がそのようになっているわけです。

 ですから、一つの考え方は風呂桶を大きくすることといえるでしょう。北海道電力が東北電力や東京電力と一緒になる、つまり、送電線が太くなって他の地域と一体化すると入れやすくなっていきます。もう一つは、右の蛇口の水が勝手に入ってこないようにすること。つまり、ここで一回貯める小さい桶をつくる。それが蓄電池です。接続をするしないの問題は、そういう内容だと思ってニュースを見てみてください。

再稼働の安全規制の考え方

誤解だらけの再稼働議論の構図

 再稼働の安全規制の問題について話します。誰が責任を持っているのかといえば、左側に3つあります。経済産業省、原子力規制委員会、そして北海道電力。さて、安全に対する責任は誰がいちばん重いでしょうか。これは明らかに北海道電力です。なぜなら、自分で原発を運営しているわけですから。

 国や規制委員会は、それが安全かどうかをチェックしに行きますが、実際に動かすのは北海道電力です。ですから、国が安全を保証するとか、規制委員会が「100%大丈夫」とお墨付きを与えることはあり得ない。より安心感を得るとすれば、皆さんが泊発電所に行って、発電所の人たちがちゃんとした顔つきで仕事をしているかどうかを見極めるしかありません。

 皆さんが泊に行ったら、「福島第一原発事故でどういう反省をしたのか」「泊は福島とは違うなら独自の工夫はどういうところにあるのか」ということを北海道電力の人たちに聞く必要があります。「規制委員会が全国一律にやれと言っていることをやっています」と皆さんに説明しても、それは当たり前。「それ以上どんなことをしているんですか」と聞く必要があると思います。

 そうすると、原子力規制委員会とは何でしょう。反対派の人は「再稼働を認める規制委員会なんて要らない」というプラカードを持っていますが、それは違います。規制委員会は再稼働を認めるために存在している。つまり、安全に動かすためにこの機関が存在しているわけです。原発が安全規制に適合しているかどうかを審査するのがこの規制委員会なので、審査が通らなければ、もう一度事業者が改めて対策を取って、もう一回審査に行くだけです。「規制」という言葉が誤解を招きやすいのか、「禁止」というイメージを持ってしまうようですね。規制委員会は止めるのが役割ではなく、安全に動かすことが役割なのです。

原子力「安全」規制の考え方

 では、安全に動かすにはどんな考え方が必要なのでしょう。

 一つは、どんな事故が起こり得るかというシナリオです。その事故がそれぞれどれくらいの確率で起こるのか。

 次に、その事故が起こったときに、環境あるいは皆さんの生命にどれくらい影響があるのか。この影響度もリスクに含まれます。

 いままでは「こんな事故は起こりません」と言ってきたので、確率はゼロに近く、起こり得る事象も少ない。さらに「影響度などは考える必要がありません」というのが安全神話の姿でした。しかしいまは「起こり得るんですよ」と。さらに「起こり得る確率はどれくらい」、そして起こったときに「どういう対策を取っておけばどれくらいの影響で済むか」という話になります。この3つを掛け算したものをいちばん小さくするようにするのが安全規制の考え方です。

 「泊発電所には最新技術の設備が付いていない」などと批判する人がいますが、設備があるかどうかは関係ありません。もしもそういうことがあれば、別の形でそれがカバーされていれば問題ないわけです。設備そのものにこだわると、他のものが手薄になったり、その設備がほかの邪魔になったりすることが当然起こり得ます。ですから、このバランスをどう考えていくかが安全規制のポイントです。

 ただし、リスクというのは永遠にゼロにはなりません。ではどうするかといえば、北海道電力が自分たちでどう守るかです。それを皆さんが問わないといけません。だから、規制委員会が最後にお墨付きを与えるということではないわけです。

 泊発電所はいずれ再稼働するでしょう。そのときにたぶん北海道電力の人が来て、審査証を見せて「これで大丈夫です」と言うかもしれません。そのときに皆さんは「そうですね」で済ませてはいけないのです。「それは規制基準をクリアしたということ。それ以上の工夫をどのようにしているんですか」と北海道電力に問わないといけません。

 わかっていただけましたか。北海道電力がどれだけ真面目に取り組んでいくか、皆さんは、それを厳しく監視するのが重要です。ここに北海道電力のOBの方もいらっしゃると思いますが、「現役はちゃんとやっているか」と毎日見ていただくことが大事だと思います。

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