北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2014
「これからの日本のエネルギーについて
 〜新しいエネルギー基本計画を知る〜」

(6-3)

海外情報を含めた泊発電所の
事故防止対策と防災対策の考え方

世界の原子力先進国の現状

橋本 続いて、北海道大学名誉教授の杉山憲一郎先生のプレゼンテーションです。宜しくお願いします。

 

杉山 北海道の原子力についてお話しさせていただきます。日本の中だけでいろいろな議論を行うと、間違った判断になりやすいので、ヨーロッパのスウェーデン、フランス、スイスについて適宜紹介しながら、北海道の原子力発電所がどう再稼働できるかというお話をしたいと思います。

1.世界のエネルギー・原子力事情の幾つかの側面

 ここには、2010年の国民一人当たりのCO2排出量が書いてあります。少ないほうからスウェーデン5.1トン、フランス5.5トン、スイス5.6トン。そのあとにデンマーク8.5トン、日本9.0トン、ドイツが9.3トン。先ほど奥家さんのお話にあったように、いま日本は10トンを超えているとのことです。

 5トン台に抑えようとすると、水力と原子力をだいたい同じレベルで使わないといけないという事実が見えてきます。水力が弱い場合には、フランスのように原子力に圧倒的に頼らざるを得ないというのも事実です。

 スウェーデンについては、アメリカのスリーマイルアイランド事故のあとに、30年経ったら原子力は利用しない形の体制を整えるということで、30年目が2010年でした。が、実際には原子力利用に回帰しました。理由は、CO2を削減できない、コストが高い、必要な電力を確保できないということ。北緯55度の豊かな国ですが、30年後も電力はそうだったということです。

自給率8%のフランスでは、粘土質岩層の地層処分場候補地内にあるビュール地下研究所で再処理ガラス固化体の地層処分検証試験を実施

 次に、小泉元首相が昨年フィンランドの設備を視察して「日本では最終処分場ができません」と発言していました。私は少なくとも、フィンランドの設備については全部見せていただいていますし、フランスのいま進行中の施設も見せていただいています。

 これは、私が撮った写真であります。フランスでは国民の意見を聴いて、2025年には地下の再処理施設をオープンしたいということでした。スイスも同じ堆積層ですが、3箇所を国民に対して提案しています。スウェーデンとフィンランドについては、すでに処分場の建設の申請を済ませています。

 私は北海道の産炭地の出身で、鉱山についてはそれなりの常識を持っているつもりですが、ここで見てもらうと、北海道の鉱山にない設備があります。それは、地下でやると地下水が結構出るわけですが、ここにはまったくありません。地下水が出る心配がないので、排水設備がない。人間が作業しているので管理だけは必要です。

 実は恐竜時代の海底が固まった粘土質の岩層なので、水が入ってこないし、出てもいかないという状態です。フランスでは、こういうすばらしい場所で最終処分をするということです。おそらくフランスの子どもたちは、この写真を見せると素直に「最終処分はできる」という判断をすると思っています。

200年、近隣国の戦争に巻き込まれず、平和を維持している永世中立国スイスの原発周辺住民の選択

 それからスイスですが、スイスはEUにも入っていない永世中立国で、200年間戦争に巻き込まれていません。70年以上前に、イタリアとドイツが日本と一緒に戦争を始めたときに、「自分の国を守る」「都市部を侵略されたとしてもアルプスに立てこもって我々は最後まで抵抗する」というメッセージを出して、第2次世界大戦に巻き込まれることなく平和を維持してきました。このような歴史を辿ったスイスのエネルギーは水力発電所しかありませんでした。

 水力発電所は、昼間の電力が必要なときにダムの水を流そうとすると電力供給できるので、ピークの電力は水力、ベースの電力は何も資源がないので原子力でまかなうという選択をしています。

 日本が見習うべき点は、この写真のエリアに供給されている地域暖房です。2万人の周辺の住民に対して、電気のほかに熱を供給しています。これはなぜできるかというと、情報発信がしっかりできているからです。スイス連邦研究所があり、ここの研究者たちがこのエリアに自宅を持っています。大事なことについてはそのコミュニティで議論します。そのときに的確な情報を提供されて議論すると、エネルギー貧国であるスイスとしては「安全が保証できるのであれば、灯油を使わずに原子力の熱を暖房に使いましょう」という議論ができました。

 私は2004年か2005年くらいに、石油が上がり始めた時点で見学に行き、「灯油を使って暖房するのと、この原子力の排熱を使って暖房するのとコストはどちらが安いですか」という質問をしました。すると、「設備の減価償却が済んでいるので安くなる。灯油の値段が上がるのであれば、この選択のほうが良かったと思います」ということを言っていました。

 残念ながら、福島第一原発事故のときに、「日本で事故を起こすような原子力は反対!」ということで、50年操業した原子力発電所は操業をストップすることを決めました。ただ、今後の流れでどうなるか。国民投票をしないといけないはずなので、少なくとも地元については、「事故後の我々の選択は、リスクも含めて問題はなかった」と、情報の行き渡っているエリアではそう判断しています。

フィルタードベントは必須の装置

杉山 それからもう一つ。チェルノブイリ事故のあとに、放射線物質が降り注ぐといつまでもそれが影響を与えると。放射性のガスだけであれば一過性ですが、セシウムのように半減期の長いものが地面にずっとあるという状態は非常に好ましくないということで、1986年にチェルノブイリ事故が起きたあと、90年代前半までにフィルタードベントの設備を付けました。

杉山 憲一郎 氏 福島第一原発事故後、最初に日本にフィルタードベントを付けるべきだと言い出したのは、実は私です。なぜかというと、その5年ぐらい前から、地域暖房も含めてどのように安全を保つか、どういう議論をすればリスクを公平に考えて実施できるかという情報を得ていたからです。事故直後に旧原子力安全・保安院に「フィルタードベントを付けて再稼働すべきで、特に北海道で大雪の日にもし事故が起きたとしたら、自宅あるいは公共の設備に退避するという状況が好ましい」という提案をしました。

 フィルタードベントは単純な装置です。簡単にいうと、放射性ヨウ素と放射性セシウムに1回水を通して放射性のガスを出してやるというものです。水を通すと、放射性ヨウ素も放射線セシウムもほとんど溶けてしまいます。ちなみに、セシウムは我々が食べているお塩であるナトリウムと兄弟です。ヨウ素は塩の成分である塩素と兄弟なので、水にお塩を入れると全部きれいに溶けてしまいます。

福島の教訓と泊発電所の事故防止対策

杉山 皆さんが心配されているのは、福島であれだけの事故が起きた原因についてだと思います。そのあたりの整理をしたいと思います。

 まず、マグニチュード9という極めて大きな地震が起きました。南北450km、東西200kmという広大なエリアで地震が連続して起きたので、値はそうです。ただ、実際に我々が原子力発電所の安全性を考える場合には、「発電所の近くでどれだけ強い地震が起きたのか」「そのエリアはどれぐらい近かったのか」というのが問題になります。

 実際に福島第一原発の沖合でいちばん近いところで起きた地震は、マグニチュード7.8。仙台より少し上にある女川は、震源のあった場所ですが、ここはマグニチュード8.4でした。この地震に対して発電所はどうだったかというと、安全を担保すべき機能については全部維持されました。

 次に、北海道の泊発電所については、福島第一原発事故後にストレステストを行う話になっていましたが、そのときのストレステストのマグニチュードは8.2という値で、加速度が550ガル、だいたい福島第一と女川の間ぐらいです。それに対しては問題ないというチェックが済んでいます。

 実際にマグニチュード8.4の女川原子力発電所はどのぐらい余裕があったか。地震が起きたというときに我々が気にするのは、原子炉の中でいちばん大事な建屋が健全だったかどうかということをチェックします。福島第一についても、いちばん大事な建屋については問題ありません。

日本海溝の太平洋プレート沈み込み付近で発生した津波地震

 では、津波はどうだったのか。右上に断面図がありますが、日本海溝があって、太平洋プレートが年に8〜10cm沈み込んでいる。赤字で女川M8.4とありますが、この左側に発電所があって、その下の動きにくいところが動いて、それを出発点として連動地震でM9になったわけですが、ここが動いた結果として、もっと動きやすい左側の海溝に近いところが簡単にスッと動いてしまった。水平方向に50m、垂直方向に10m動いた結果として、15mの津波が福島を襲ったというわけです。

3.泊発電所の事故防止対策と防災対策の概要

 この図を見ると、福島第一原発で何が起きたのか想像がつくと思います。実は浸水したあとに海水が入ってしまって、本来非常用の発電機が使えなかったというのがすべての原因です。

 ここでピンク色の部分が主ですが、まず堤防をきちんと作って浸水しないこと。建屋は全部浸水しない形にする。特に福島で教訓だったのは、中にある乾電池が守られていれば少なくなくとも10時間、容量を2倍にすれば20時間、一日ぐらいは対応できるわけですが、そこのマネジメントがうまくできていなかったことが、福島第一原発事故の最大の原因です。

杉山 憲一郎 氏 福島第一原発事故の教訓を生かして泊発電所は対応できているかということで言えば、これに尽きます。しかしながら、実際には給水車や、電源車を移動して適宜対応できる設備にするということで、万万が一の安心感も含めて、高さ31mのところに非常用電源をさらに作り、真水をきちんと準備するということで対応していきます。また、万万が一事故が起きたとしても、このフィルタードベントを使って放射性物質を出さない形で屋内退避ができるだろうし、周囲の農産物、海産物への風評被害を最小限に抑える形で理解してもらえるような体制で、いま進んでいこうとしています。

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