奈良林 原子力発電所というのは、私だけをヘッドハンティングしても意味がありません。原子力はいわば総合技術です。例えば、私は原子炉の安全性を専門としていますが、ほかにも土木工事をやる人、建築をやる人、燃料を担当する人などさまざまな技術が結集している分野なので、私だけ引っ張られてもダメなんです。
ちなみに、私が大学に来た理由にもつながりますが、原子力の安全研究について蓄積ができたのは、原子力に反対する方たちがいたからです。その点で私はお礼を言いたいと思います。
私が東芝にいたころは反対運動がものすごく強かった。しかしその分だけ、破格の研究費がついた。私だけでなく大勢の人が、世界に自慢できるレベルの安全研究を行うことができました。さらにその成果を日本の原子力発電所の改良に役立てました。それまで20年間かかりましたが、持てる技術を全部投入して作ったのが新潟の柏崎刈羽発電所をはじめとする新しいタイプの原子炉です。ですから、地震が起きたときに私は大丈夫だと思いました。
一番大事なのは炉心で、地震時に速やかに核分裂反応を止めるには1基あたり約170本くらいある制御棒駆動装置を平常時にきちんと点検していなくてはなりません。私も実際に現地で見てきましたが、新潟の地震のときにはもちろん全部入っていました。あの非常事態でも原子炉をきちんと止めることができた。原子炉建屋のいちばん放射能の高いところでしっかりと原子炉が守られ、原子炉格納容器、配管などは全く損傷していませんでした。こうしたことは、発電所で働いている人たちが普段しっかり点検しているからこそできることだと思います。
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