北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

'10「原子力の日記念フォーラム」これからの原子力を考える
【第一部】 世界情勢からみた日本のエネルギー問題

(7-7)

原子力をめぐる報道のあり方

宮崎  小沢さんのご意見にありましたが、マスコミのあり方も重要ですね。いかがですか、読売新聞さんは(笑)。

 

橋本 これはむしろ奈良林さんにお願いしたほうがいいですね(笑)。「我々はちゃんと書いていますよ」と言うよりは、第三者がどう見ているかについてお話しいただくほうが正確だし、公正だろうと思います。

国民の安心を阻害する過剰報道

 

奈良林 では、新潟県中越沖地震の報道を例にとって紹介します。地震発生後、NHKでは連日、黒煙を上げる変圧器付近を映していました。その映像は海外にも配信されたので、海外の人たちは「日本でチェルノブイリ事故が起きた」と勘違いして、イアリアのサッカーチームが来日をキャンセルしたりしました。地元には1〜2千億円の風評被害があったそうです。「激震の恐怖またも」という見出しまであります。こういう報道が新聞や週刊誌、電車の中吊り広告まで広がりました。日本で何か起きると、報道各社は同じことを一斉に報じますね。そんな中で、他社とは違った視点で勇気ある報道をしてくれたところが2つあります。

正確な報道と勇気ある社説

 その1つはフランスのル・モンド紙です。地震のわずか2日後に「初期的な火災が発生したが、迅速に消し止められた。微量の放射性物質が検出されたが、環境に影響を及ぼすものではなく、低いレベルだった」。これだけ正確な報道をフランスの新聞が行っているのに比べ、日本では先ほどのような内容でした。読売新聞さんはル・モンド紙より少し遅れて10日後だったので、そこは減点させていただきますが(笑)、「原子力発電所の安全は確保されている」という社説でした。

 「こういう報道をなぜもっと早く出してくれないのか」とマスコミの方に聞いたら、「1社だけ報道したら周りから叩かれてしまう」と。日本では報道の自由も守られているのに、その点ではちょっとおかしいですね。原子力の安全性について、一般の方にわかるように正確に報道するのがマスコミの役割だと思います。

 

小沢 あのときは変圧器が燃えただけでしたね。私はブラジルにいましたが、現地でも報道されて「日本は危ない」と言っていました。でも、柏崎刈羽発電所だとわかって「あそこは大丈夫だ」と思いました。以前見に行って知っていましたし、あれだけ高い安全性があるのだから、原子炉本体は大丈夫だと確信がありました。ブラジルから帰って現場を見に行きましたが、やはりその通りでした。でも、原子力というだけでそのように言われやすいのも問題ですね。

 

橋本 新潟の地震では、新幹線が脱線しかかっている写真が公開されました。あれをどう考えるかですね。「優れた技術があったから脱線事故にならずに済んだ」と考えるか、「あそこまでいった」と考えるか。その場合、私たちに必要なのは、2つの考え方があるということ。同時に、私たちマスコミには、物事を多面的に考える視点を提供することが求められているということです。怒涛のような報道の中で見過ごされがちな視点だと思います。

 

宮崎 まさに「パック・ジャーナリズム」ですね。メディアは社会を映す鏡ですから重要な役割を担っていますが、勇気を持って書いたとしても、売れなければ情報が行き渡らないという難しさもありますね。

コーディネーター 宮崎 緑 氏  ところで、奈良林先生にお聞きしたいことがあります。世界では超一流の研究者をターゲットにしたヘッドハンティングが盛んに行われているようですね。それも破格の待遇で。研究者にとっての待遇はお金だけでなく、すばらしい研究施設を与えてもらい、好きな研究ができる環境も用意されていると聞きます。ヘッドハンティングといえば昔は欧米でしたが、いまは韓国やアジア各国が積極的なようですね。奈良林先生は大丈夫でしょうか。

 

奈良林 原子力発電所というのは、私だけをヘッドハンティングしても意味がありません。原子力はいわば総合技術です。例えば、私は原子炉の安全性を専門としていますが、ほかにも土木工事をやる人、建築をやる人、燃料を担当する人などさまざまな技術が結集している分野なので、私だけ引っ張られてもダメなんです。

 ちなみに、私が大学に来た理由にもつながりますが、原子力の安全研究について蓄積ができたのは、原子力に反対する方たちがいたからです。その点で私はお礼を言いたいと思います。

 私が東芝にいたころは反対運動がものすごく強かった。しかしその分だけ、破格の研究費がついた。私だけでなく大勢の人が、世界に自慢できるレベルの安全研究を行うことができました。さらにその成果を日本の原子力発電所の改良に役立てました。それまで20年間かかりましたが、持てる技術を全部投入して作ったのが新潟の柏崎刈羽発電所をはじめとする新しいタイプの原子炉です。ですから、地震が起きたときに私は大丈夫だと思いました。

パネリスト 奈良林 直 氏  一番大事なのは炉心で、地震時に速やかに核分裂反応を止めるには1基あたり約170本くらいある制御棒駆動装置を平常時にきちんと点検していなくてはなりません。私も実際に現地で見てきましたが、新潟の地震のときにはもちろん全部入っていました。あの非常事態でも原子炉をきちんと止めることができた。原子炉建屋のいちばん放射能の高いところでしっかりと原子炉が守られ、原子炉格納容器、配管などは全く損傷していませんでした。こうしたことは、発電所で働いている人たちが普段しっかり点検しているからこそできることだと思います。

 

宮崎 ありがとうございました。ここまでのお話を踏まえ、第2部では具体的に何をするべきかについて考えていきます。

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