先ほど、韓国がUAEに対して原子炉を4基売ったという話をしました。各国の原子炉メーカーのセールスはいま活発ですが、韓国のメーカーがどう言っているか。「日本の製品は品質が良い。自動車は確かにそうかもしれない。でも原子力発電所の稼動率を見てください。韓国は90%、日本は60%。どちらの品質が良いかは瞭然でしょう」とセールストークを展開する。これでは勝ち目がありません。日本の原子力ルネッサンスの足を引っ張っている原因の一つは発電所の稼動率です。
実は一昨年5月、私はアラブ諸国から呼ばれました。フランス、EU、イラン、アメリカ、それに日本が加わってのアラブ諸国で初めての原子力の国際会議です。でも、なぜ私が呼ばれたのかよくわかりません(笑)。
会議では、アラブ諸国で原子力発電所を作るなら、まず法体系・規制体系を整えなさいというような、原子力を持つ国としてあるべき姿の話がでました。私には「地震と安全性との関係について話をしてほしい」というリクエストもあったので、柏崎刈羽発電所の例を中心に話をしました。そのときに申し上げたのは、設計の3倍以上の地震がきたが、動いている原子力発電所は全部スクラムで瞬時に止まった。この地震発生以前は大きな地震がくると原子炉は停止するのかと、国内でも非常に心配されたが、4基の制御棒約800本が一糸乱れず挿入され、原子炉を止めた。原子炉を冷却する機械も正常に働き、全部冷やすことができた。原子力発電所はそれくらい頑丈に作られた技術であるから、アラブ諸国にも地震が来るかもしれないが、日本製であればこの点は大丈夫です、と話をしてきました。
このところ原子力安全でいちばん心配なのは地震のときだという話をよく聞きます。どの程度の地震がいつどこからくるか。これについては、私は専門外ですから知りません。ただ地震の予知の研究は原子力の研究が始まったのと同じくらい昔から始まっています。それにも関わらず、地震の予知はあまり進んでいません。地震の大きさや頻度についても諸説粉々、学者は明確な目安を示してくれません。地球を相手にする研究ですから難しいのだろうと思いますが、いろんな先生があまりにもいろんなことを言うので、情報が乱れています。その中で「だいたいこのあたりだろう」という情報を基に、我々工学者は安全な発電所を設計し、柏崎刈羽発電所のようなしっかりとしたものを作り上げたわけです。
アラブでの会議ではそういう話をしました。その会議には韓国の顔も姿もありませんでした。もともと、アラブに原子炉を作ろうと仕掛けたのはフランスです。アラブの湾岸というのは、アメリカの石油メジャーにとっては裏庭のような地域ですから、当然アメリカは「なぜフランスがでしゃばるのか」と怒り、両国間でごたごたがあったようです。一昨年5月にブッシュさんはサウジアラビアに行き、原子力協定を結びました。原子力協定とは「原子炉を売ってあげるよ」という協定です。一方、フランスは「いまお金があるうちに子孫のためにインフラ整備をしておくべきだ」と、アラブに売り込みを図ったわけです。
日本はアメリカやフランスに次ぐ第3の国という位置づけで、国際会議に声をかけてくださったのでしょう。たぶん私は米仏両国のダシに使われたのだろうと思います(笑)。ところがそれ以降、韓国のすごい売り込みが始まりました。イ・ミョンバク大統領自身が直接UAEに乗り込みました。更に6回も直接電話をかけ、売り込みを行ったそうです。ところでドバイはこのところビル建設で有名ですが、建設現場には日本語よりも韓国語で書かれた看板のほうが3、4倍は多くある。韓国のアラブ諸国への喰い込みは大きいのです。それでUAEは、韓国のほうに傾いたのだろうと思います。聞くところによると、入札価格は15〜20%ディスカウントと聞きます。4基で4兆円の商売ですが、これには40年間のメンテナンス料と運転料が入っているそうです。
なぜ運転料を含んだかというと、アラブ諸国はイスラム教ですから、一日に4、5回お祈りをしなければいけませんね。教会へ行って、手を洗って、靴下を脱いで。これをまともにやりながら原子炉の運転はできません(笑)。すると、どうしても「原子炉の運転を含む」という条件が必要になる。そこまで勉強して入札した韓国は非常に立派だったと思います。
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