北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '10新春エネルギー講演会 
(8-5)
    「原子力を巡る最近の諸情勢〜泊3号機完成を振り返って〜」  

“人間が守る安全”の向上を指標に

 

 以前お見せしたスライドに「日本の失われた10年」という2007年の資料があります。四角で表わしたのは1996年のデータ、菱形は2005年のデータです。A〜Gは世界でも比較的数多くの原子力発電所を持つ国々で、アメリカ、フランス、ドイツ、ロシア、韓国、台湾などが入っています。日本を除いて矢印の方向が全部右下がりになっていますね。

日本の失われた10年

 縦軸は被ばく線量です。横軸は発電所の稼動率です。ご覧のように稼動率が60%から80%以上まで伸びた国、80%から95%まで伸びた国もありますが、どの国も右下がりです。右下がりになるほど原子力発電所の成績は良いわけです。

 ところがご覧のように、日本だけは10年間データが動いていません。つまり、1996〜2005年の10年間、何の進歩もしていないのです。その原因は規制が厳しくなったからですが、その根っこに、電力会社がへまをして事故を起こしたことにあります。それで規制が厳しくなり、負のスパイラルに陥っているのです。

 この10年間に、他の国は皆成功しています。運転の安全をしっかり守っているからです。機械の安全規制には細かく定めることが必要ですが、人間はそうではありません。あまりにうるさいことを言われると嫌になる。こうるさい規制を改め、伸び伸びと運転管理させたことが他国の成功につながっています。日本も本当はそうしたいのですが、何かあるとすぐに"安全・安心"などという世の中ですからね。「安全が担保されても安心が担保されていない」などと言って、日本の役人は規制緩和ができないんですね。

 原子力が特に安全を重視するべき点は、放射能災害を起こさないということが大前提です。この点についてはいくら厳しくしても差し支えありません。アメリカの規制がそれです。もちろん一般の安全も大事ですから、一般施設以上の厳しい規制が原子力発電所に要求されるのは当然と思いますが、それは程度問題です。極端に厳しい安全を求める必要はありません。それを間違えて一般設備の安全にまで原子力安全と同じレベルで口出しを続けていれば、この図のように、世界で完全に遅れをとってしまいます。

 実は日本は、世界の中で「ガラパゴス症状」と言われています。ガラパゴスというのはイグアナのいる南米の孤島で、世界とは違った動物の生態系を持っています。日本も同じで、世界の常識的な規制から外れているため、「独自の奇妙な規制で原子力は退化している」という日本に対するからかい文句です。

 では、日本における細かい問題点は何かと言うと、安全上いちばん大切な保安規定に「品質保証」「安全文化」「コンプライアンス(法令遵守)」などの項目が盛り込まれ、それらをきちんと守りなさいということになっています。品質保証、安全文化、コンプライアンスなどが安全義務となっているわけです。これを守っていれば安全性は向上するはずだと。しかし、よく考えてみてください。品質保証と安全は同じでしょうか?品質保証は安全を守るための手段の一つとして大切ですが、安全と同じではありません。ところが保守規定に書かれているため、お役所は安全確保という名目で、品質保証の規定一つひとつについて原子力発電所を吟味するわけです。

 例えば品質保証では、社長をはじめ幹部が、安全についてコミットするということが定められています。これを極端に推し進めていくと、すべて社長のハンコがなければ動かないような話になりかねません。定期検査のときや何かトラブルがあると、そういうことをねちねちやられるのです。このようなことで原子炉の停止期間が長くなり、稼働率が低くなってしまうのです。後日お役所の了解が得られたとしても、一度、品質保証違反とマスメディアに書き立てられてしまうと、地方自治体から「やっぱり心配なんじゃないの」と過敏な反応が起こります。そういう悪循環で、日本の稼動率が60%台にとどまっているわけです。

 私が「原子力の安全に立ち返らないといけない」と言うのはこのことです。"機械の安全"が確立されているとなれば、次の安全向上は"人間が守る安全"です。人間が守る安全をきちんとしようとすれば、人間の意欲、従業員の意欲を向上させることが大事です。細かい規則や規制で縛ることではありません。今日では、稼動率が安全の指標であり、各国がそれを競い合っているのです。これは経営の好転向上にもつながるものですが、その狙いが違ったところにもあることは言うまでもないでしょう。今後の日本の課題で、ここが改善されなければなりませんし、これがなければ日本の原子力メーカーはなかなか幸福になれないと思います。

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