北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '10新春エネルギー講演会 
(8-2)
    「原子力を巡る最近の諸情勢〜泊3号機完成を振り返って〜」  

電力供給不安が原子力の追い風に

 

 さて、この10年間の世の中の流れをわかりやすく整理するために、各年の講演内容を原子力情勢一般と、安全性に関する話題に分類してみました。

 まず、原子力情勢一般について眺めてみますと、1998年、新潟県巻町の住民投票がありました。原子力発電所建設を巡っての住民投票で、反対派が勝ちました。原子力発電所を作りたくても地元の理解が得られない、こういう難しい時期に、泊3号機の建設申し入れが行われました。

 2001年、泊3号機の旗揚げのころにはブッシュ政権が発足し、アメリカの世論は大きく変わりました。原子力発電に対して好意的に変わっていったのです。このきっかけは、アメリカではカリフォルニアの停電です。ヨーロッパでも、フランスを襲った熱波で約15,000人ものお年寄りが亡くなりました。この不測の事態に、エネルギーの供給が対応できなかったのがきっかけとなり、原子力は必要との世論の流れになったようです。いまの日本では、地球環境問題に照らして原子力の良し悪しが論じられていますが、欧米では「原子力は安定して電力を供給してくれる」という考え方が賛成の中心になっています。

 次に、ブッシュ元大統領、あまり評判が良くないようですが、私は原子力を推進した政治家としては最もすばらしい大統領だったと思います。就任後まもなく「新エネルギー政策」を発表し、原子力を推進していく姿勢を明確にしました。ちなみに、2002年の講演項目に「原子力ルネッサンスの匂い」とありますが、これは前年の海外視察を基にしたものです。ドイツからアメリカに渡ってエネルギーの最新動向を見聞し、「何となく原子力に追い風のような気がします」という話で、この講演会の元気づけをいたしました。それが当たりましたね。先見の明があったのでしょうか(笑)。

 ただ、そのころにアメリカで起きた同時多発テロ、以降、日本でも原子力発電所の前に警察官が立って、警備を強化するようになりました。「原子力発電所を見に行こう」という機運が高まっていた時期でしたが、警備のために一般の人たちはなかなか入りにくい状況になりました。

 2004年に取り上げた話題に、ニューヨークでの大停電があります。原子力が必要だという機運が更に高まり、アメリカでは原子力発電に関する規制が大幅に緩和されました。運転管理に携わる従事者は、それまでの厳しい規制から解放されて、自分の考えや創意工夫が仕事場で生かされる状況になったのです。これによって、アメリカの原子力発電の業績はぐんと向上し始めました。1980年代のアメリカの原子炉稼動率は、いまの日本と同じ60%くらいだったのが、2000年には70〜80%、現在は95%にまで伸びています。信じられないほどの好成績です。これが規制緩和の効果です。原子力ルネッサンスを起こした原動力です。

 この2004年の講演では「北海道新聞の論調が最近変わりつつあります」というお話をしました。全国紙はそれ以前から、原子力記事の書き方が変わったのですが、ブロック紙の北海道新聞も少し偏向度合いが少なくなる方向に変わったのがこの時期です。

 その後、原子力ルネッサンスはいよいよ本物となり、ヨーロッパではフィンランドが原子力発電所の新規建設を決めました。世界の原子力発電の稼働率が上昇するにつれて世論も更に変化し、2007年の話題にあるように、世界の原子炉メーカーの再編成までが起きました。

主要原子力プラントメーカーの変遷

 GE、日立、東芝、ウェスティングハウス、三菱、KWU、フラマートム、ロシア、韓国、CANDUなどの世界の原子炉メーカーがありましたが、現在はこのように大きく3つのグループに再編されました。GE、日立、東芝がBWR(沸騰水型原子炉)の建設を担い、東芝はウェスティングハウスを買収してPWR(加圧水型原子炉)を作るようになりました。それまでは、三菱がアメリカのウェスティングハウスと一緒でしたが、現在はフランスのアレバと提携しています。その話の中で、各グループどの国が主導権を握るかが原子力産業にとって重要だとお話した覚えがあります。

 作るほうが再編成されれば、作ってもらうほうも変わろうとしています。アメリカは別として、中国、トルコ、インドネシア、ロシア、インド、ベトナム、アラブ諸国、これらの国々が約100基の原子炉建設計画を発表しました。この数字は今もどんどん変化しています。

世界の原子力ルネッサンス

 注目していただきたいのは、石油の産出地域であるアラブ諸国が、2020年までに原子力発電所を10基も作ろうとしていることです。そのうちの4基をアラブ首長国連邦(UAE)が昨年12月、韓国に発注しました。「なぜ石油産出国が原子力発電所を作るのだろう」と思われるでしょうが、アラブ諸国は、石油で稼げるうちに原子力発電所を作って、エネルギーのインフラを整備しようとしているわけです。インフラ整備は電気だけではありません。アラブは砂漠の国ですから、海水を脱塩化して、飲み水や畑にまく水を作る。そのようにしてラクダに乗っての牧畜生活から将来への計画を立てようとしています。

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