北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '10新春エネルギー講演会 
(8-3)
    「原子力を巡る最近の諸情勢〜泊3号機完成を振り返って〜」  

日本の稼動率低迷の理由

 

石川迪夫氏  次に、安全性に関する話に移りたいと思います。2000年にJCO事故が起きるまでは、日本の原子力発電所の成績は非常に良い時期でした。それに比べ、世界のそれは余り良い状況とは言えませんでした。なぜ日本は良くて、他国は悪いのか。それを率直に話し合って互いにいいところを学び、悪いところを改善しようというのが安全条約の趣旨であります。

 ところが2002年の話題では、浜岡原子力発電所で配管が膨らんで破れるという水素燃焼事故について、2003年では「安全性は十二分に担保されていない」との高速増殖炉もんじゅの判決について話しました。この判決はのちに高裁でくつがえりましたが、こうした一連の出来事によって安全性に対する大きな不信感が日本国内に広がりました。

 さらに2003年の東京電力のトラブル隠しが不信感を決定的にしました。シュラウドという炉心周辺の部品にひび割れがあった事実やデータを改ざんしたというので、大きな社会問題になりました。シュラウドのひび割れは安全性に影響しないといえば語弊がありますが、非常に軽度の問題です。しかし、それは社長が引責辞任し、その他3人の社長経験者が公職を辞退せざるを得なくなるという衝撃的な出来事にまで発展しました。

 このとき私が皆さんにお話したのは、「原子力安全委員会は国民と対話せよ」ということでした。もんじゅの判決について原子力安全委員会はどう考えているのか。また、原子力で最も大切なのは安全性ですが、東京電力の問題では安全面でどれくらいの意味を持つのか。こうしたことについて安全委員会は国民に対し、きちんと話をしなければならない。この立場にあるのが原子力安全委員会だと。

 2005年の話題は、福井県の美浜発電所3号機での事故でした。5人の作業員が火傷で亡くなり、6人が重軽傷を負うという悲しい事故でした。

 ところでこの事故が、放射能による事故でなかったことが、世間の耳目を集めました。事故の翌日にフジテレビに呼ばれて出掛けましたところ、「原子力発電所で死者が出ているのに、なぜ放射能が出ないのか。そんなおかしなことがあるのか」と大騒ぎ、不思議がっていたのです。PWRでは放射能を含んだ水が循環するのは1次系ですが、事故はそれとは別の、2次系配管が破れて作業員が火傷を負ったものでした。どのテレビでも同じでしたが原子力事故イコール放射能という頭しかないのですね。それを説明するのにずいぶん時間がかかりました。

 私はこう話しました。「皆さんはいままで原子力事故といえば放射能災害ばかり心配して本題としていた。したがって、原子力関係者はそこにばかり目が行って、つい他の設備のことがおろそかになったのではないか」と。後日、破損部分が28年間も点検リストに載っていなかったことがわかりました。この事故を契機に当然のことですが、原子力発電所の一般設備にも安全の配慮をしっかりやらなくてはならないこととなりました。

 このような事故が起きると、皆さんも当然心配なさいます。特に地方自治体の関係者はなおさらです。「もっとしっかり監視するべきだ」と叱咤されるので、お役人も規制をどんどん厳しくする。そうすると、発電所の運転員たちは規制で縛られることが多くなり、自由闊達な眼を生かした運転管理ができなくなります。

 先ほどお話ししたように、アメリカでは、規制緩和によってのびのびとした環境ができたものですから、原子炉稼動率が向上しました。日本はその逆で、原子炉稼動率はここ数年間低迷を続けています。日本には年一回の定期検査がありますが、以前稼働率は82〜83%くらいで、これは定検を除けば100%に近いくらいの稼動率でした。ところが現在60%台くらいにまで落ちてしまっている。規制強化によって安全と無関係の事柄までにも忙殺されて、悪い方向に物事が循環するデフレスパイラルに陥っているためです。安全についての信頼を取り戻そうにも、なかなかそうできない状況に陥っているわけです。世界では原子力を推進する大きな動きがある一方で、日本では原子力発電が振るわない悲しい状況にあります。

 さて、北海道でも、泊発電所で何度かぼや騒ぎがありましたね。どうやら放火の疑いが強いようですが、新聞などに書きたてられ、発電所の建設が一時的に止まるようなことになりました。でも皆さん、建設中のぼやが原子力の安全性と関係があるとお考えですか?安全とは無関係ですね。ところが、こういう社会風潮になりやすいのが日本社会です。

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