北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '09「原子力の日」記念フォーラム
(7-2)
    低炭素社会とエネルギー問題 〜CO削減目標と核燃料サイクル〜

    【第二部】     新政権における低炭素社会とエネルギー問題への取り組み



ヨーロッパのエネルギーネットワーク

宮 崎   次に、世界的に見たエネルギー事情についてうかがいたいのですが。

 

秋 元   ごく最近、IAEA(国際原子力機関)が原子力発電の中期目標の見通しを上方修正しました。現在は世界に432基の原子力発電所がありますが、2030年には810基、少なくとも510基くらいには伸びると予測しています。去年の予測に比べて8%伸びるという予測を出しています。IAEAがそういう予測を出した根拠としては、特に極東や東欧での伸びが著しいといわれており、実際に新しい原子炉の建設が始まっています。

原子力発電の拡大を企図する国及び地域

 全体についてご紹介します。この図のように、エネルギー政策の揺らいでいるアメリカでも古い原子炉を新鋭の原子炉の新設で補っていくことについての方針は変わらないようです。中国はまだ少数しか動いていませんが、計画されている分は膨大な数です。

 フランスは自国内で日本と近い数字です。日本では53基、フランスでは58基の原子炉が動いていて、資源の少ないフランスでは原子力の割合が80%に上っています。フランス国民一人あたりのCO排出量は年間約8トン。これは他のヨーロッパの諸国の平均値より約40%も低い量です。フランスは新しい原子炉の建設もしているし、中国やアメリカ、イギリス、イタリアなどから原子炉の受注もしています。

ヨーロッパ諸国のエネルギー相互依存

 また、ヨーロッパの国々はそれぞれ独立していますが、エネルギーの面から見ると一つのまとまった国といえます。左図は天然ガスのパイプラインでヨーロッパ全体が一つにつながっています。右図はフランスから送られている電気の量です。

 ドイツでは大連合の旧政権は原子力を段階的に廃止する方針を出していましたが、新しく政権が代わったことで、今ある原子炉の寿命を延ばし、更には原子炉も新しく建設しようという積極路線に変わるだろうと考えられます。現実には、いまでも原子力反対を唱えながら、原子炉で生まれた大量の電力をフランスから買わざるを得ない状況なのですから。

 イタリアでは原子力による電力を直接買ってはいけないという法律があるらしいですが、結局はスイスを経由して、フランスの原子力の電気を買っている。マネーロンダリングならぬエネルギーロンダリングともいえます。そのようにヨーロッパを見ると、かなりの割合で原子力をベースにしたクリーンエネルギーの形がすでにでき上がっています。

 

宮 崎   イギリスは北海油田を持っていて、石油には不自由をしていませんね。エネルギー自給率も100%を超えている。そうすると、イギリスはCO排出量削減の観点から原子力で作った電気を買っているという意味でしょうか。

 

秋 元   北海油田がかなり枯渇していて将来が危なくなってきたという理由があります。それと温暖化の問題の両方があって、かなりはっきりと方針を変えました。ただ、イギリスは長い間原子力に取り組んでいなかったので、原子力発電所を作る技術が失われてしまった。そこで、原子力先進国のフランスに頼んで4基作ってもらうことになっています。

 また、スウェーデンも原子力を段階的に廃止すると言っていましたが、その方針を撤回しました。フィンランドはすでに新しい原子炉を建設しています。

 

橋 本   この図を見るとよくわかりますね。ドイツにしろイタリアにしろ、エネルギーでフランスに首根っこを押さえられている感じがします。背景には地球温暖化の問題のほか、エネルギーの安全保障という問題もあると思います。フランスから電力が来なければ、他の国は大変な状況になりますね。ロシアでも、周辺地域に対してエネルギーの首根っこを押さえるというやり方をしている。やはり日本でも、地球温暖化対策とは別の観点、つまり国の安全保障という観点から、原子力という自前のエネルギーの意味を考え直さなければならないと思います。

 


「原子力の日」記念フォーラムの様子宮 崎   この動脈のように張り巡らされているエネルギーネットワークを見ると、どこかが詰まるとヨーロッパ全体が麻痺してしまうのがよくわかりますね。

 例えば、かつてあれだけの大帝国だった旧ソ連が、あっけなく15の共和国にバラバラに分解したときに、つぶさずに支えようとすぐに手を挙げたのがドイツだった。ほとんどのエネルギーがロシアから来ていたので、つぶれてしまうと自分の国が立ち行かなくなるからです。そういう形で外交が動いていく根底にエネルギー問題がありました。また、過去の戦争の歴史からもわかるように、エネルギー問題を、将来に向けたセキュリティーのネットワークという観点から考える必要があると思います。橋本さんがいまおっしゃいましたが、わが国の外交政策にエネルギー問題がきちんと位置づけられているでしょうか。

 

橋 本   そこが大事ですね。いま菅直人さんがトップの国家戦略室で予算や方針を打ち出そうとしていますが、本当に大事なのはエネルギーを含めた日本の安全保障をどうするかという大きな戦略ですね。しかも1年や2年の話ではなく、もう少し長い目で考えなければなりません。

 25%削減目標についても同じことが言えます。一部門でやる話ではなく政権全体、国家全体としてどうするかということです。国家戦略室はそのためにあるべきではないかと思います。しかし、残念ながらまだそういう発想もありませんね。このままではいけないと思います。

 

宮 崎   以前、ある方に「わが国の戦略って何ですか」とお尋ねしたら、「戦略を持たないことが戦略です」という答えが返ってきたことがあります(笑)。

 

橋 本   下手に原則に執着するとポキンと折れてしまう危険性はあります。それが戦後の日本の姿だったと思います。しかし、それでいいのかということを考えなければならない。常に大きな観点で、尺度を長く持って、日本のあるべき姿について考えていかなければいけないんです。どんな問題でもその視点が必要ですね。

 

宮 崎   そうですね。水が器に合わせて形を変えるだけというのではない部分をこれからどう培っていくか。

 日本は情報ネットワークも非常に脆弱です。これだけのインターネット時代に、日本は世界の中でポイントになるような情報拠点を持っていない。例えばカーナビなどに利用されているGPS機能はアメリカの衛星ですが、もしもこれを止められてしまったら車も走れない。そういうことをきちんと考えているだろうかと心配になります。

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