北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
パネルディスカッション
 地球温暖化とエネルギー問題 〜なぜ今、核燃料サイクルなのか〜

 
(7-7)
    【第二部】 「核燃料サイクルの必要性・安全性」

原子力の本質はプルトニウムの有効利用

宮 崎    さて、時間が迫ってまいりました。最後にまとめのコメントをうかがいたいと思いますが、それに先立ち、秋元さんから今日のテーマである「なぜ今、核燃料サイクルなのか」について総括をお願いします。


秋 元    では資料を出していただけますか。

資源を廃棄物に廻してはもったいない

【資料解説】  先ほどから話に出ているように、天然ウランの99.3%はウラン238で、これは一旦プルトニウムに変えないと燃やせない。残りのわずか0.7%のウラン235が、直接燃やせる資源です。日本の原子力発電所はすべて軽水炉ですが、その設計の思想は、まずこのウラン235をうまく燃やそうという考え方で貫かれています。その意味で、原子力界にはウラン資源の大部分を占めるウラン238をうまく使いこなし、燃やしてゆくという大きな宿題が残されているわけです。

 落語に出てくる殿様は、タイの塩焼きが出てくると、ほほ肉だけ突ついて、あとはお下げ渡しになるようですが、現在の軽水炉システムは、まさにタイのほほ肉だけをほお張る殿様のような、ウラン資源の使い方をしている。

 アンデルセンの童話の「マッチ売りの少女」に例えれば、後ろに濡れたウラン238の焚き木が山と積まれているのに、なけなしのウラン235のマッチばかりを浪費して、「あと何十年しか持たない」と心配しているのが、今の原子力の姿ではないかと思います。

 もっとも軽水炉を運転すると、炉内でウラン238の一部がプルトニウムに変わり、更にその一部は核分裂してエネルギーに転換されます。この会場の照明のほぼ3分の1は原子力エネルギーで点っている勘定ですが、そのさらに3分の1は、プルトニウムの核分裂で賄われている。つまり私たちが使っている電気のほぼ1割は、プルトニウムが燃えることで生まれている。我々はすでにプルトニウムの恩恵を充分に受けているのです。

 この頃プルサーマルという言葉がよく出てきますが、これは「プルトニウム」を「サーマルリアクター(軽水炉)」で使うという意味で、日本の造語です。フランスやドイツ、アメリカでは、プルトニウムを燃やすことについて、特別な用語はありません。原子力反対で非常に厳しいドイツでも、ドイツ国内原子炉の半分くらいを使って、日本でいうプルサーマルを問題なく実施している。フランスでも3分の1くらいの原子炉はプルサーマルです。こうした西欧では何も特別なことと捕らえられていないプルサーマルが、日本では大変な社会問題に仕立て上げられ、泊でも今年から来年にかけて、さまざまなご審議をいただいている状況になっています。

【資料解説】  プルトニウムは原子炉の中で生まれます。再処理でできるわけではありません。再処理を止めても原子力発電を続ける限りプルトニウムは増える一方です。

軽水炉は原子力の第一ステップ

 プルトニウムはエネルギーのために生まれてきたような元素で、これほどすばらしいエネルギー資源はないけれども、エネルギーに変えずそのまま置いておこうとすると、いろいろ厄介な問題が出てきます。天然資源の99.3%を占めるウラン238をエネルギーに変えることが出来なければ、原子力は欠陥技術に終わってしまうわけですし、プルトニウムに変わらねばウラン238は燃えないのですから、「原子力=プルトニウムを燃やす技術」といっても過言でないでしょう。

 ところで、軽水炉でもプルトニウムは燃えますが、高速炉はプルトニウムをもっと上手に燃やしてくれます。高速炉が実用化すると、残り70年や80年といわれるウラン資源が、何千年分にも増えるわけです。エネルギー資源の問題は、ここでほとんど解決してしまうといえるかもしれません。

 ですからプルトニウムを燃やすことは、原子力技術のまさに核心ですし、エネルギー天然資源を殆ど持たない日本にとって、殊更に重要な意味を持つ課題です。原子力を次世代エネルギーの柱として我々が選んだ以上、プルトニウムを燃やす技術を完成させていくことがいちばん大事なことだろうと思います。

ヘリオスの恵み

【資料解説】  地球上にある生命体や岩石、水、大気などは密接に働きあって、あたかも一つの生命体のように自己調節し、進化を続けています。自己調節をするために必要なエネルギーの大半は太陽からくる。地球上の生き物たちは地上の物質を身にまといながら、太陽の恵みを得て生きています。人間も生物の一つですから、応分の分け前に与る権利はありますが、その範囲をあまりに超えて収奪を繰り返してきた。

 過度に工業化を進めたり、牧畜をやりすぎたり、単一作物農業を拡げすぎて植生を破壊したりした結果、自然の活力の40%がもう削がれていると、ラブロックは指摘しています。

 ところが太陽の恵みを受けて地球環境を支えている生態系と相克を起こさずに、地球本来の恵みを引き出して、持続的な発展を遂げる新しい方法を、人類は遂に見いだしたのです。

 46億年前に超新星の爆発が起きて、そのかけらが宇宙に散らばった。いわば宇宙の高レベル放射性廃棄物が集まってできたのがこの地球です。ウランは超新星爆発とともに出来、さまざまな放射性元素とともに、原始の地球を形作った。その後地球がだんだん冷えて、そこに生命体が生まれ、我々人間が登場してくるのですが、放射性元素はその崩壊熱で地球を内部から暖め、火山活動を支えたりする役割を担ってきた。

 ウラン238の半減期は46億年ですから、地球ができた時代の半分くらいのウランがまだ地球上に残っていることになります。ウラン235は半減期がもっと短いので、地球ができた時代の100分の1くらいに目減りしています。しかし、目減りはしたがまだ残っている段階で、我々はそれを使って、原子力エネルギーを取り出す技術を手に入れることができた。

 これは宇宙が地球に残した埋蔵金ともいえるでしょう。この埋蔵金を上手に使い、生態系に影響を及ぼさない形でエネルギーとして利用していく。そういう体系を作っていくことは非常に大事なことだと思います。ですからプルサーマルは、これまで生態系に迷惑を及ぼし続けてきた人類が、これから地球の埋蔵金をうまく使って折り合いをつけてゆく、新しい文明の始まりともいえる。

 地球環境や資源の問題をクリアしていくうえで、プルトニウムをリサイクルすることは大きな命題だろうと思います。


宮 崎    ありがとうございました。
 では、パネリストの皆さんには最後に1分程度のコメントをお願いします。


奈良林    私は大学に身を置く人間として、これからの時代、地球環境を救うために一人でも多くの学生が活躍できるようしっかりと講義をして、学生を鍛えて世の中に送り出したいと思います。


中 村    エネルギー自給率を高めるためにプルトニウムを使うのは大事なことだと思います。フランスはオイルショックの後、火力発電、つまり外国の油に依存する発電所はやめて、全部原子力発電所に変えました。そういう強い政治が必要だと思っています。


里 中    先ほどのスイスの例を見せていただいてふと考えました。エネルギー問題、食料問題について自立することはとても大事で、それでこそ誇りが持てるわけです。まちづくりを考えると、スイスのように原子力発電所の熱を利用したり、お湯を使って温室栽培などで農業に利用したり、医療などにも使っていけますね。地域全体でうまく使い、皆で管理して責任を持つ。その代わり恩恵も受ける。モデルケースになる地域ができれば、ずいぶん違うのではないかと思います。楽しみにしています。


宮 崎    では最後に秋元さん、一言どうぞ。


秋 元    60数年前、日本はエネルギーのために戦争を始め、原爆という人間が発明した巨大なエネルギーの犠牲になって戦争に負けた。そういう歴史があるにも関わらず、現在の日本のエネルギーに対する関心度は、決して十分ではないと私は思います。長崎の原爆で亡くなられた医師の永井隆さんは、ご自身が白血病に侵されながらも「この巨大なエネルギーをどうやって平和のために使うかがこれからの課題だ」とノートに書き残しています。

 私自身も広島から15kmくらい離れたところで原爆に逢い、広島市の惨状も目撃しました。このようなことが二度と繰り返されることは、金輪際あってはならないと強く思います。と同時に、これほどに巨大なポテンシャルを持つエネルギーでなければ、次の世紀を背負う基盤エネルギーの役割を果たすことは出来ないとも思います。

 だからこそこの巨大なエネルギーが、平和のための、平和だけのためのエネルギーとして、世界を支える日が一日も早く訪れるよう、祈り、そのために微力を尽くしたいと思います。


宮 崎    ありがとうございました。パネリストの皆さんそれぞれのお立場から有意義なお話をいただきました。地球では生態系が循環しています。水も生き物も、私たち人間も同じです。循環のしくみを単なる技術や経済活動ではなく、文化としてどうとらえていくかという視点も大切なのではないかと思います。

 本日のフォーラムは以上で終了させていただきます。
 ご静聴をありがとうございました。


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