北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
パネルディスカッション
 地球温暖化とエネルギー問題 〜なぜ今、核燃料サイクルなのか〜

 
(7-5)
    【第二部】 「核燃料サイクルの必要性・安全性」

放射性廃棄物はごみ、それとも宝の山?

宮 崎    ここでひとつ確認したいんですが、先ほど「原子力は放射性廃棄物というごみが出てくる」という話がありました。高レベル放射性廃棄物として処理するのではなく、今使われていない部分をリサイクルすれば再利用できるという点について、奈良林さんからご説明いただけますか。


奈良林    先ほどご説明しましたが、これが新品のウラン燃料です。

発電後に燃料内にプルと有無が生成
(出典:鈴木篤之著「原子力の燃料サイクル」※図は再掲)

 これが全体で1000kgあったとすると、核分裂しにくいウラン238が970kgくらいあります。核分裂反応をするウラン235が20kg程度使われます。それ以外は核分裂生成物として残り、いわゆる核のごみとなります。これを取り除くと、また核燃料として使えるというのが原子力のリサイクルです。これは放射線が強いので、再処理工場では安全に隔離して遠隔操作で処理します。


宮 崎    95%が再利用できるとすると、ほとんど目減りせずに済むのですね。


奈良林    そうですね。もしも爆弾にしようと思えば、1%のプルトニウムしか使えません。しかし平和利用のための原子力発電ですから、95%は再利用できます。


宮 崎    爆弾にしようなどという意識はないはずですが、例えばイランや北朝鮮などの例を見ると、核拡散についての不安は拭い去れない部分もありますね。


奈良林    国際的な監視機関である国際原子力機関(IAEA)などが査察して、プルトニウムが安全に保管されているか、どれくらい使われているかを常にしっかり管理して明らかにしていくのが大事だと思います。放射性物質は微量でも検知して確認できますし、原子力発電所で何年運転したらどれくらいの放射性廃棄物ができるかも全部わかります。全体量を人間がきちんと管理できるんですね。北朝鮮は核査察を受け入れるかどうかで抵抗しているようですが、国際社会の中で監視して、北朝鮮が核を安全な方向に使うように促さないといけないと思います。


宮 崎    世界の中で核拡散が懸念される事態が背景にあると、やはり多くの人たちは原子力と切り離して考えにくいかもしれませんね。


中 村    その傾向は大いにありますね。しかし、事実じゃなくて政治の話ですよ。例えば北朝鮮より先にインドが1974年に核実験をしましたが、その10年以上も前からいくつも再処理工場を持っていたんです。確かに核実験はやりましたが、そのインドの技術はどこにも出ていません。中国は自国の技術をパキスタンに輸出したりしていますから、インドが核兵器を持とうと思えばできるでしょう。でも、何十年間もそれを門外不出にしてきた実績があります。日本が核兵器を持つわけはありませんが、他国は日本とドイツを油断できない国と見て、良くない情報を流したりします。それが反対運動の背景にあることは間違いないと思います。


秋 元    今まで平和利用の施設で核兵器が作られた例は一つもないし、軽水炉の燃料から核爆弾が作られ兵器に転用された例ももちろんない。北朝鮮のような国は、はじめから軍事目的の原子炉で、核兵器に向いたプルトニウムを作ります。仮に世界から平和利用の核燃料サイクルを締め出しても、こうした危ない国が生まれるリスクを減らすことにはならない。核拡散は政治的な意志が引き起こす問題で、それを技術問題にすり替えて、正当な平和利用活動を阻害するようなことは、正しい姿勢とは言えないでしょう。プルトニウム発見者のシーボルグ博士がいみじくも喝破しておられるように、「平和利用の核燃料サイクルは、核拡散リスクの主要因ではなく、将来もそうではない」のです。

 実際、日本でも国際原子力機関(IAEA)などがきちんと査察していますね。青森県六ヶ所村の再処理工場には常駐していますし、日本でプルトニウムや濃縮ウランを扱う場所には全部査察が入っています。こうした国際的に透明な管理システムを作り上げるためには、日本もリーダーシップを執って大いに貢献しました。北朝鮮はガラス張りにされては困るものだから「IAEAは早く出て行け」と抵抗していますが。


中 村    もしも日本が爆弾を作ろうとしたら、世界中から経済封鎖をされるでしょうね。そうなると輸出は一切できない、外国から石油も鉄鉱石も買えないから一度にお手上げです。日本で爆弾を作ることは事実上不可能ですね。


宮 崎   さて、この核燃料サイクルについてですが、安全面はある程度のところまでは技術でまかなえることがわかりました。あとは感覚の問題として「安心か不安か」という点については、もう少し情報が出ていけば改善されるかもしれない。そうなると、原子力を推進するほうがわが国にとって得ではないかという見方に傾いていきますが、里中さん、いかがですか。


里 中    私自身は、わが国に損か得かというよりも、最終的に「自分が気持ちよく死ねたら」と思います。自分が生きていたことでこの世に迷惑をかけたのじゃないかという思いが少ないほど、人は安心して死んでいけますからね。


宮 崎    それは、地球環境を汚すのは人類の営みによるものだから、究極をいえば人間がいないほうが地球にはいいという意味ですか。


里 中    そうです。でも、あれはダメ、それもダメといわれて、では昔の生活に戻れるかというと、100年前の日本人の食生活に戻ったら、たいていの人は一日で嫌になると思います。低カロリー、低栄養で、消化に非常に力のかかる食事内容で、平均寿命は50歳くらい。それでいいのかという話です。

 人が一生懸命勉強して知識を蓄えたとしても「もっとこうすればよかった」ということは必ずある。だから国も100%というのはないでしょうが、国民として政治家に求めるのは120%ですね。せめて「ここまでやったんだから」と思える程度までは頑張っていただきたい。

 環境問題に関しても、まだ私たちはすべてを知っているとはいえないので、良かれと思って今していることが、実は何の役にも立たないとわかる日が来るかもしれない。でも、そのように気づくということが、人が知識を蓄えたり研究したりすることの成果だと思うんです。温暖化のスピードも上がっていますが、人類の知恵と技術も著しく進歩していますから、今ごみ扱いされているものが実は宝の山だということもあるわけです。

 例えば、高レベル放射性廃棄物は厄介なごみかもしれませんが、今後の技術の発展によってもっと使えるようになる可能性はあるのでしょうか。高レベル放射性廃棄物から熱が出るのであれば、それをエネルギーに変えて熱利用できるのかどうか。


奈良林    先ほど話したように、燃料をリサイクルして軽水炉や高速増殖炉で使うことができます。また、高レベル放射性廃棄物をガラス固化体にしたものは、密封して放射線を遮へいしてあれば、あまり強くはありませんが、じわじわと熱が出てきます。北海道のどこかに埋めておけば雪を溶かすのに使えるかもしれません。減衰して出力が下がっているけれども、そういう熱利用での使い方はできると思います。ごみではなく宝になる日が来るかもしれません。


里 中    先ほどお話に出たラブロックさんが放射性廃棄物を庭に埋めてほしいという話ですが、暖房設備ではなく周りに何か装置をつけて、その熱を地熱発電のようにエネルギーとして再利用できるのでしょうか。


秋 元    もっと進んだ使い方の研究も進められています。例えば現在は高レベル放射性廃棄物に回されている「マイナーアクチナイド」と呼ばれる元素群があります。ウランは原子炉の中でプルトニウムに変わりますが、プルトニウム以外にもネプツニウムやアメリシウムなどいろいろな元素が生まれてくるのです。高速中性子炉だと、こういうものをかなり器用に燃やしてくれます。軽水炉で燃えないものが高速炉で燃えるようになるわけです。


里 中    では、高速増殖炉を使えば放射性廃棄物がもっと減るわけですね。


秋 元    そうです。そのうえ、高速炉では寿命の長い放射性元素を、もっと寿命の短い元素に変えるといった芸当も出来る。これをトランスミューテーション(核変換)といいます。半減期の長すぎる元素を除くことが出来れば、高レベル廃棄物の放射能も、数百年も経てば周辺環境とあまり変わらないレベルにまで下がる。そのように、再処理技術が進めば、今後もいろいろな可能性が生まれてきます。

 もう一つ、ロジウムやパラジウムなどの白金属元素は、燃料電池など水素を使いこなすうえで非常に大事な物質ですが、これらが核分裂生成物にかなり多く含まれています。それを分離して使う技術ができれば、高レベル廃棄物から、貴重な資源が生まれてくる。技術的にまだ確立されていない点も多くありますが、可能性は大きく拡がっている。夢のある分野です。


奈良林    核分裂反応では、例えばウランとプルトニウムが別の物質に変わるわけです。レアメタルも含めていろいろな物質ができますから、世界中で知恵を出し合って新しい技術を開発すれば、もっと明るい未来に変わっていくのではないかと思います。そういう努力を皆でしていくことが必要だと思います。


宮 崎    中村さん、資源を回して違うものを作り出していくことについてはいかがですか。


中 村    資源は限られていますから、できるだけ回して使わないと人類は何千年も生きられないと思います。ですから私は、原子力のリサイクルに基本的に賛成です。ただ、一般の人は地中に高レベル放射性廃棄物を埋めると、それが溶けて地下水に混じり、我々の環境まで上がってくるのじゃないかという心配を持つわけですね。当然だと思います。

 私は世界中の研究所を訪ね、専門家たちの意見も聞いてみました。高レベル放射性廃棄物を金属容器に入れ、二重にして周りに粘土を置いて水の浸入を防ぐと、何百年、何千年の間には水が入ってきて金属が腐蝕して中のものが溶け出すかもしれない。そのときに、ウランやプルトニウム、カルシウムがどれくらいのスピードで動き出すかなどについて、専門家はいろいろな種類の放射性物質を使って測定しているんです。その結果「10万年くらいは地上の環境に上がってくる心配はない」と。各国でだいたいそういう結果が出ています。でも一般の方たちはそういうことをご存じないでしょう。それをどうやって理解していただくかということが大事です。よくわかれば安心しますよ。

パネルディスカッションの様子

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