北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
パネルディスカッション
 地球温暖化とエネルギー問題 〜なぜ今、核燃料サイクルなのか〜

 
(7-4)
    【第二部】 「核燃料サイクルの必要性・安全性」

原子力を取り巻く「安全」と「安心」

宮 崎   ここまでの奈良林さんのお話では、次世代に引き継ぐエネルギーについて考えるとき、その解決策の一つとして核燃料サイクルをご説明いただきました。
これに関して、パネリストの皆さんからご質問はありますか。


中 村   ウランもいずれはなくなりますね。人類はこれから何千年生きるかわかりませんが、ウランだけでは持たないと思います。その点で核融合がいいと思いますが、これは1億度の火の玉を閉じ込める技術ですから、原子力発電が危ないなどと言っているような今の時代では、とても実用化は無理だと思いますね。


宮 崎   核融合というのは、自然界では太陽がやっていることですね。


中 村   人工の太陽を作ることはできるかもしれないが、使いこなすのは容易でないと思います。ですから当面ウランの時代が続くのではないでしょうか。ただ、現在は燃えないウランが大半ですから、これをプルトニウムに変えて使うのは当然ですね。灯油が安いときには「何もそんなことしなくていいのじゃないか」と皆思いがちです。しかし、そういう時代においても、スイスやベルギー、ドイツ、フランスは、プルトニウムを濃縮ウランの代わりに原子炉の燃料としてずっと使ってきて将来に備えていた。日本も早くからそういう研究をしてきましたが、住民の同意が得られないなどの理由で今日に至っていますね。残念なことだと思います。


宮 崎   「安全」「安心」という言葉は日本では同列でよく使われますが、実は大きく違うと思います。「安全」は技術で追究するものですが、「安心」はもっと心理的な要素が入ってきますね。仮に技術が100%大丈夫でも、信じていなければまったく安心ではないし、逆にすごく危ないのに無防備に安心しているかもしれない。それが原子力の難しさの一つではないかと思いますが、里中さん、いかがですか。


里 中   そうですね。難しい部分でもあり、安心できる部分でもあります。

人間は自然を制御しようとしながら発展してきた面もあると思いますが、結局自然の大きな力には勝てないわけですね。ですから、あまり環境を変えることには賛成できません。例えばダムもそうです。水力発電がどれだけ川の環境を変えたことか。ダム上流の川底に泥がたまるのも怖いし、生態系にも影響がありますね。私は最初、水力発電をすごいと思って見てきた世代ですが、そのうち石油の時代といわれて火力発電が注目され、今は温暖化が急速に進むなかで二酸化炭素を出すのが心配になってきた。では原子力の時代かというと、これも厄介なごみが出るわけですね。

ただ、原子力のごみというのは、人間が本気で気をつければ安全に保管できるわけです。原子力エネルギーこそが人間の知恵の見せどころだと思うんです。燃料が燃えることで空気中の酸素と水素が反応して二酸化炭素ができることは止められないし、自然の降る雨も止められませんから。

温暖化といわれていますが、確かに地球は歴史上何度も冷えたり温まったりしていますし、現在のような暖かさは過去にもあったそうです。青森県にも大きな縄文遺跡がありますね。照葉樹の化石もあり、昔の海岸線を見ると、そのころは暖かかったんだとわかります。


宮 崎   1万年前は3度くらい高かったといわれていますね。


里 中   1万2千年くらいのサイクルで暖かくなったり冷えたりしているようで、私も10年くらい前まではそのせいだろうと思っていました。ところが、この急激な気候変化は地球のライフサイクルを超えてしまっていると思います。安心していられない最も大きな理由がそれです。

また、もっと怖いことがあって、北極と南極の氷が溶けると海水温が上がってしまうんです。北極とイギリスの間にある海の温度がすごく低いから、海水が沈み込み、押された水が浮き上がってくる。そこを出発点として世界中の海が巡っているわけですが、近年その沈み込みが浅くなっているそうです。ということは、海が淀んでしまう。これを人間の知恵で何とか食い止めなければなりませんね。

原子力エネルギーはごみの始末さえちゃんとすれば安全だといわれながらも、面倒なごみであることは確かです。でも、温暖化を食い止めるために、とりあえず今できることとして原子力エネルギーを使う。知恵を出すのが人間の使命ですから、いずれもっとすばらしいエネルギーを生み出せるかもしれない。もちろん現在も実験段階のものはたくさんありますが、すぐに実用化できないわけですね。そうなると、今持っている技術でとりあえず温暖化を食い止めるとしたら、原子力エネルギーをうまく使うしかないように思います。実は私も、一時は原子力発電所を怖いと思っていましたが、怖いと思うからこそ安全に作ろうという知恵を一生懸命働かせてきたのだと思います。今持っている知恵をうまく使い、次の技術に転換するまでに時間稼ぎをする。そのために、いい技術をこの時代に持っていて良かったと思います。


宮 崎   見える形で「安心」を示してもらえると、もっとアプローチがしやすくなりますね。

また、海流が蛇行しなくなるという先ほどの話ですが、イギリスやフランスなどヨーロッパの緯度の高い地域は本来寒いのに、なぜあんなに穏やかな気候なのかというと、暖流が上がってくるからです。これがなくなるとヨーロッパは冷たくなる。つまり、温暖化によってヨーロッパは寒くなっているわけです。先ほどから話に出ているフランスのル・モンド紙は「かつて恐竜は寒冷化によって凍え死んだ。いま人類は温暖化によって凍え死のうとしている」という皮肉なコラムを書いています。そういう影響も含めて考えないといけません。

さて秋元さん、見える形で安心を示していくにはどうしたらいいのでしょう。


秋 元   まず「温暖化」そのものが悪だという考えは不適切だと思います。平均温度の少々の上がり下がりよりは、変化のスピードが問題なのです。

パネリスト 秋元勇巳 氏
自然には我々の体温調節に似た自己調整能力が備わっているのですが、自然のリズムをはるかに上回るスピードで人間が気候因子に攪乱を与えると、制御のメカニズムが利かなくなってしまうおそれが出てくる。その攪乱因子の最たるものが炭酸ガスなのです。では、どこまで炭酸ガスが増えたら制御が利かなくなるのかというと、これがまだよくわからないわけです。先ほど話に出たラブロックが使ったモデルでは、炭酸ガスの量が500ppmを超えると、留め金が外れ暴走してしまうという計算結果がでています。

実は、5500万年前に何百万年も焦熱地獄が続いた時期がありますが、そのときの炭酸ガスの濃度は900ppmだったそうです。ただ900ppmというのは暴走の終点の濃度ですから、暴走が始まった濃度はもっと低かったろう。それがどのあたりだったのかがわからない。もしかすると我々はそのしきい値をすでに超えてしまっているのかもしれないし、あるいはまだ少し余裕があるのかもしれない。


宮 崎   ちなみに今はどれくらいですか。


秋 元   360ppmくらいです。先ほど奈良林さんが示された「成り行きケース」だと、21世紀末にはラブロックが警告した500ppmくらいになると思います。暴走が始まってからでは、ブラックホールに吸い込まれる宇宙船のようなもので手の打ちようがない。その前に食い止めることが非常に大事です。

ところで原子力が不安だという理由に、よく放射性廃棄物が出るからといわれる人が多い。しかし私に言わせれば放射性廃棄物ほど安心な廃棄物はないんです。というのは非常に微量でも在処をきちんと検出し追跡できるからです。我々の周りにあるいろいろな危険因子の多くはそれができません。例えば、発癌性の高いアスベストにしても、中国製餃子のメタミドホスで注目を浴びた農薬にしても、社会のどこに潜んでいるのか、正しく処理処分されているのか、詳細に追跡するのはかなり困難です。それに産業廃棄物や一般廃棄物に比べると、原子力の廃棄物は格段と量が少なく、ほかに例がないほどきちんと管理されている。 万一漏れてもすぐ見つかるような放射性廃棄物をなぜ怖がるかということです。


宮 崎   はっきり量も経路もわかるから、追跡できるし、処理もできるという意味ですね。


秋 元   そうです。例えば柏崎刈羽原子力発電所で燃料プールから水が漏れたという話がありましたね。あのときの漏洩水の放射能は、世界有数のラジウム泉として知られる鳥取県、三朝温泉の温泉水よりももっと低いんです。我々の血液中にも放射性物質が含まれていますが、それよりももっと低い。日頃浴びている放射線強度よりずっと低いレベルまで、ちゃんと測ることができるんです。

高レベル放射性廃棄物も、おどろおどろしい名前で不安に思われるのも無理からぬ気もしますが、他の産業廃棄物に比べて量がずっと少なく、管理する技術も高レベルです。ハリウッドばりのホラーストーリーに災いされて、不安に駆られる人が多いというのが、原子力にとって一つの不幸だと思います。私はもう少し公平に、冷静に考えるべきだと思います。


宮 崎   では中村さん、どうぞ。


中 村   「安全だけど安心できない」というのはどういうことか。例えばペットボトルに入っているこの水を飲んで大丈夫かどうかという保証はないですね。もしかすると毒が入っているかもしれない。でも、皆さんは「入っていない」と思って飲みますね。それはよくわかっているからです。だから、知っていれば安心できるものだと思いますね。

新聞では原子力について「不安がある」とよく書かれますが、書いている連中は現場に行かないからよくわからない。よく勉強していなくてわからないから「不安だ」と書くんです。例えば柏崎で地震があって10日後に、読売新聞の社説では「大丈夫だ」と書いていましたが、北海道新聞の社説では「まだ油断できない」と書いていました。おそらく現場に行かなかったからです。原子炉が止まって放射能が出ていないのだから、実際に確認すれば、原子炉がきちんと止まっていることもわかるはずです。

放射性廃棄物に関してもお話が出ましたが、世界が化石エネルギーを使って出している二酸化炭素の量は年間280〜290億トンです。ラブロックさんの計算によれば、これをマイナス180度に冷やしてドライアイスにすると、高さ1600m、周囲19.2kmの山になります。同じエネルギーを原子力発電で出すと、放射性廃棄物は16立方m。つまり200分の1の容量です。二酸化炭素は野放しですが、放射性廃棄物は絶対野放しにできない。なぜなら勝手に捨てられないようになっていますし、ちゃんと管理できるからです。

高知県東洋町が最終処分地の候補になったとき、地元の皆さんは住民投票で反対しました。放射性廃棄物の近くにいたら20秒で即死するから危ないと。もちろんそばにいたら即死しますが、近づけないようになっているんです。そういうことを知れば、あれほどの反対はなかったのじゃないかと思います。青森県六ヶ所村には高レベル放射性廃棄物も低レベル放射性廃棄物もありますが、誰も何ともないでしょう。きちんと管理されて人が近づけないよう隔離されているからです。そういうことを一般の方たちによく知っていただくのが、安心のためにいちばん重要だと思いますね。


宮 崎   よく言われるのが「じゃあ、お宅の裏庭に作ったらどうする?」ということですね。「Not In My Back Yard(NIMBY)」といって、自分の裏庭にはあってほしくないという住民感情を差す言葉として使われますね。


中 村   裏庭だって、地中を深く掘って埋めれば私は大丈夫だと思いますよ。地盤さえよければね。


宮 崎   中村家では引き受けますか?


中 村   もちろん引き受けますよ。だって、引き受けたらお金をたくさんいただけるんでしょう(笑)。アパートや駐車場を作ると、土地を買って建物を建てて自分で管理しなきゃいけませんね。でも、最終処分場を建てると、国や電力会社が全部管理してくれるし、そのほうが儲かるから絶対にいいと思いますね(笑)。


秋 元   ラブロックさんは5万坪くらいの耕作放棄農地を買い、そこに住み木を植えてエコ活動を実践しているんですが、彼は「自分の庭に高レベル放射性廃棄物を埋めてくれ」と提案していますね。もしも埋めてもらえれば、そこから出る熱で冬も暖房ができるし、「私にとってこんなすばらしいことはない」と言っています。

パネルディスカッションの様子

 

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