北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム
「これからの日本のエネルギーを考える」

【第一部・講演】

(5-3)

産業の成長を阻むエネルギーコスト

山本 グラフの中で一つだけ、儲けの大きい産業があります。製造業です。先進国の中で日本とドイツだけは、ものづくりで依然として稼いでいる国といえます。ご覧いただいたように、宿泊や外食は年収が低い。稼いでもなかなか豊かにならないので、年収の高い製造業や金融、情報などで稼がなくてはなりません。しかし、日本の製造業はリーマンショックで落ち込み、また伸び始めたころに東日本大震災が起こって、それからなかなか回復できずにいます。電気料金に影響されているからです。

国のイノベーション指数

 日本の革新力(イノベーション指数)は、世界20位ぐらいです。韓国にも抜かれましたが、中国よりは上という程度。非常に悲しいことです。製造業がこの20年間、力をなくしていたためです。デフレになると物価が下がり、収入が減っていきますが、最初にしければいけないことは、お金が貯まったら借金を返すこと。製造業はみんなそれをやりました。お金が貯まったら借金を返し、設備投資はしない。その結果、国の革新力は下がっていきました。これはデフレがなせる業です。そんな中で、製造業が頑張って回復しようとしていたら、電気代がすごく上がってしまった。冒頭でお話ししたように、製造業の電気料金が1兆2千億円も増えてしまったわけです。

東日本大震災後の電気料金の推移

 電気料金は2014年に一番上がりました。そこから原油が下がり始めて電気料金も少し下がりますが、全国平均では家庭用で25%上がっています。一つは燃料代によって上がったということです。産業用が4割近く上がっています。製造業は電気をたくさん使うので、電気代上昇の影響は大きくなります。

製造業成長率とエネルギーコスト

 このグラフの右側は、産業によって電気代やエネルギーコストの比率がどれくらい違うかを表したグラフです。左側は、震災後にその産業がどれくらい成長したかというグラフです。これを見ると、エネルギーコストの高い産業は成長していないことがわかります。エネルギーコストの負担が低い産業、つまり自動車や電気機器は成長しています。電子部品・デバイスは落ち込んでいます。エネルギーコストの一番大きい鉄鋼やセメントは停滞しています。エネルギーコストの負担だけが産業の成長に影響を与えるわけではありませんが、しかし明らかに影響を与えているといえます。

北海道と全国の産業構造

 エネルギーコストは、北海道の経済にも非常に大きな問題です。北海道は製造業と建設業を合わせて16.7%ぐらいしかありませんが、北海道の製造業で一番大きいのは食品です。次は、鉄や紙パルプ、石油、エネルギー多消費型産業しかない。ということは、北海道の製造業は電気代、エネルギーコストの上昇の影響を最も受けている産業といえます。早く電気代が下がるようにしないとますます大変なことになる、ということをグラフは示しています。

電気料金はなぜ家計を圧迫するのか

山本

所得と電気料金支出額の推移

 これは、世帯平均所得です。日本人の平均世帯所得(2人以上世帯)は540万円ぐらい。実は日本では、世帯所得が540万円以下の家庭のほうがはるかに多いです。540万円以上の家庭は4割もありません。ではなぜ平均がこんなに高いかというと、孫正義さんのような高額所得者がいるからです。中央値は427万円ですが、これが日本人のちょうど真ん中の世帯の所得です。そこから税金や年金などを払い、可処分所得は300数十万円です。使えるお金が300数十万しかない中で家庭用の電気料金もこんなに上がっています。年間11万7000円ぐらいだったのが、いまや13万円を超えています。「ひと月千円ちょっとだから、大したことじゃない」と言う人もいますが、やはり影響は大きいです。

 なぜかというと、みんな節電しています。単価が平均25%上がっていますが、電気代の支払額は10数%しか上がっていません。それは節電しているからです。一番の問題は、日本に2000万人いるといわれている貧困層。お金のない人たちは、もともとコタツと照明器具とテレビぐらいしか使っていないので、節電のしようがないわけです。逆に、節電できている人は、無駄な電気を使っていたということ。節電する余地もない貧困層の人たちにとって、この電気代のインパクトは非常に大きい。産業にも家庭にも、電気は非常に大きな影響を与えています。

山本 隆三 氏 なぜ電気代がこんなに上がったか。それは、原子力発電所がどんどん止まっていって、その分、化石燃料や石油、石炭を使う発電所が増えていったこと。さらに悪いことに、2011年から2014年秋まで石油の値段が上がり、1バレル(159リットル)当たり100ドルを超えました。もっと悪いことに2013年1月、日銀が量的緩和を宣言します。アベノミクスが始まって、1ドル80円が120円になります。それまで80円のときは、100ドルは8000円でした。1バレルの原油を買ったら8000円払っていたのが、120円になったら12000円払わなくてはいけなくなった。ということは、量が増えて単価が上がり、円建ての値段も上がった。これは三重苦です。そして電気代が上がっていったわけです。

 もう一つ、2012年7月に再生可能エネルギー固定価格買取制度というのが始まりました。電気代が24〜25円のときに、42円で家庭用の太陽光パネルからの電気を買ってくれたわけです。そういうものを同時に始めると、電気代はもっと上がることになります。いま家庭と産業でどれくらい負担しているかというと、1kWh当たり2.25円。産業用電気料金の1割以上がこの負担額です。日本全国では1兆8千億円負担しています。皆さんも、今日帰ったら電気料金の領収書を見てください。そこにひと月数百円の負担金が入っています。

エネルギーへの危機意識が乏しい日本

山本 日本で固定価格買取制度が始まったころ、ヨーロッパ各国は、再生可能エネルギーは電気代を引き上げるのでどうやってやめるかを考えていました。この後、ドイツは2014年に固定価格買取制度を原則廃止します。今年1月1日からは入札制度になり、安い値段でなければ電気は売れません。また、スペインは買い取り価格を遡及して下げました。スペインでは「法律を決める権限は政府にある。だからこれは有効」という判例が最高裁で出されました。イタリアは新たに税金を導入します。「太陽光発電を導入している人は新たに税金を払ってください」というものです。そういうことを各国が進めている最中に、日本は逆の政策を進めてしまい、電気代を上げて家庭にも産業にも影響を及ぼしているというのがいまの姿です。

ドイツと日本の輸出額推移

 このグラフは、ドイツと日本の輸出額推移です。ドイツは伸びていますが、日本は全然伸びていません。なぜかというと、ドイツは電気代に仕組みがあります。輸出産業には、はるかに安い電気代が設定されています。日本の半分以下で、アメリカ並みの電気代です。

島国の安全保障-EUとの違い

 安全保障の話に移ります。ヨーロッパの送電線はつながっています。ヨーロッパとアジアとを分けるウラル山脈があり、この手前まで送電線がつながっています。シベリアまでは行っていません。ウクライナの大きな輸出産業は電気で、せっせとヨーロッパに輸出して稼いでいます。トルコ、中東、イスラエルを通ってエジプトまでつながっています。一方は、地中海を渡ってモロッコ、アルジェリアまでつながっています。イギリスはフランス、オランダにつながっていて、ノルウェーともつなげようとしています。電線も天然ガスも全部つながっています。

 日本は、石油の8割以上、天然ガスの3割を中東から買っています。すごく怖いことです。ヨーロッパでは、一つの地域から3割以上買ってはいけないというルールがあります。現状でヨーロッパは、天然ガスや石油、石炭などの輸入量の3割をロシアに依存していますが、その状態を危ないと考えているわけですね。やはり相手が脅しのうまいプーチンさんなので、そういう人に3割も頼っているのは怖いから、何とかしようと必死です。

 ところが、日本は3割どころではありません。1次エネルギーの約45%を中東から輸入しているという大変な状態です。でも、あまり危機感がありません。

ハーフィンダール・ハーシュマン指数

 これは日本とEUに関してエネルギーの独占を表す指数です。指数が大きいほど独占が進んでいる、つまり分散が進んでいないということです。指数の小さいヨーロッパのほうが日本より分散が進んでいるということ。送電線もパイプラインもつながっていて、さらに分散が進んでいます。エネルギー安全保障の面では、ヨーロッパは日本よりいいポジションにいるということですね。

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