北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム
「これからの日本のエネルギーを考える」

【第一部・講演】

(5-1)

【第一部】講演(山本 隆三 氏)
 

常葉大学経営学部経営学科教授
NPO法人国際環境経済研究所所長
山本 隆三 (やまもと りゅうぞう) 氏

電気代と経済は密接に関係している

山本

山本 隆三 氏 静岡県の常葉大学から参りました山本です。皆さん、産業用の電気料金が震災以降にどれくらい上がっているかご存じですか。実は、日本全国の製造業だけで1兆2千億円ぐらい負担が増えています。1兆2千億円というお金は、北海道電力や東北電力など電力会社の懐に一度入りますが、サウジアラビアやインドネシア、オーストラリアなど海外のエネルギー供給国に払われています。

 例えば、製造業における従業員の月例給料は年間約34兆円で、仮に1兆2千億円あれば3%以上の賃上げが可能だったという計算になります。しかし、それが海外に燃料の代金として払われているわけですから、影響は非常に大きいといえます。もしも製造業の従業員に払われていたら、その人たちは旅行や外食に行ったり服を買ったりなどの消費に回せたでしょうから、経済活動が活発になったはずです。しかし、そうはならなかったということですね。

 今日お話しするのは、電気代と経済はどういう関係なのかということ。私たち日本人はこの20年間、非常に貧しくなってきています。日本人の平均給料が過去一番高かったのは1997年です。この20年間、日本人の平均給料は波を打ちながら下がってきています。ようやく立ち直ろうとしていた2011年に東日本大震災があって、そこでまた悪化した。その後に電気代が上がり、景気に相当影響しているという話を最初にさせていただきます。

 次にお話しするのは、安全保障についてです。先月、ある役所の方とお話ししたときに聞いた話ですが、その役所がヨーロッパの普通の人たちを対象にエネルギー安全保障についてインタビューしたそうです。「イギリスで主婦に話を聞いたら、エネルギー問題を非常によく知っていてびっくりした」と言う。「先生どうしてでしょうね」と聞かれたので、私はこう答えました。

 イギリスを含む欧州は2006年と2009年の過去2回、ロシアのプーチン大統領によって天然ガスの供給を止められたことがあります。ロシアとウクライナが揉めて、プーチンさんが天然ガスの供給を止めました。ウクライナはヨーロッパ向けの窓口なので、ウクライナを止めるとヨーロッパの天然ガス供給が止まってしまいます。もちろん、プーチンさんは脅しに効果的なタイミングを知っていますから、過去2回とも供給を止めたのは1月でした。ヨーロッパで一番寒い1月に天然ガス供給を止めると凍死者が出ます。多くの家庭はガスか電気のセントラルヒーティングで暖房しているわけですね。日本のようにこたつや石油ストーブで暖房をまかなう家はありません。そうすると、天然ガス供給が止まると暖房できないことになり、凍死者が出てしまう。そういう怖さを知っているわけです。

 プーチンさんが天然ガスの供給を止めると、新聞の一面にでかでかと出るから、家庭の主婦も「こりゃ大変だ。えらいことになった」と危機感を持つわけです。

 日本は、戦後70年以上経ちましたが、そういう危機を一度も経験していません。1973年にオイルショックがあり、40年以上経ちました。そのとき物心ついていた方は、ひょっとすると石油が入って来なくなるかもしれないという話があったのを覚えているかもしれません。

 ただ日本は、当時副総理の三木武夫さんを特使として中東に派遣し、「イスラエルと仲良くしていない国だから石油を売ってほしい」と頼んで、石油を手に入れることができました。ヨーロッパのようにエネルギー供給で困ったことがないので安全保障についてピンとこないところがあるかもしれませんが、これは非常に大きな問題です。最後に、温暖化と原子力安全についてお話ししたいと思います。

山本 隆三 氏

日本はもう豊かな国とはいえない

山本

世界のなかでの日本人の幸福度

 日本は世界でどれくらい幸福な国かをご存じですか。2015年国連レポートによると、世界一幸福な国はスイス。こうして見ると、世界で幸福な国は先進国ばかりですね。ブータンが世界一幸福だという話を聞いたことはありますか。2年半ぐらい前にブータンの皇太子が新婚旅行で日本を訪れ、テレビのワイドショーでは「世界一幸福な国ブータン」と紹介されました。しかし、ブータンの幸福度は世界79位です。

 実は、ブータンが世界一幸福な国といわれているのには理由があ ります。国勢調査をしたときに「とても幸せ」「幸せ」「不幸」という回答が3つあり、そのうちどれか一つに○をするというものでした。「わからない」とか「どっちでもない」という欄もありませんでした。すると国民の97%が「とても幸せ」か「幸せ」に○をつけたので、世界一幸せな国となっていますが、そのアンケートの方法に問題がありますね。

 実はブータンは、世界中の社会学者から「なんだ、このアンケートは」と言われたので、5年後にもう1回アンケートをやり直したら「幸せ」という人は40%ちょっとしかいなかったということです。やはり経済力、お金がないと、人間はなかなか幸せにはなれないというのが正直なところだと思います。

 日本はといえば、世界46位。前回の国連の調査も同じくらいです。いまの日本の幸福度は韓国、台湾と同じです。

 世界に先進国は40カ国もありません。ヨーロッパの国々と、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、日本。その中で日本が46位というのは先進国といえるのか。どうしてこういうことになったのか。最初にお話ししたように、我々の給料はこの20年間減っています。そのことと幸福度は密接に関係しています。

主要国1人当たりのGDPの推移

 これは、日本人一人当たりのGDP(国内総生産)。簡単に言うと、国民一人当たりの儲けです。皆さんの給料はこの中から払われています。ということは、GDPが増えないと給料は増えません。20年間の推移で日本はどうなっているかと言うと、1995年は世界3位です。8カ国しか載っていませんが、200カ国を入れても世界3位。日本は、過去最高は1994年の世界2位です。ルクセンブルクの次に世界で豊かな国は日本でした。それがどんどん他の国に追い抜かれます。これが「失われた20年」ですね。

 いま、ルクセンブルクの一人当たりのGDPは日本の3倍、スイスは日本の2倍。スイスが世界一幸せな国になるのもうなずけます。日本の半分ぐらいしか儲けのなかったオーストラリアやシンガポールも、日本を追い抜いています。いまアジアで一番豊かな国は、もう日本ではありません。シンガポールです。これが「失われた20年」がもたらした結果です。非常に残念なことです。

購買力平価でみる1人当たりGDP

 このグラフは、一人当たりのGDPについてアメリカを100%として比較したものです。日本はアメリカの3分の2程度。主要国の中で日本より貧しい国はイタリアしかありません。さまざまな統計資料がありますが、どれを見ても、主要国の中で貧しい国は日本とイタリアです。

 2014年には、平均給与で日本は韓国に一度抜かれます。韓国人のほうが日本人より給料が高いという結果でした。もちろん、為替の問題があるので年によって変動し、2015年には日本はまた追い抜いています。残念ながら、それくらい日本は力をなくしています。

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