北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2013
「電力の安定供給に向けて
 〜原子力発電の意義と必要性を考える〜」

(5-5)

質疑応答

宮崎 では、会場の方からのご質問を順にお願いします。

 

会場A ドイツの脱原発の動きについてお聞かせください。

 

奈良林 ドイツはまだ原発を全部止めたわけではありません。確か7、8基は運転中で、100%稼働をキープして発電しています。また、ヨーロッパの国々は送電線がつながっているので、ドイツは隣国のフランスから大量に原子力発電による電気を買っています。ですから、脱原発どころか原発依存の最たるものです。

奈良林 直 氏 もっとひどいのは、太陽光や風力をあまりにも普及させてしまったので、太陽が照っていないときや風が止まったときは、石炭による火力発電でまかなっています。ドイツの経済が傾かないのは、安い石炭が自国にあるからです。太陽光や風力が普及すればするほど、ドイツは石炭火力によって二酸化炭素を増やす国になってしまう。また、太陽光はコストが高いので、電気代はすでに2倍になっています。

 皆さんも、こうした状況で果たして北海道の経済は立ち行くのか、家計簿を見て心配されていると思いますが、これから電気代が倍になったときに日本経済は大丈夫かということを、私は非常に心配しております。

 

宮崎 自国になくても、EUだから国境を越えた連携ができるということですね。

 

会場B 澤先生と奈良林先生にお聞きします。澤先生には、世界人口とエネルギーについてです。日本の人口は下がっていますが、現在70数億人の世界人口は、2030年には80億人を超えるとされています。こうした世界人口の規模に対して、原子力なしにエネルギーを供給できるのかという点をお聞かせください。

 奈良林先生には、石油の埋蔵量について。石油関係者から「石油は無限にある」と聞きましたが、石油は半永久的に確保できるのかどうかをお聞かせください。

 

 原子力がなければ無理だろうと思います。各国とも原子力発電についてさまざまな計画を立てています。

世界の主な原子力発電開発の現状と原子力発電の見直し(IAEA試算)

 現在429基が30カ国にありますが、2030年までに今後100〜400基程度は増え、2030年になれば最大800基ぐらいになるだろうと言われています。特に東南アジア地域で大きな伸びが予想されます。これから途上国のことを考えると、化石燃料は値段が上がっていくので、それとの対抗力として原子力を持ちたいという考えが強くなるだろうと思います。

 

奈良林 冒頭にサウジアラビアの話をしましたが、世界最大の産油国が、2030年には石油を輸出できないと言っているわけです。それで原子力発電所を建設したい、石油を運ぶタンカーはぜひ原子力タンカーにしたいと言っています。それぐらい真剣です。

 2050年には地球人口は100億を超えますから、石油にいつまでも頼るわけにはいきません。また、先ほどお話ししたシェールガスについては、一つの油田から天然ガスを採掘できるのが約3.5年しかないので、常に掘り続けなければいけません。さらに薬剤を使って採掘するので、環境面でも難しい。いちばんの問題は埋蔵量です。だんだん地中深く潜っていくので、採掘するときに使うエネルギーが、それを燃焼させたときに得られるエネルギーよりも上回るところが出てくる。そうなると、シェールガスも非常に経済性が悪く、アメリカですでに倒産している会社がたくさんあります。

 そのように、たとえ埋蔵量があっても、それを掘り出すことによってエネルギー面で損をすることがあります。ですから、原子力をしっかり推進していかなければならないと思います。

 澤さんのお話のように、今後最大800基の原子力発電所が世界にできるといわれています。いま日本は脱原発が騒がれ、完全に鎖国時代に入ってしまっている。海外の情報が入らないです。なぜ安倍総理が世界各国を回っていらっしゃるか。ドイツを除くすべての国がいま、原子力発電所を作りたいと考えています。ですから、脱原発というのは半分は絵空事だと思います。これから人類は、原子力発電所の安全性を高め、しっかり使っていくことが必要だと思います。

 

会場C 原発ゼロあるいは原発廃止という方々は、福島を除けば5地域あるはずです。それを40数年間維持していかなけれならない。稼働しなくても安全を確保しなくてはなりません。それに携わる技術者は、こういう状態で後ろ向きではモチベーションが高まらず、技術者は来ない、動いても安全性の問題がある、止まっていても安全性の問題がある。反対している人たちはどうやって安全性を確保するのか、その点についてお伺いしたいと思います。

 

奈良林 北海道大学は10月から2学期ですが、工学部機械工学科の3年生は130人いて、原子炉工学を必修科目にしました。つまり全員が原子力の安全性、設計のしかた、メンテナンス、冷却システムを学ばないと大学を卒業できません。こういうことをいまやっています。

会場の様子 我々の仕事は人材育成が目的です。事故を起こさないよう真剣に立ち向かう人材を社会に送り出していかなければいけない。修士課程2年の学生は「東京電力を助けたい」と志願して内定しましたが、そういう意志を持った学生もいます。原子力発電所の安全性を向上させるために、学生たちはしっかりと勉強して実践しています。

 

宮崎 ありがとうございます。わからずに反対したり賛成したりというのではなく、知識のデータベースが蓄積されるような教育であってほしいですね。

 

会場D ちょうど80歳です。子どもの頃はランプとろうそくで育ち、今日これだけ豊かな電力で幸せな生活をしています。その中で昭和58年から北海道も遅ればせながら泊原子力発電所1・2号機を稼働させ、その後に3号機ができました。福島第一原発事故が発生した年度において、北海道の電力360億kWhの45%を泊3号機で供給しています。

 設立時には住民が相当抵抗し、反対がありました。地元は反対活動によってかなり精神的ダメージを受けました。その後四半世紀経って、福島の事故がありましたが、いま北電の社員の方々には励ましの言葉を申し上げたい。

 先日も泊発電所の構内を見学しましたが、安全対策に1000億円の投資を行い、完全な施設づくりをしていて、再来年度中にでき上がるようです。道民が北電の技術者を信頼することがいちばん大事ではないかと思います。ここで原子力をゼロにするという考え方はとんでもない話。地元として原子力発電所があることを誇りと思っております。

 

宮崎 ありがとうございました。電源立地地域にいらっしゃる方からのご意見でした。供給側と需要側がいかに信頼関係を築けるか。これがないとコミュニケーションは成立しません。信頼というのは大きなキーワードですね。

 

会場E 今日のテーマは「電力の安定供給に向けて」ですが、原子力の話に特化していて、私自身、原子力は時間が経てばある程度稼働すると考えています。それ以上に、電力自由化と発送電分離のほうが影響が大きいような気がしますが、そのことについて教えていただければと思います。

 

宮崎 いまのご質問はとても大切なポイントだと思います。澤先生にお願いします。

 

 短時間で答えられる話ではありませんが、北海道の場合、電力市場が小さくて、供給力が十分にある状況で自由化をしても、新しい参入者がたくさん出てくるわけではないと思います。北海道に関しては、自由化によってそれほど変化するだろうかと疑問です。

 自由化を進めると、いざというときの電源を誰が維持しておいてくれるのかという不安が出てきます。最後の最後で頼りにする電源というのは、普段は動かさないわけですね。普段動かさないものを競争状態の中で誰が維持しておくのかというと、「儲からないからいらない」「誰かがやってくれればいい」となって、みんなが手を出さなくなってしまう。最終的にバックアップしてくれる電源がなくなることは、停電のリスクが増えることにつながります。そのあたりが非常に難しい問題を抱えています。

 また、北海道のように自然環境が厳しく、災害時には停電のリスクが大きい中で自由化や発送電分離をしてしまうと、復旧のときにみんなで協力し合うコミュニケーションがなくなる可能性もあります。自由化を進める場合はかなり慎重に、さまざまなリスクにどう対応するかという工夫も含めてやっていくべきだと思います。

会場の様子

 

奈良林 送電線は原子力発電所並みに非常にお金のかかる設備で、長い距離に鉄塔を建てて送電線を設置します。このお金をどうしているかと言うと、発電した電力の売上を送電線に投資しています。発送電分離で2つの会社に分かれると、送電会社は送電コストを自分で稼がなければいけないので、送電コストが高くなります。あるいは送電会社が送電設備に投資しなくなります。

 ニューヨークの大停電のときに日本で電力自由化の話がありましたが、立ち消えになりました。それを忘れてしまってまた同じ話になっています。私も、澤さんがおっしゃったように、簡単にやるべきものではないと思います。

 

会場F 85歳で、北海道でいちばん古い技術師の資格を持っています。原子力規制委員会のあり方と核融合の生成物の処理問題についてお聞きしたい。前者はこれまでお話が出たので割愛します。核融合の生成物の処理について、太陽に送ってしまう方法もあると思いますが、いかがでしょうか。

 

宮崎 ありがとうございます。ダイナミックな発想ですね。奈良林先生にお願いします。

 

奈良林 宇宙に打ち上げるというのは、いまの技術ではお金がかかりすぎてたぶん無理だと思います。カーボンナノファイバー、つまりナノチューブで作ったロープで「宇宙エレベーター」というのが開発されています。エレベーターで地球の軌道上まで運ぶというものです。その時代になれば小さなロケットを太陽に向けて打てばいいので、たぶん200〜300年後ぐらいにはそういう時代が来ると思います。

 それまでどうやるかということですが、高レベル廃棄物はガラスと一緒に固化し、ステンレス容器に入れます。埋設処分は一度に行わず、40年間は地上で保管します。ただし、40年後に放射能が1千分の1、150年で1万分の1、800年で10万分の1、3000年で100万分の1になります。ウラン鉱石の10倍ぐらいなので、たぶん手で握っても大丈夫です。ですから、もしも埋めることがダメな場合には、ピラミッドぐらいの石の建物を作って並べておけばいいんです。そういうことが現実にできています。

 すでに青森県で高レベル廃棄物を空冷して保管する施設ができ、実際にもう保管しています。フランスで処理したものを受け取って保管し、空冷しています。これを40年間やったら埋設処分しますが、日本で埋設処分する適地が見つからなければ、150年でさらに1万分の1まで下がる間を見ていればいいわけです。見つからなければ、3000年のピラミッドでいいわけですから、必ず答えがあると思います。

 エレベーターで太陽に送るという話もそうですが、そういう時代まで人類が進歩しないわけがない。ですから、いまできることを着実にやっていくことが、廃棄物の処理についても重要だと思います。

 

宮崎 発想さえあれば実現するかもしれないということですね。大いにダイナミックに考えていったほうがいいですね。

 

会場G 今日は幅広いお話をありがとうございました。私は二つ申し上げます。廃炉するにしても進むにしても、技術者の問題は非常に大きいと思いますが、先ほどの奈良林先生のお話で学生の関心の高さが見えたのが良かったと思います。また、今日道新の記事に活断層の問題が出ていましたが、奥村先生のお話の中から、少々私もわかり得たような気がします。

 規制委員会のあり方については、専門の先生方それぞれの主張もあり、派閥もあるのでしょうが、その辺の問題がとても大きくなってくると思います。国民というのは風潮に流されがちなところがありますので、国のきちんとした考え方、マスコミの考え方が正しく国民に伝わるようにしていただきたいと思います。また、宮崎さんの問題提起はとても良かったと思います。ありがとうございました。

まとめ

宮崎 最後に、今日のテーマに対する結論を一言ずつお願いします。

 

 福島第一原発事故からこの2年間、冷静な雰囲気で議論のできる場がずっとほしかったのですが、ようやくそういう時期が来たのかなというのが今日の印象であります。

 

奥村 2011年の地震と津波が、我々科学者や技術者にとって大変なショックでした。何が真実で何が間違いか、それをきちんと切り分けて乗り切らないといけないし、いまだに感情的に活断層について語ることが原子力の安全につながるかのように言われているのも間違っていると思います。そこで重要なのが、先ほどから何度も出ている「信頼」という言葉です。

会場の様子 活断層の問題を調査をしているのは、事業者である電力会社です。ところがその事業者を規制委員会が信頼していない。だから、ものすごいお金と時間と専門家の努力を集中して作った調査結果をまったく無にしてしまう。信頼がないことは最大の癌であるわけです。

 もう一つ言わせてもらうと、「活断層の問題が実証できなければ危険だ」という方向に向かっていく。しかし、科学者や技術者は実証可能な事実に忠実であるべきだと思います。そうすることによって、お互いに信頼もできると思います。

 

奈良林 私は、先ほどお話しした福島の復興を急いでいただきたいと思います。これは小泉進次郎復興政務官にも直接お願いしました。まず、福島を幸せにするということ。事故が起きても、地元に悲惨な状況を作り出してはいけないと思います。北海道新聞の記事にもありましたが、前の民主党政権が福島を不幸にして、脱原発を推進したとしか私には思えないのです。

 政権も変わり、世の中も落ち着いてきましたから、まず福島の復興を急ぐととともに、発電所の安全対策をしっかりして再稼働につなげていくことが大事です。さらに、各発電所でどういう対策が取れるのか、それがすべての人にわかるように、マスコミには公平な立場で報道していただきたいと思います。電気を届けるために、発電所の人たちは真冬の吹雪の中でも努力しています。そういう活動をぜひ支援するし、全体で盛り上げながら、再稼働を見守るということにしたいと思います。

 

宮崎 ありがとうございました。今日のような機会をできるだけ多く設け、何が真実か、どう判断したらいいかという情報を共有したいものだと思います。

 エネルギー問題は、私たちがどう生きるのか、どんな未来を創るのかという、まさに哲学だと思います。目先のことではなく、100年後、1000年後に私たちの子孫がどう生きていくのかを念頭に置いて考えなければいけないと改めて思いました。今日ご参加の皆さま、そしてパネリストの先生方に御礼を申し上げます。ありがとうございました。

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