北海道エナジートーク21 講演録

 
トップページへ
 
組織紹介
事業計画
行事予定
活動内容
入会案内
講演録
会報誌
リンク集
ご意見・お問い合せ
 
エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2013
「電力の安定供給に向けて
 〜原子力発電の意義と必要性を考える〜」

(5-2)

日本のエネルギー問題をどう考えていくか

宮崎 人知を超えたものであるからこそ、私たちの日頃の生活、社会、経済などを謙虚に見直していかなければなりませんね。澤先生、そうなると、私たちはエネルギーについてどのように考えていったらいいのでしょう。

 

 まず、日本の各電源の発電電力量の推移を見てみましょう。

日本の発電電力量の推移

 年代が進むにつれてバリエーションが増えているのが一目瞭然です。1970年代は、石油が日本の火力発電を支えてきた時代です。石油に依存しすぎたためにオイルショックにより石油が入ってこなくなるかもしれないと、日本中がパニックに陥りました。これをきっかけに、電源の多様化により脱石油へ転換しようということになりました。そのために、原子力やの天然ガス、最近では石炭を増やしてきました。

 グラフ右端は東日本大震災のあった2011年で、原子力が一挙に減っていますが、逆にいえば、原子力がダメになったときにでも、他のもので補えるようなバラエティになっていた。このことが日本を救ったわけであります。

澤 昭裕 氏 今後も同じことですが、原子力も含め、これらの組み合わせをバラエティに富んだものにしていくことがまず求められると思います。また、中長期に見た場合は、再生可能エネルギーの比率を増やしていくことも大事です。皆さんの個人資産と同じで、貯金だけでなく、投資信託や不動産などいろいろな形に分散させているわけですね。そうして全体のリスクを減らしていくことが非常に大事です。

 いまのエネルギーミックスというのは、鳩山元首相が民主党政権時代に打ち出した「温室効果ガスを25%削減しよう」という計画に合わせ、そのために2030年に原子力による発電を全体の発電量に対しを半分以上にするというものです。CO2を減らすことを目的とした計画だったのです。そのときには、原子力も再生可能エネルギーも増やす方向でしたが、最近は、どうも原子力と再生可能エネルギーは敵対する存在のように言われています。

 奈良林先生がおっしゃるように、CO2を出さないという意味では、原子力も再生可能エネルギーもいわば友達のような関係ですね。その二つをどうやって増やしていくかが、温暖化対策を重点に置いたときの政策になっていたわけです。逆にいえば、化石燃料をどれだけ減らすかがポイントでした。

 さて、原子力による発電が減った場合には、その分を何かで埋めなければいけません。オプションとして再生可能エネルギーと火力発電がありますが、冒頭で述べたように、エネルギー政策の伝統的な考え方として「量を安定的に確保する」という観点と、「経済的なエネルギーを利用する」という観点から考えたときに、原子力以外でそれを達成できるのは、再生可能エネルギーと火力発電のどちらでしょうか。

 再生可能エネルギーは、太陽光も風力も適地が限られ、まだまだコストが高いので、エネルギー政策上は再生可能エネルギーを選びにくい。代わりに石炭、天然ガス、先ほどの話に出たシェールガスなどの火力発電を中心に考えていくことになるわけです。その調達先も、石油のように中東に偏ることなく、アメリカやカナダ、その他いろいろな国から手に入ることが大切です。

もし、原子力依存低下政策に転換するならば

 一方で、温暖化政策を考えながら原子力も減らしていくとすれば、これは苦難の道です。火力発電はCO2を出すので優先選択肢にはなり得ない。つまり、再生可能エネルギーは温暖化政策における優先選択肢であり、火力発電は、エネルギー政策における優先選択肢です。従って、火力発電を選べばCO2を増やすことになる。一方で、再生可能エネルギーを選べばCO2は増えないが、量と経済性はあきらめざるを得ない。要はトレードオフということです。従って、この中で我々は何を選んでいくかを考えなければいけないわけで、そもそも原子力の依存を低下させるのか、その前提も含めて考えなければいけないというのがいまの課題です。

 

宮崎 どちらもうまくいく方法はないのでしょうか。

 

 例えば核融合や水素など、技術者の皆さんが語る夢のような技術がありますね。遠い将来、それらが実現すれば可能かもしれません。しかし残念ながら、いま生きている我々の寿命の範囲内では、先ほど言ったぐらいの選択肢しか考えられないと思います。

 

宮崎 何か一つのエネルギーを削ることによって、日本の経済全体に影響を及ぼすこともあるわけですね。経済を萎(しぼ)めていかなければならないようなことは起こるのでしょうか。

 

 リーマンショックのあった2008年は、エネルギー需要そのものが低くなりました。そのように、エネルギー需要を下げる、つまり省エネ、節電という方法があります。経済を強制的に減らして省エネをするやり方と、経済はそのままにしながらエネルギーの節約だけをするという二通りがあるとすれば、後者を選びます。

 しかし、一挙に原子力がなくなり、さらにCO2を出すから火力発電もダメだとなって、供給を無理に下げてしまうと、需要もそれに合わせて無理に下げることになります。経済を縮小させるという人為的な不況をもたらすことによって、エネルギーの帳尻を合わせることになりかねません。そこが難しいところです。

 原子力をなくして再生可能エネルギーを増やせばいいという人は、そもそも余裕のある人が多い。「少しぐらい経済が悪くなっても自分の生活は困らない」という人は、そのようなビジョンを描きやすいわけです。しかし、毎日電気を使わなければならず、省エネの余地がそもそもないような立場の人にとっては、経済が縮小することは生活をさらに苦しくすることになるので、大きなジレンマになるわけです。

原子力発電の新規制基準

宮崎 何のために生きるか、どう生きるかという問題を含んでいますね。だとすれば、きちんとした規制の下で原子力発電所を再稼働させるか、その場合はどのような基準で行うかということも大変重要なテーマだと思います。奈良林先生から、規制のあり方や基準の持ち方についてご説明いただけますか。

 

奈良林 皆さんのお手元に配布されている印刷物をご覧いただきながらご説明します。

福島第一原発事故の教訓

 「福島第一原発事故の教訓」をご覧ください。事故の原因となった「地震による外部電源喪失」とは、地震によって送電線の碍子(がいし)が破損したり、土砂で送電線の鉄塔が倒されたり、受電設備が折れて受電できなくなるというものでした。次の原因が「津波による所内電源喪失・破損」で、これが致命的でした。津波によって、原子力発電所で最も大事な緊急炉心冷却系、つまり核燃料を冷やす設備が全滅しました。高さ10mの敷地を越える津波が来ることを想定していなかった。仮に津波が超えたとしても、原子炉建屋の中に海水が入らないような止水対策が必要だったわけです。

深層防護の基本的な考え方

 こうした反省から、原子力の規制を「深層防護」という考え方で再構築しています。軍事用語に由来していますが、絶対に敵に負けないために多種多様な備えをするというものです。第1層はまず「事故を発生させない」、第2層は「事故を拡大させない」、第3層は、もし事故が拡大した場合は「緊急に炉心を冷却する」。こうした場合は、冷やして格納容器で放射性物資を閉じ込めることが基本ですが、津波の直撃を受けて第3層が機能しなかったことが、福島第一原発事故の本質です。

 そして、アメリカでは第4層が用意されていました。もし炉心が損傷した場合には、速やかにさまざまな機材を使って「原子炉の冷却を再開する」というものです。アメリカでは、9.11に貿易センタービルがテロに襲われた教訓を生かし、過酷な事故の場合にも「炉心を冷却する機能を絶対に失わない」というのが鉄則となりました。日本の規制当局もその講習会に行ったそうですが、実際に規制として日本の発電所にその対策を求めることをしなかった。そのために、第4層のアクシデントマネジメントができなかったということです。

 津波は自然災害ですが、テロと同じようなものです。送電線の外部電源の鉄塔を倒して海水ポンプを全部使えなくさせ、最後は本拠地の緊急炉心冷却系も壊してしまう。こうしたことを防ぐしくみを持っていることが大事です。

 第5層は「防災」です。一般には「防災=逃げること」といわれますが、私は間違いだと思っています。IAEA、つまりヨーロッパの防災の考え方では、第5層においては逃げる「防災」と並んで「復興」という言葉があります。つまり、一度逃げたとしても、戻ってきて生活を再開できること。そこまでのマスタープランが作られていることが大事です。

従来の基準と新基準との比較

 また、新たな基準では、従来の対策以外に、自然現象に対する考慮、火災に対する考慮、電源の信頼性などが追加になりました。

 さらに、炉心損傷防止対策、格納容器破損防止対策などがあります。放射性物質の拡散抑制対策とは「フィルターベント」と呼ばれ、事故が起きたときに放射能を濾(こ)し取って廃棄するものです。私は原子力学会で強くこれを主張し、規制委員会でもこういうものを作らなければいけないと繰り返し唱えて実現しました。もう一つは、意図的な航空機衝突への対応で、いわばテロ対策です。

新規制基準の概要

 これは新規制基準の概要です。発電所の前には防潮堤を作ります。もし緊急炉心冷却系が使えない場合には、消防車あるいは注水ポンプで注水します。また、その水源となるプールや池を高台に用意すること、外部電源を複数用意することなどが対策として打ち出されました。

自然災害とテロ対策

 次がテロ対策です。テロの航空機がたとえ原子炉建屋にぶつかっても、核燃料が破損しないようにすること。航空機にとって障害物となるポールを建てるなど、原子炉への直撃を防ぐ対策を取ります。

特定重大事故対処施設

 さらに「特定重大事故対処施設」を用意します。これは、テロに乗っ取られても、別の場所で原子力発電所を安全に停止する操作ができる場所です。

ウクライナは1年8ヶ月て゜ニュータウン建設

 それから、先ほど地元の方の幸せを取り戻すための復興プランが必要だとお話ししました。実は9月に、福島で被災された方20数人を連れて、チェルノブイリ原発事故のあったウクライナに行きました。ウクライナでは、チェルノブイリ事故後1年8カ月で「スラブチッチ市」というニュータウンを建設しました。仮設住宅から新しい家に移り、24,000人の住む街が2年以内にできるという、大変すばらしい街づくりをしました。幼稚園を400mおきに作り、子どもが3人以上いる家庭は戸建てに移っていいというルールがあります。私が行ったときも、子どもたちが楽しそうに談笑している光景が各所で見られました。街の活気がずっと続く少子化対策です。

 この街は、当初はチェルノブイリ原発で働く人たちの街でしたが、チェルノブイリ原発が閉鎖されたあと、その人たちが働けるように、さまざまな生活用品を作る工場や、ウクライナの特産品である刺繍製品の工場などを作って雇用を確保しました。

 コンセプトは「おとぎの国」。音楽・絵画・スポーツなど子どもたちの文化活動イベントを頻繁に開催し、子どもたちが楽しく暮らせるおとぎの国を、チェルノブイリの事故後2年以内に作った。そしていまもずっと続いています。

 これを福島の方々に一緒に見に行っていただき、スラブチッチ市長との懇談会を行いました。懇談会には地元の方々も出席していましたが、この街では毎週月曜日に市長との対話会をずっと続けているそうです。

 こうした復興計画を日本でも第5層にぜひ組み込み、早く福島に復興を実現していただきたいと思っています。

 

宮崎 こうしたことがなぜ日本でできないのかと思いますね。ウクライナでは1年8カ月、日本は2年半以上経っているのにゴーストタウンのままです。澤先生、なぜだと思われますか。

 

 私が以前、経産省にいた頃の経験では、最も問題なのはすべてが縦割りでバラバラだということ。リーダーシップのある政治家がいて、そこに役所の人間が集まる形で進めていくなど、事業が合理的にできることがいま望まれています。

 例えば除染作業も、1ミリシーベルトまで行うことになってしまっていますが、1ミリシーベルトに意味があるのかどうか。また、いまの賠償のしくみは法律上、東京電力と被害者が1対1で、つまり私事対私事で処理をするようにできています。さらにそれは金銭賠償のみです。賠償金を渡せば終わりということではなく、きちんと地域を再建しなければいけない。

 また、東京電力の責任でそれをやるのか、あるいは国の責任でやるのか、自治体が参画してやるのか。そういう役割分担も決まっていないので、そういう点を考慮した福島に対する復興の特別立法などの措置を取らなければならないだろうと思います。

会場の様子

ページの先頭へ
  2/5  
<< 前へ戻る (1) (2) (3) (4) (5) 続きを読む >>