北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2013
「電力の安定供給に向けて
 〜原子力発電の意義と必要性を考える〜」

(5-3)

自然災害への備えと安全性

宮崎 25年前にこういう事例があるのですから、日本ももっと早く動いてほしいと思います。ただ、チェルノブイリ事故の原因は、まったくの人為的ミスでしたね。しかし、福島第一原発事故は天災が引き金になっています。奥村先生、災害という観点から見たときに、原子力発電所の安全性についてどのようなお考えをお持ちですか。

 

奥村 私は活断層、地震、火山を研究していて、その観点から話してみたいと思います。

電用軽水型原子炉施設の地震津波に関わる規制基準骨子案 平成23年6月

 これは、今年7月に施行された新基準の情報です。本来は地震、津波に対するものですが、「活断層の上に建ててはいけない」という条項が最初に来るというのは、国際的にも極めて異例な規定です。本来は地震動の次に津波を考えて、それからというのが常道ですが、なぜか新基準では、いの一番に活断層が来ています。「活断層の上が危険だ」と主張する人たちがこれを作ったからです。

 結論から言うと、活断層を安全審査の論点にしてはいけません。どの原子力発電所の裁判を見ても、活断層が論点になっています。ではなぜ論点になるかと言うと、誰も確かなことはわからないからです。客観的に認められる活断層は50年間の調査でほとんどわかっているので、最近では主観と信念だけで線を引き、不確かで確認のしようもないものが次々に主張されています。それが原子力発電所を脅かしているという理論が、特に震災後に力を持っています。その人たちは地図を見て線を引き、「ここが危ない」と言うだけで実証の努力は何もしません。私はそれを「引き逃げ」と呼んでいます。

黒松内図

 これは、私が昔研究をした黒松内です。確かに地震でできた地形がありますが、「図の範囲に活断層は一本もない」というのが、左側の私の解釈です。右側に赤い線がたくさん引いてあるのは、ある研究者の解釈です。川が削った跡を全部断層にしていますが、大間違いです。私は黒松内を丹念に歩いて、これは絶対に断層ではないという自信がありますが、これを引いた人は「私はこれを信じるから反証を出してください」と言って引き逃げします。

 新基準では、活断層が過剰に強調されています。「あるかもしれない」と言っただけで、「実証的な研究はしなくていい」「危ないんだ」と言われます。間違いや憶測、想像にまで「否定できない可能性がある」と言われたら、もう原子炉を止めなくてはいけません。安全すら議論しない、地震動すら議論されない、これは規制の常識としては考えられないことです。

1.大飯の問題は何だったのか?

 それを典型的に示しているのが、9月に結論が出た福井県大飯原子力発電所です。関西電力は、20億円をかけてこの巨大なトレンチで活断層がないことを証明しました。しかし、これはまったく不必要な調査でした。ここには地形や地質から見ても活断層がないことはみんな知っています。しかし、有識者の一人がこのスケッチを見て「これは断層だ」と言って大騒ぎになりました。

トレンチ北西側下部のスケッチ(原図と渡辺解釈)

 この有識者に反対した岡田篤正さんが描いたスライドですが、もともとは白黒の絵だったのに、ないものを描いて活断層であると主張した結果、関西電力が何十億もかけて調査をして結局「活断層でない」という結論に至った。根拠は何だったのかというと、スケッチだけです。地形でも地質でも一切ない。僕はこれ犯罪だと思いますが、本人は正義だと思っています。さらに、活断層がなかったということを無視して、有識者の人たちは「実は巨大な断層がすぐそばにある」ということをすでに準備して同時進行で議論をしている。

2.断層はなくても大飯の地震危険度は高い

 大飯原子力発電所は白矢印の下にありますが、そのそばを長い断層が通っています。これは全然連続していませんが、一連だと言うことによって、非常に大きな地震が大飯のすぐそばで起きると主張します。この地図をいくら見ても「ある」と言ったら、あることになる。さらに「この断層がずっとつながっていて、その両側で地盤の高さが違っているから断層があるんだ」と言うので、関西電力が調べたら、そんな地盤の高さの差は一切ない。そのように、敷地に断層がなくても、別の方法で巨大な地震を想定させようという動きが、いま大飯で進んでいます。

泊発電所周辺に活断層はあるのか

奥村 では、今朝の北海道新聞で話題になっている泊発電所の活断層問題に触れたいと思います。泊を見ると、破砕帯は存在しませんが、新聞で問題になっていたのは海岸段丘があるということ。

泊発電所に関わる基準地震動基準津波の震源断層

 これは過去125,000年間に20〜30m隆起をしていることを示しています。さらに地層の変形もあると。だから「敷地近傍に海底活断層があるんだ」というのが主張の中心ですが、実は主張している人たちが、規制委員会の審査ガイドを作っています。

 その審査ガイドには「断層が見つからなくても、海岸が隆起していたら断層があると考えなさい」「地層が局部的に傾いていたら、断層があると思いなさい」と、とんでもないことが書いてあります。パブリックコメントで多数の反対意見があったのに、まったく無視してこういうことが決められています。

 泊発電所の設計については敷地前面の98kmの断層と尻別川断層16kmを考えることになっていますが、少なくとも北海道電力の調査結果によると、敷地の近傍には海底の断層はありません。さらに「海岸が隆起しているから断層がある」というのは間違った主張です。

北海道の湾岸線

 これは北海道の海岸線を示すものです。赤い点線をつけた海岸は全部隆起していて、海岸段丘がついています。ただし、活断層や地震の分布を見ると、実は断層や地震がなくても隆起する場所は隆起します。

 北海道中の海岸を見ると、13万年前の海岸線は、奥尻では100m以上あります。そういうところでは確かに地震の活動の危険はありますが、オホーツク側の黄緑や緑のところは20〜30m。これは断層とも地震とも関係ありません。全体を見るとほとんど関係ないと言っていいにも関わらず、いまの規制委員会の概念は「段丘があったら断層だと思え」という極めて間違ったことが書かれています。

火山活動から見た安全性の検証

奥村 さらに、火山活動については昨年IAEAのガイドができたばかりで、審査ガイドもそれに合わせて急遽作られたものですが、日本の火山学者は「火山との共生」という強い大義を持っています。つまり「火山が爆発すると危ないから逃げろ」という人は誰もいなくて、「危機が迫ったら対応が必要だが、火山と我々は共存共栄していかなければならない」ということで、かなり冷静な基準やガイドが作られています。ただし、火砕流や溶岩流が来たりする場所に「原子力施設の立地はやめよう」と言っています。

北海道図

 泊発電所の周りを見てみると、北海道にはご存じのように火山がたくさんあり、札幌の周りでは、支笏や洞爺の周りに火砕流が大きく広がっています。さらに、泊発電所のすぐそばには、ニセコという1万年ぐらい前まで活動した火山があります。

泊原子力発電所への影響を検討すべき火山事象

 これらについては安全審査が行われていて、ここに全部ではありませんが、泊発電所が影響を検討しなければならない火山が書いてあります。赤い字で書いてあるものは、実際に検討の対象です。

 降下火山灰といって、空から降ってくる噴出物のうち粒の粗いものは泊にはあまり飛んで来ないので、細かい火山灰だけ考えればいい。火砕流堆積物というのは、雲仙の火砕流のたぶん100万倍ぐらいの規模のものが11万年前に洞爺湖から出てきたものです。それが銀山や岩内まで来ていますが、それの影響はないだろうか、あるいはニセコが崩れたり、溶岩流が出たりしないだろうかという検討がいま進んでいます。空から降ってくる火山灰は厚さ40cmぐらい。九州の阿蘇山で噴火した火山灰が網走で20cmほど溜まっているので、そんな噴火が起きると40〜50cmの火山灰は来るだろうと、北海道電力は検討しています。

 一方、洞爺に関して言えば、これまでも敷地に来ていないし、再来の兆候もないと。もしも再来の場合は数十年、数百年という前兆があるので、住民に避難してもらい、さらに核燃料を安全な場所に移動する時間はきっとあると考えています。ただし、そのモニターはしなければいけないと言われています。

日本の超巨大噴火の頻度

 とても長い時間の話で恐縮ですが、横軸が時間です。右端が現在で、一つの目盛が10万年前です。一番上の屈斜路カルデラを見ると、10万年ごとぐらいに巨大噴火が起きています。道東が全部火砕流で埋まるくらいです。支笏は4万年前。洞爺が11万年前ですが、過去11万年間、同じような噴火が起きた形跡もなく、それ以前に繰り返された形跡もない。これは、当面は安全だと考える根拠の一つになっています。

 さらに南九州を例に取ると、10万年ごとに100立方kmの火砕流が出てきます。マグマがどのように溜まってきたかが最近わかってきて、例えば洞爺火砕流は、ざっとみて100立方km。仮に地下深くで0.1立方kmずつマグマが毎年溜まるとすると1000年かかります。1000年かかったものが1週間で出てしまうと巨大噴火が起きます。しかし、いままでの観測では、0.1立方km以下でもマグマが溜まっていけば、地表で観察ができます。というわけで、洞爺湖のような破局的な噴火の場合、我々はその前兆を予測できるだろうと考え、これをもって泊が直ちに危険だと考えることはないと考えられます。

奥村 晃史 氏 最後に一言よろしいですか。火山については現在も審議中ですが、その審議をしている規制委員会は大丈夫ではありません。破砕帯評価は島崎委員という有識者が担当していますが、この有識者は活断層のことはわかっても、岩盤の中の断層のことはわからない。さらに、火山については新規制基準適合性評価で検討が行われていますが、そこにはなんと、有識者さえいない。島崎委員と事務局、一部は政府の研究機関から動員された研究者ですが、基本的に責任を持って判断する専門家はいません。火山のことがわかる人は一人もいない。そういう人たちが適合性を評価するのはとんでもないことだと思いますが、いかがでしょうか。

 従来、原子力安全委員会には、原子炉安全専門審査委員会があって、その必要性を政府が認め、数十人の専門家が集まって極めて慎重に議論していた。その組織はいま一切ありません。そういう組織を否定するところから始まっていますが、この評価の手続きは極めて問題が大きいと思います。

 

宮崎 ありがとうございました。委員会そのものが危ないのではどうにもならないですね。何を信じていいかわからない。ありもしない活断層を調査するためにかけた20億円は結局、電気代として消費者にはね返ってくるわけですね。憤りを感じざるを得ませんが、その必要があったかどうかという判断は私たち素人にはできないわけですね。いまのお話をお聞きになって、澤先生はいかがですか。

 

 例えば、規制委員会ができ上がったときに、原子炉安全専門審査会が専門家を集める作業をするしくみになっていたのに、何もしていないはずですね。一部の専門家が独走してやってしまえるしくみ自体が心細いと思います。

 

宮崎 それは直せないんですか。

 

 やらなければならないことになっています。しかし、これまで原子炉の安全に関わってきた人たちを全部排除するということは、それ以前に排除されていた人だけでやろうということ。私が言いたいのは、前に審査に携わっていた人も含めて一緒にやればいいじゃないかということ。あまりにも潔癖に考えているところが問題だと思います。

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