北海道エナジートーク21 講演録

 
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北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2013
「電力の安定供給に向けて
 〜原子力発電の意義と必要性を考える〜」

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エネルギーシンポジウム2013「電力の安定供給に向けて〜原子力発電の意義と必要性を考える〜」
 

コーディネーター
  千葉商科大学 政策情報学部教授、学部長 宮崎 緑 (みやざき みどり) 氏
 
パネリスト
  21世紀政策研究所 研究主幹 澤 昭裕 (さわ あきひろ) 氏
  広島大学 大学院文学研究科
地表圏システム学講座 教授
奥村 晃史 (おくむら こうじ) 氏
  北海道大学大学院 工学研究院
エネルギー環境システム専攻 教授
奈良林 直 (ならばやし ただし) 氏
     

エネルギーを見つめるそれぞれの視点

宮崎 皆さん、こんにちは。今日の新聞に「泊原発の近くに活断層があるかもしれない」という学会発表を伝える記事が載っていました。宮崎 緑 氏また、首都圏では南海トラフが非常に不安定化していることから、東日本大震災並みの、あるいはもっと大きな地震がいつやってくるかわからないともいわれています。富士山も、いつ噴火してもおかしくないといわれます。

 地球ができて約46億年ですが、いま日本列島が活動期に入っていることは間違いないようです。そういう中で東日本大震災が起こり、福島での悲劇が始まったわけですね。しかし、社会も経済も生活も、もはや電気なしには動かない構造になっています。その中で、電力の安定供給は重要な問題だと思います。

 最近では、小泉元首相が再び活動をされて、原発ゼロを唱えていらっしゃいます。原子力発電が政争の具になることは避けなければならないと思いますし、論旨そのものも「廃棄物処理がきちんとできていないからダメだ」というものです。それに対して「いや、廃棄物処理の技術はきちんと確立されている」とか、「廃棄物処理の確実な方法があれば原子力発電を認めるという意味か」など、さまざまな意見を呼んでいる状況にあります。

 そこで今日は、それぞれの分野の最先端で活動をされている専門家の方々にお集まりいただきました。電力の安定供給に向けて、例えば原発ゼロは可能なのかどうか、今後のエネルギー問題をどう考えるかなどについて伺っていきたいと思います。

 では、今日はどのようなお立場でどんな発言をされるのかということを、自己紹介を兼ねて順にお話しいただけますか。澤先生からお願いします。

 

 私は原子力の必要性や意義についてお話しします。簡単に言うと三つぐらいの点から、原子力を必要だと考えている立場です。

澤 昭裕 氏 一つは、電力の安定供給のためには、相当量の大きな電力を発生できる原子力は重要です。オプションとして大量に発電できる電源を持っておかないと、日本のような資源小国は非常に危うい状況になると思います。

 二番目は経済性です。原発は建設時の初期投資が他の発電に比べても大きいのですが、償却が終われば、単位あたりの電気は大幅に安くなりますから、経済的な意味からも非常に重要な問題だと思います。

 三つ目は、原子力を巨大なプラントマネジメントの技術として維持していくことが、日本の他の技術分野にも大きな影響を及ぼすのではないかということです。

 

奥村 原子力発電の必要性に関しては、澤さんと同じようなことを考えています。 さらに最近、「活断層があるから廃炉だ」ということが安易に言われますが、そもそも発電所は電力料金を払う人たちの負担でできた社会資本です。しかも1基分5000億円以上のコストがかかっています。 奥村 晃史 氏 果たしてそういうものが我々の社会にとっていらないものなのか、そんなことはきっとないと思います。

 また、活断層に関して言えば、こと地震、地震動について日本の原子力発電所は安全だと言っていいと思います。福島の場合は、津波というほとんど誰も考えていなかった出来事が起きましたが、いま問題になっている活断層、地震、地震動に関しては、我々のような地質学や地震学の研究者、工学の専門家が非常に大きな努力をしてきています。今日はそれをきちんとお伝えできればと思います。

 

奈良林 以前は、地球温暖化に伴う気候変動が地球環境や人類にとって危害を与えるものになりつつあるということが真剣に語られていました。ところが、2011年3月11日以降、そういった議論がまったくなされていません。

 私は福島で被災された方々20数人と一緒に、9月にウクライナに行ってきました。チェルノブイリ事故のあった原発のほか、病院や国の農業研究機関にも行きました。そこで耳にしたのは「放射能による汚染よりもずっと厳しかったのは、情報による汚染だ」ということ。Information contamination,つまり風評被害です。マスコミが過度に恐怖をあおる中で、何万もの人が命を落としてしまった。原子力発電所の事故で亡くなったのは、消防士の方々30数人。また、事故が起きたと伝わっていなかった地域で、放射能の付いたイチゴを口にしたり、ミルクを飲んでしまったことが原因で、約2000人のお子さんが甲状腺がんになりました。うち大部分は治り、亡くなった方は決して少ないとは言いませんが9人でした。 奈良林 直 氏 事故によるこうした直接の影響に対して、情報による汚染、つまり、原子力発電所を止めたことによって国の経済が破たんし、多くの人が職を失い、アル中や鬱になったりして命を落とした方々のほうがはるかに多いわけです。

 私がいちばん心配しているのは、福島も同じような状況に置かれているということ。仮設住宅で暮らしている方々が既に約1000人亡くなっているということですから、早く復興させなくてはいけない。また、しっかりと安全対策を取ったうえで各地の原子力発電所を再稼働して、国の経済を守っていくことが非常に重要だと思います。今日は具体的なデータを示しながら、こうしたお話をしていきたいと思います。

世界のエネルギー事情と原子力発電

宮崎 先ほどの風評被害のお話もありますが、情報というのは、的確な内容を適正なタイミングで手に入れなければ生きないわけですね。そこで、まずはデータをお示しいただいてから議論していこうと思います。奈良林先生、原子力の基礎的な情報についてお話しいただけますか。

 

奈良林 まず、世界の原子力がどのような状況に置かれているかをお話しします。

 北海道大学がサウジアラビアの王立カリファ大学と提携し、私はそこに行って学生たちに原子力を教えました。

サウジアラビアの石油生産量と消費量

 これはサウジアラビアの石油に関する国内需要の伸びです。グラフの赤い棒は消費量で、年率8.7%でずっと伸び、生産量を示す青い棒は年率2.1%で増えています。サウジアラビアは世界最大の産油国ですが、2028年には国内消費で全部石油を使い切ってしまうということ。つまり石油が売れなくなるので、国の経済が成り立たなくなります。いま中東の各国は「原子力発電所を作ってほしい」と日本に大変熱い視線を送っていています。安倍総理も中東を訪問されていて、その背景にはこうした事情があるのです。これは、アラブ首長国連邦もまったく同じです。

 サウジアラビアとアラブ首長国連邦の2カ国だけで、日本が輸入している石油の50%を超えます。こういう状況の中で、果たして原子力を止めてしまっていいのでしょうか。太陽光などの再生可能エネルギーがどれだけ使いものになるのか、そうしたことも気にしなければいけません。

 アメリカではシェールガスの開発が盛んで、天然ガスが普及しています。これによって再生可能エネルギーが忘れられてしまいました。オバマ大統領の第1期政策は「グリーンエナジー」でしたが、第2期は「クリーンエナジー」に変わりました。太陽光や風力などの再生可能エネルギーは効果が非常に小さいということで、現在の天然ガスに変えてしまったのです。

ショーン・レノンさんがシェールガス反対

 では、天然ガスがいいかというと、問題もあります。スペインでは地下水のくみ上げで地震が起きたほか、ニューヨーク州に大きな牧場を持つジョン・レノンさんとオノ・ヨーコさんの息子さんのショーン・レノンさんがシェールガスに反対しました。なぜかといえば、この牧場の地下にシェールガスを掘るトンネルのパイプを打つという話になり、詳しく聞いてみると、岩を溶かす薬剤を水に入れて流すので、地下水を汚染してしまうとわかった。それで、いまアメリカでは、ミュージシャンを中心にシェールガス反対運動が起きています。このように、二酸化炭素を出す発電方式はまだ続いています。

大気の厚さはたった40〜50km

 これは私が飛行機に乗ったときに撮影したものです。地球を一周すると4万kmですが、成層圏の厚さは約40km。つまり地球の周長を1mの円に見立てると、大気の厚さは1mmしかないんです。こういうところに、たくさんの二酸化炭素のほか、シェールガスや生ガスで排出されるメタンが広がってしまいます。

世界の気温が平均5℃上昇すると地球は砂漠

 そこでいま、イギリスのジェームズ・ラブロック博士が「ガイアの復讐」という著書の中で警告を発しています。ガイアとは地球で、「地球がそのうち人類に復讐しますよ」と。地球の温度が5℃上がると、陸上のみならず海も含めて地球はほとんど砂漠になります。以前はこうしたことが、日本でも真剣に議論されていましたが、いまは忘れ去られています。

砂漠の拡大

 これは砂漠が広がっていることを示したものです。アフリカのみならず、中国のゴビ砂漠、モンゴル、北アメリカ西海岸、オーストラリアなどで砂漠が広がっています。驚くべきことに、アマゾンの熱帯雨林も干上がって、ボートが砂の上に乗っている光景が見られるほどです。

  特に私が危惧しているのは、大気に出ていった二酸化炭素は何億年もの間残ってしまうことです。そしてその二酸化炭素が人類に復讐するというのです。一方、放射性物質については、埋設処分をした場合に3000年ぐらいで放射能が100万分の1ぐらいになり、ウラン鉱石の10倍程度の弱い放射能となってしまう。このように時間とともに弱くなるので、人間が埋めて処分することができるのです。

欧州の干ばつと猛暑

 2003年と2006年には、欧州の熱波で約5万人が熱中症によって亡くなりました。日本でも毎年2万人ぐらい救急搬送されています。

 それから海の砂漠化も深刻です。アサリが死んだり魚が死んだりして、海の温度が上がっているということです。

 いま始まっているのは、日本近海の温度上昇です。我々の持っている海のイメージは海藻がたくさん生えている黒い海ですが、青森県大間町に行ったときに漁師さんが「磯焼け」を心配していました。海藻がなくなってきて海底が白く見える状態です。日本では、海に面した39都道府県のうち、34都道府県で磯焼けが発生しています。

ハリケーン:海水温度+2℃で強さは2倍

 これはハリケーンですが、海水温が2℃上がると、ハリケーンの強さは2倍になります。ニューヨークをハリケーンが襲い、日本でも伊豆大島で土砂崩れが起き、インドをサイクロンが、そして2日後には史上最大の台風がフィリピンを襲っています。こういうことが実際に起きているわけです。人類の将来を考えたときに、我々が現時点で取るべき行動として、地球環境を守ることが非常に大事だと思います。

 また、サウジアラビアのように今後も石油を輸出する国については、原子力発電所の建設を支援することで国内需要を原子力エネルギーでまかない、余った石油を日本に輸出してもらわなければいけません。私は教育者として、そういうことも自分の使命だと考えています。

氷河期-間氷期のアイスコアデータ

 これは過去65万年間にわたる地球の二酸化炭素とメタンの濃度です。現時点で、ほとんど垂直に濃度が上がり始めています。北海道大学が越冬隊を出して南極の氷を採取して調べているものです。3000mの氷で、夏冬があるので年輪のように縞模様がついています。その縞模様ごとに、氷の中に閉じ込められている空気を分析し、二酸化炭素やメタンがどのように含まれているのかを測定しているわけです。

 このデータが示すところは、過去65万年間に起きていないことが現代に起きているということです。氷河期を経て現代はピークで、縄文期には地球が暖かかったですが、現代は氷河期に向かおうとしているといわれています。

 ところが、2000年くらいから垂直に温度が上がり始めている。100年で2℃ぐらい上がるはずが、ほとんど垂直です。これが2℃あるいは5℃で止まるか。5℃まで上がるとラブロック博士が警告したように、地球の陸地と海洋が砂漠になってしまいます。ですから、しっかりと二酸化炭素の排出を止めなければいけません。たとえ3・11の福島の原発事故があったとしても、地球温暖化は避けては通れないですから、しっかりと対策を取らなければいけないと思います。まず、原子力発電の必要性について説明させていただきました。

 

宮崎 目先のことではなく、しっかりと長期的な展望を持ってエネルギー全体を考えていかなければならないと思います。いまのお話を受けて、奥村先生のお考えをお聞かせいただけますか。

 

奥村 すでに砂漠化や高温化などの現象が起きていますが、それが目に見えて世界中に広がるのは数十年、あるいは次の世紀になるといわれています。地球の気候変動のメカニズムについてはしっかりと解明されていませんが、確かに現象としては地球の気温が高くなっていて、それが二酸化炭素によるものという考え方は確かにあります。100年後に具体的にどうなるか、我々がそれを理解するのにはもう少し時間が必要かもしれません。

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