奈良林 スライドをご覧いただけますか。規制委員会は「国民と環境を守る」ことを究極の目標に掲げていて、これ自体は正しいと思います。それを実現するために、国際的な規格・標準を十分に尊重すると言っています。先ほど奥村先生がおっしゃった活断層の問題も、国際標準に照らすとどうなのかということですね。
ぜひ多くの皆様に知っていただきたいですが、3.11の事故を踏まえて原子力発電所ではさまざまな対策が取られました。「これは活断層だ」と怖がる記事は新聞に載りますが、奥村先生の活断層のお話は記事になりません。また、原子力発電所で実際どういう対策が取られているかについても、学会でマスコミを呼んで、各電力会社に発表してもいらいました。質問があればどんどん受け付けます。ところが、マスコミ全然は来ません。ですから情報が偏ってしまっています。
情報の提供のしかたが非常に一方にバイアスがかかってしまっている。こういう社会では国民が正しい判断をできません。ですから、ちょっと時間をいただいて、諸外国ではどういう対策を取っているかについてご紹介したいと思います。
これはフィルター付きベントといって、事故が起きたときに放射性物質を濾(こ)し取ってしまう設備です。チェルノブイリ事故では放射性物質が4回まき散らされたので、フランス、ドイツ、フィンランド、スウェーデンではこれが全部付いています。フランスが発電所を輸出している中国でも、24基にフィルターベントが付いているか現在設置中です。
日本では付かない原因が一つあり、こういうものを付けると言うと、反対の立場の人たちが「じゃあ事故は起こるんですね。やっぱり原子力は危険じゃないですか」と、こういうバカな議論をやってしまう。本当は反対派も含めたすべての人が、原子力発電所をどうしたら安全にできるかという真剣な議論をすべきです。
スイスのライプシュタットでは、原子力発電所にフィルター付きベントがあります。黄色い字で書いてあり、タンクみたいものが付いています。これの中がフィルターになっていて、放射性物質を濾(こ)し取るので、一般環境を汚染しないというしくみです。
実際に中に入って調べてみると、さまざまな工夫がしてあります。これがフィルター付きベントですが、電気がなくてもベントができます。
それから、先ほどテロ対策と言いましたが、ヨーロッパの発電所では、テロ対策用に地下水を使って原子力発電所が自立で冷却します。秘密のディーゼル発電機室があり、万一の場合に本体のディーゼル発電機が破壊されたとしても、スイス軍が、電源や必要な機材を持ってきてテロリストを鎮圧します。そういう活動ができるようになっています。
また、皆さんも非常に気にされていると思うのが泊発電所です。こういった対策が随所に取り入れられています。高台に消防車を置いたり、水源池や貯水タンクを作ったり。国の委員として泊発電所を視察したときに、国の方針では「津波は15mの対策を取っていればいい」というものでしたが、私は「これではまずい。もっと対策をしっかりして、高さ方向に津波対策を分散しなければいけない」とあえて言いました。
そして1年後、北海道電力のホームページを見ると、高さ方向に電源車、いろいろなポンプを追加して、たとえ15mを超える津波が来ても対策がとれるようになりました。金庫みたいなドアがありますが、これが発電所の中です。ですからたとえ原子力発電所の建屋の中に海水が入ってきたとしても、こういう金庫のようなドアを閉めて、それより奥に津波が入らないようになっています。
それから、高台に4,000kVAという大きなジェットエンジンと発電機を積んだガスタービン電源車が配備されています。実は北海道電力は日本で唯一、3.11前にこのガスタービン電源車を配備していました。なぜかと言うと、真冬に雪で木が倒れて送電線を切った場合に、その地区で凍死者が発生しないように、直ちにこの電源車が飛んで行って電気の供給を再開するということです。厳しい自然環境の中で電気を供給する責任を果たすために、こういった設備を持っている。常に自然災害に対して真剣に取り組んでいく、これがセーフティカルチャー、つまり安全文化なんです。
セーフティカルチャーの「カルチャー」は耕す(cultivate)という意味があります。常に安全性を高めるために耕し続けなくてはいけない。その努力を常に続けることによって危険の芽を摘み、安全の芽を育てていくことができます。ですから、たとえ再稼働の許可が出たとしても、さらに安全性を高めることをずっと続けなくてはならないというのが世界の趨勢です。 |