北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム2013
「電力の安定供給に向けて
 〜原子力発電の意義と必要性を考える〜」

(5-4)

規制委員会の役割と任務は何か

奈良林 いまのお話に関連して、もう一つの資料をご覧いただきたいと思います。「活断層に40年制限、優先順位と科学的議論に基づく原発規制に改めよ」と題した私の寄稿です。

 奥村先生がおっしゃる通り、科学的な議論を経て活断層かどうかを判断すべきだと思います。なぜそれが行われていないかについては、小見出しに「菅元首相の置き土産」とあります。

奈良林 直 氏 これは、北海道新聞の4月30日朝刊一面に掲載された、菅直人元首相のインタビュー記事のことです。北海道新聞の記者が「政権が民主党から自民党に代わりました。これで民主党が進めようとしていた原発ゼロ政策はとん挫しましたね、いかがですか」という質問をした。ところが菅直人氏は「10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。そう簡単に戻らないしくみを民主党は残した。その象徴が原子力規制委員会を作ったことです。日本原電敦賀原発をはじめ活断層の存在を指摘しているし、稼働中の関西電力大飯原発も止まるかもしれない。独立した規制委の設置は自民党も賛成しました。いまさら知らんぷりはできない」と書いてあって、全部自分でばらしています。

 何をばらしたかと言うと、民主党は思い通りに動くような有識者会議の委員をメンバーに入れ込んでしまっているということ。私もかなりの回数、規制委員会に行っていろんな意見を言いました。原子炉の炉心冷却の専門家たちは、私が行くと話を聞いてくれます。こちらのほうは、かなりまともな議論ができたと思っています。ところが、活断層や竜巻などについては、およそ科学技術的な議論ではありません。ここが非常に大きな問題点だと思います。

 

宮崎 ありがとうございます。実はいま、日本社会情報学会ではよく「第五の権力」という言い方をします。三権に対して、マスメディアの力を「第四の権力」と言いますね。本来これが提唱されたのは、権力という意味ではありませんが、マスメディアは大きな力を持っているということは皆さんもお認めになるところだと思います。それに対し、専門家は英知を結集して政策の方向性について提言をしたり、何が真実かを世の中に知らしめたりする責任があるという意味で、この専門家集団を「第五の権力」と呼ぶ考え方が出てきました。それだけ重要な役割を果たしているということです。特にこの分野は、政策を決定するときに専門知識がないと判断ができないわけですね。

 エネルギーの安定供給や安全性を念頭に置いたとき、活断層や火山などの専門的な議論を政策の中にどのように取り込んでいったらいいか、提言はございますか。

 

奥村 先ほど、原子炉安全専門審査会が設置されていないとおっしゃいましたが、実は原子力規制委員会のウェブページにきちんと項目があります。まずはそれを発足させ、機能させることが緊急に必要だと思います。

奥村 晃史 氏 ただし、それができないのは大きな誤解があります。2006年に新しい耐震安全審査指針が約28年ぶりに改訂され、それを基に日本中すべての原子力発電所の見直し作業を行いました。これを「バックチェック」と言いますが、始まった直後に新潟県中越沖地震が起きて、柏崎原子力発電所が緊急停止をした。想定を3倍近く上回った大きな地震動があったために、バックチェックが極めて真剣に行われました。バックチェック以前には多くの断層の存在が秘密にされたり、そこから起きる地震の規模がひと回り小さいものにされたりという、不正工作のようなことがあったのは事実です。

 私が批判した活断層の専門家たちは「バックチェックも同じように、政府と電力とグルになって悪いことをしてしまった。だからその人たちも全部外せ」と言っていますが、これは無知に基づく誤りです。2006年以降、我々はバックチェックを極めて真剣にやって、地震に安全な原子炉ができてきた。これを認めた上で、政策を考えてほしいと思っています。

 

宮崎 一つだけの組織に頼るからそういうことが起こってしまうので、監視機関が二重三重にあれば相互にバランスが取れるような気もします。例えば、規制委員会を規制できるような、学会による規制組織などですね。学会はそういう努力をしてきたのでしょうか。

 

奥村 学会には、活断層をネタにして原子炉を止めろという意見に賛成している人は結構います。「福島の事故があったから原子力は危ない」と考えている人も、学会に一定数います。破砕帯を評価している有識者は学会が推薦した人たちなので、「その人たちのやっていることがおかしいから学会で監視しましょう」と僕はいくつかの学会で提案しましたが、研究者の自主自律を尊ぶとのことで、結局どの学会でも実現しませんでした。

 

宮崎 でも、それで終わらせるわけにはいかないですね。右から言われたら右、左から言われたら左になびくのではなく、ぶれない方向に持っていく工夫はできないものでしょうか。

 

 究極は司法しかないと思います。アメリカではスリーマイル事故のあと、同じように規制当局と事業者の間で不信感が相当募った時期があり、それを乗り越えてきました。その過程で双方のコミュニケーションが復活して、アメリカ社会では訴訟合戦がよくあるにも関わらず、この場合はあまりありませんでした。

 ただ、日本の場合、規制委員会の頑なな姿勢を見ていると「自分たちが原子力発電所を止める役割を担っているんだ」という気負いが目立ちます。その姿勢がコミュニケーションを阻むことにつながっている気がします。

 例えば、記者会見で委員長などが個人的見解を述べていますが、本来は合議制なので、委員長は委員会で審議した結果を話すようにしないといけません。不用意な発言は、株式の価値を棄損することになるわけです。そういときは、株主が怒らなければおかしい。

 規制委員会の任務とは何か、やっていいことと悪いことをきちんと分けるためには、訴訟のような措置を取る可能性を彼らが認識しなければ、なかなか自制が働かないのではないでしょうか。

求められる安全文化の構築

宮崎 難しい問題ですね。わが国の社会は横並び意識が強く、関係性を保ちながらも意見の対立を議論で解決していくという体質ではないですね。ひと筋縄ではいかない感じですが、奈良林先生、ご意見はございますか。

 

奈良林 スライドをご覧いただけますか。規制委員会は「国民と環境を守る」ことを究極の目標に掲げていて、これ自体は正しいと思います。それを実現するために、国際的な規格・標準を十分に尊重すると言っています。先ほど奥村先生がおっしゃった活断層の問題も、国際標準に照らすとどうなのかということですね。

 ぜひ多くの皆様に知っていただきたいですが、3.11の事故を踏まえて原子力発電所ではさまざまな対策が取られました。「これは活断層だ」と怖がる記事は新聞に載りますが、奥村先生の活断層のお話は記事になりません。また、原子力発電所で実際どういう対策が取られているかについても、学会でマスコミを呼んで、各電力会社に発表してもいらいました。質問があればどんどん受け付けます。ところが、マスコミ全然は来ません。ですから情報が偏ってしまっています。

 情報の提供のしかたが非常に一方にバイアスがかかってしまっている。こういう社会では国民が正しい判断をできません。ですから、ちょっと時間をいただいて、諸外国ではどういう対策を取っているかについてご紹介したいと思います。

フィルター付きベントの設置

 これはフィルター付きベントといって、事故が起きたときに放射性物質を濾(こ)し取ってしまう設備です。チェルノブイリ事故では放射性物質が4回まき散らされたので、フランス、ドイツ、フィンランド、スウェーデンではこれが全部付いています。フランスが発電所を輸出している中国でも、24基にフィルターベントが付いているか現在設置中です。

 日本では付かない原因が一つあり、こういうものを付けると言うと、反対の立場の人たちが「じゃあ事故は起こるんですね。やっぱり原子力は危険じゃないですか」と、こういうバカな議論をやってしまう。本当は反対派も含めたすべての人が、原子力発電所をどうしたら安全にできるかという真剣な議論をすべきです。

スイスのライプシュタット発電所

 スイスのライプシュタットでは、原子力発電所にフィルター付きベントがあります。黄色い字で書いてあり、タンクみたいものが付いています。これの中がフィルターになっていて、放射性物質を濾(こ)し取るので、一般環境を汚染しないというしくみです。

FCVS(フィルター付格納容器ベントシステム)

 実際に中に入って調べてみると、さまざまな工夫がしてあります。これがフィルター付きベントですが、電気がなくてもベントができます。

SEHR(特設非常用除熱システム)

 それから、先ほどテロ対策と言いましたが、ヨーロッパの発電所では、テロ対策用に地下水を使って原子力発電所が自立で冷却します。秘密のディーゼル発電機室があり、万一の場合に本体のディーゼル発電機が破壊されたとしても、スイス軍が、電源や必要な機材を持ってきてテロリストを鎮圧します。そういう活動ができるようになっています。

原子力発電所の安全対策強化

 また、皆さんも非常に気にされていると思うのが泊発電所です。こういった対策が随所に取り入れられています。高台に消防車を置いたり、水源池や貯水タンクを作ったり。国の委員として泊発電所を視察したときに、国の方針では「津波は15mの対策を取っていればいい」というものでしたが、私は「これではまずい。もっと対策をしっかりして、高さ方向に津波対策を分散しなければいけない」とあえて言いました。

泊原子力発電所の津波対策

 そして1年後、北海道電力のホームページを見ると、高さ方向に電源車、いろいろなポンプを追加して、たとえ15mを超える津波が来ても対策がとれるようになりました。金庫みたいなドアがありますが、これが発電所の中です。ですからたとえ原子力発電所の建屋の中に海水が入ってきたとしても、こういう金庫のようなドアを閉めて、それより奥に津波が入らないようになっています。

 それから、高台に4,000kVAという大きなジェットエンジンと発電機を積んだガスタービン電源車が配備されています。実は北海道電力は日本で唯一、3.11前にこのガスタービン電源車を配備していました。なぜかと言うと、真冬に雪で木が倒れて送電線を切った場合に、その地区で凍死者が発生しないように、直ちにこの電源車が飛んで行って電気の供給を再開するということです。厳しい自然環境の中で電気を供給する責任を果たすために、こういった設備を持っている。常に自然災害に対して真剣に取り組んでいく、これがセーフティカルチャー、つまり安全文化なんです。

 セーフティカルチャーの「カルチャー」は耕す(cultivate)という意味があります。常に安全性を高めるために耕し続けなくてはいけない。その努力を常に続けることによって危険の芽を摘み、安全の芽を育てていくことができます。ですから、たとえ再稼働の許可が出たとしても、さらに安全性を高めることをずっと続けなくてはならないというのが世界の趨勢です。

信頼回復に向けたコミュニケーション

宮崎 メディアの話が出ましたが、ニュースバリューの高いものを出していくわけです。20世紀によく言われたのは、犬が人を噛んでも当たり前だからニュースにならない、人が犬を噛んだらニュースだと。ですから、いまのお話のように、「こうやって安全を守っていますよ」というのはニュースバリューが低いのでしょうね。

宮崎 緑 氏 ところがいまは「しっぽが犬を振る」と。普通は犬がしっぽを振りますが、その逆です。メディアは本来、何が起こっているかを正確に見定めて記録し伝えていく役割のはずが、自分が乗っかってしまうということがよく批判されます。私も言いにくい立場ではありますが、メディアとしてもしっかりと受け止めていただきたいと感じているところです。

 もう一つ、奈良林先生に伺いたいのは、今回汚染水が海に流出したという大変な事態に対して、安倍総理はオリンピック誘致の演説で「完全にコントロールされている」とおっしゃいました。コントロールされているどうかについてはいかがでしょうか。

 

奈良林 まず、汚染水は湾の中でシルトフェンスで仕切られていて、内外の濃度差が結構あって、測定データからは汚染水はコントロールされている範囲に入っていると思います。ただ、敷地に置いてあるタンクが錆びてきたり、パッキンが傷んで漏れたりと、ここをマスコミは盛んに突いています。そのようにマスコミの格好の餌食になるような話題を自分から作ってはいけないですね。これもやはり安全文化に関わります。

 柏崎刈羽の再稼働もそうですが、福島第一の汚染水対策をしっかりと詰めていかないといけません。私自身も気になって資源エネルギー庁に行き、現在の対策について聞いてみました。

 まず、凍土で固めて汚染水の移動を防ぐという対策をこれから始めます。また、地下水が毎日400tずつ原子力発電所の中に流れ込んでいますが、それを防ぐために山側に溝を掘って井戸を作り、ポンプで水を掻き出し、海に捨てます。これは地下水なので汚染度が非常に低い、ほとんど天然の地下水だと思いますが、いま漁協と交渉中だということです。

 地下水が400tも漏れ出てきて発電所まで流れ込み、敷地のところにある濃い汚染水も押し流されてしまうほうが心配なのです。ですから冷静に考えなくてはいけませんが、「新たに地下水をポンプで捨てます」言うと、そのことばかりに注目が集まってしまう。そういう馬鹿げた現象が起きています。

 ですから、事業者である東電は事実をきちんと公表しなくてはいけないし、国も説明しなくてはいけません。マスコミもそれを正確に報道しなければいけない。それをしない限り、国民から見た東京電力というのはいかにもだらしない電力会社に見えてしまう。これでは国民の信頼回復はできません。ですから、こういったことを私だけでなく多くの人がきちんと説明していかなければならないし、マスコミはそれを公平に伝えなければいけないと思います。

 

宮崎 ありがとうございます。澤先生に伺いますが、この国は原子力発電所ゼロでやっていけるのでしょうか。

 

 冒頭で述べたように、私は当面原子力が必要だと思います。ただ、今日の話でもわかるように、原子力を取り巻く状況は非常に厳しい。ですから、事業者の安全に対する認識あるいは取り組みの方法というのも課題です。規制委員会の設定する基準をクリアすればそれで終わり、と考えているようでは全然足りない。事業者自身が、自分の工夫でどうやっていくかを考える力を持たないと信頼もされません。

 さらに言うと、泊は比較的新しい原子力発電所ですが、全国的に見ると30〜35年を超えた原子力発電所は少なくない。

 そうなると、技術や人材を継承するためにも、新しい原子力発電所をリプレイスという形で建てていく必要がありますが、そのときに必要な安全以外の問題、つまり投資をするためのファイナンスが果たして集まるのかどうか。お金を貸す側の金融機関から見たときに、原子力は魅力的な電源と映るかどうか。事故のリスクもあれば、巨大な投資であるということもあるし、実際トラブルがあると運転を止めざるを得ないことも多くある。きちんとお金を回収できるかどうかが非常に不安定な状態です。

澤 昭裕 氏 そうした課題をどうクリアしていくかを考えなければいけません。しかし、エネルギー政策という観点では、事業者の力だけでは無理なので、国の支援が必要となるわけです。その際に、果たして政府や政治家が、原子力について今日この演壇で議論しているような必要性の認識を同じ程度に持ってくれているのかどうか。原子力は必要だけれども、続けていくためには政治的なコミットメントを再確認するという厳しいステップを踏まなくてはいけない。そういう認識も必要だと思います。

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