北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '09新春エネルギー講演会 
(5-4)
    【第二部】 「原子力を巡る最近の諸情勢」

インドの原子力情勢と長期構想

 

 さて、次はインドの話です。インドの原子力はこれまで非常にいじめられてきましたので、ひずんだ状況にあります。いじめの理由は、核兵器の不拡散に関する条約(NPT)にインドが入っていないからです。だからこれまで、IAEAを除いては国家間の技術協力関係は結ばれていませんでした。このため機械設備類の部品でさえ輸入できませんでした。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 インドの原子力発電所は、天然ウランを使って電気を起こす、カナダと同じタイプの原子炉(PHWR)で、15基あります。また沸騰水型原子炉(BWR)は、日本では廃炉にしたのと同じくらい古いタイプの原子炉で、これが2基あります。これらを全部合わせて412万kWの電気を起こしています。最近のインドは、IT産業を中心にずいぶんと経済力をつけてきました。そのために電力需要も増えています。そこで現在、建設中の原子炉としてはPHWRが3基、ロシアから買っている軽水炉(LWR)が2基、その他高速増殖原子炉(PFBR)が1基。これらを合わせて316万kWの電気を作ろうとしています。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 インドは2020年までに2,000万kWの発電を建設しようと計画しています。現在は400万kWですから、今後1,600万kWの電気を原子力で作ることになります。そのうち8基は現在インドが持っているPHWRで560万kWで、残りを軽水炉10基で1,000万kW作りたいというものです。また、もんじゅと同じ高速増殖炉(FBR)の4基で200万kWをと皮算用を弾いています。

 これだけたくさんの原子炉はインドで全部作ることは無理です。10基の軽水炉は日本やフランスから買いたいと言っています。日本のものは自動車でも家電製品でも品質がいいので、ぜひ買いたいと熱烈な希望です。しかし、日本政府は「インドはNPTに加盟していないから、原子炉は売りません」と冷たいのです。また、先日もインドのシン首相がわざわざ麻生首相に会って「何とか原子力協定を結びたい」と直接依頼されましたが、断られたということで非常に残念がっていました。これについてはあとで触れます。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 インドの計画についてもう少しお話しします。インドには日本と同様、ウラン資源があまりありません。ですから、原子炉を使っている限りは、他国からウラン資源を輸入しなくてはなりません。ところが、インドにはトリウムという核分裂物質がたくさ産出します。ウランからプルトニウムができるように、トリウムはウラン233という核分裂物質を作ります。これを使ってトリウムの核燃料サイクルを、将来自分の手で確立したいというのがインドの夢です。しかし、そのためには、プルトニウムを使うFBRをまず研究し、その後、トリウムを使うFBRを作るというのが、インドの長期構想です。現在は、天然ウランを使った原子炉しか使えない国ですが、次のステップとして濃縮ウランを使った軽水炉をぜひ日本からも買いたい。その延長線上に、高濃縮のFBRに移行する。これがインドの描いている長期路線だそうです。この点は日本とは違った路線と言えますね。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 この写真は、インドでFBRを作っている建設現場です。泊発電所の現場と比べてどう思いますか。特に、丸で囲った部分などは、廃材がたくさん散らかって雑然としていますね。私が大学を卒業した頃昭和30年初めの建設現場とよく似た乱雑さです。日本のようにクレーンをたくさん使い、整然とした原子力の現場とは違います。ご覧のようにクレーンが見えません。日本の技術を勉強したいというのが非常によくわかります。

 さて、インドはいまエネルギーを必要としています。背に腹はかえられませんから、ロシアから原子炉を2基購入しました。これを見て他の国々も黙っていません。口火を切ったのがフランスです。インドを焚きつけて、国際会議を開催しました。私にも招待状が来ました。アメリカは、インドと原子力協定を結ぶ、結ばないでずいぶんと時間を浪費したようです。まだ批准には至っていないのかもしれませんが、数人のアメリカ人がこっそりと会場に来ていました。

 インドは、できれば日本から原子炉を買いたい、と希望していますが、日本政府がそれを許さないとなると、次の手は、先ほどお話ししたウェスティングハウスと東芝といった連合軍の登場です。アメリカの会社であるウェスティングハウスがインドと契約を結べば、原子炉の製造は東芝となります。また、アレバと三菱という可能性も、GE・日立という組み合わせもあります。いずれにしても外国が契約するというワンクッション通さないと日本製品はインドに出せません。その分日本にとっては分け前が少なくなります。おいしさが消えるというわけです。このままでいいかどうかは疑問です。だが日本政府は「NPTに加盟していない国に、日本の原子炉を直接売りません」と頑なな態度を取っています。それは、日本が広島・長崎という原爆の洗礼を受けているので、NPTを非常に大切にしているからです。ほとんどのマスメディアもそれを支持しています。

「原子力を巡る最近の諸情勢」  私はインドに対してこう尋ねてみました。「日本の事情は十分わかっているはずなのに、なぜそんなに日本の原子炉をほしがるのですか」と。すると、こういう答えが返ってきました。

 「私たちは300年もの間、イギリスに支配されてきた。解放されたのは第2次世界大戦の余波で、インドは独立できた。しかし、それまでの300年間、インド人はイギリスから極めて不平等な取り扱いを受けてきた。これについては日本もご存知だろう。だから、私たちインド国民は、日本人が原子爆弾に反対するのと同じくらい強く、不平等な条約や法律に対しては反対する。NPTは原爆を作らないための一つの手段だが、NPTでは、5つの国だけに原爆が許され、他国は持ってはいけないという条約だ。だからインドは当初から反対し、加盟もしていない。しかしNPTの精神については、インド政府はこれまで完全に守ってきた。日本はどうしてここを理解してくれないのか。」

 また、彼らはこうも言いました。「東京裁判で判事を務めたインドのパール博士は、勝った国が負けた国を裁くというような不平等な裁判をしてはいけないと判決に反対した。インドの不平等反対についてはそういう事実があるということを日本にお伝えいただきたい」と。

 インドは、日本の原子力技術が優れていることを認め強くほしがっているのです。

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