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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '09新春エネルギー講演会 
(5-1)
    【第二部】 「原子力を巡る最近の諸情勢」

「原子力を巡る最近の諸情勢」
 

講師   石川迪夫氏
  元北海道大学教授、現日本原子力技術協会最高顧問  
  石川 迪夫 (いしかわ みちお) 氏  
略歴  
  東京大学(機械工学専攻)卒業後、1957年に日本原子力研究所に入所し、安全解析部長、動力試験炉部長、東海研究所副所長を歴任。1991年に北海道大学工学部教授に。1997年同大学を退官。2005年4月に日本原子力技術協会理事長就任、2008年3月より最高顧問として現在に至る。  


激動する国内外のエネルギー情勢

 

 今年もお招きいただきましてありがとうございます。毎年「原子力を巡る最近の諸情勢」という演題でお話をさせていただいていますが、今年は少し違う話をしてみたいと思います。

 最近は不景気な話が多く、100年に一度の経済危機ともいわれていますが、昨年はちょっと妙な体験をしてきました。産油国である中東・アラブ諸国、あるいはインドにおける原子力について見てきました。この私の体験を中心にお話ししたいと思います。

 その前にお喜びを述べねばなりません。今週、泊発電所3号機に燃料が装荷されたというニュースを聞きました。本当におめでとうございます。私が北海道大学の教授の時代、15、16年ほど前のことですが、当時の北海道電力の泉社長から3号機の計画について時折相談をお受けしたことがあります。それがいま、ようやく実現しようとしています。原子力は道のりが長く、計画を立てて原子力発電所ができるまでに約15年。当時の泉社長から現在までに4人の社長がいらっしゃいます。順調にいけば今年中に営業運転に入るとのことですが、ぜひつつがなく進んでもらいたいと願っています。

 さて、中東・アラブ諸国とインドの話をする前に、日本の情勢について少し述べておきましょう。昨年末のエネルギーに関するニュースにから拾ってみました。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 まず昨年12月22日、30数年の運転実績がある浜岡1・2号機を廃炉にし、新しく6号機を作りたいと中部電力から発表がありました。1・2号機は比較的古く、耐震強度もそれほど強く作っていなかったため、現在の耐震基準でやっていくには厳しい。1・2号機は小さな原子炉ですが、これらを廃炉にする代わりに新しい大出力の原子炉を作りたいとのことです。私はもったいないなぁと思っていますが、このニュースと入れ替わりのように、12月23日、九州電力が川内3号機の新設を鹿児島県に申し入れました。廃炉があれば新設のニュース、人生様々です。

 12月24日、三菱とアレバが加圧水型原子炉(PWR)の燃料合弁会社を設立しました。茨城県東海村にある三菱の原子燃料工場を合弁会社にして、アジアのPWR燃料の供給基地にするそうです。

 また、ウクライナが過剰料金支払いを拒否したことから、12月25日には、ロシアがウクライナへの天然ガス輸送を停止しました。ひどいことをやるものですが、これは1カ月間くらいので済んだようです。でもその後の影響が大きい。ロシアのガス供給を信用する国がなくなりました。リトアニアは現在、電力の8割を原子力で供給しておりますが、この発電所はチェルノブイリと同型で、これを閉止すると世界に約束していたのですが、これを止めました。また、チェコやブルガリアも40万kWくらいのVVER(PWR)を、再度復活させようとしています。ロシアの天然ガス供給を信用していたら、エネルギー不安でとんでもない生活になってしまいます。エネルギーというのは、必要なときに確実に届けられないと困ります。北欧の寒い冬にはとても耐えられないのです。昨年末にはそのような情勢が見られました。

 次に、2009年の年始のエネルギーニュースについてお話しします。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 まず1月7日、東芝&ウェスティングハウスがアメリカでPWRを2基受注しました。PWRについては、東芝はウェスティングハウスと組んで受注します。ウェスティングハウスはPWRを開発した会社ですが、いまは原子炉を製造する能力がありません。ですからウェスティングハウスは契約を取ってくる商事会社の役目、作るのは東芝です。この方法では利益が浅いのですが、原子力ルネッサンスに乗り遅れた日本の実状では仕方ありません。世界の原子力ルネッサンス、いよいよ本格的になってきたというわけです。

 1月20日、日本政府がアラブ首長国連邦(UAE)と原子力協力で覚書を交わしました。UAEは今日の話にも出てきますが、ドバイを含む7つの首長国からなる連邦国です。昨年4月にアメリカがUAEと原子力協力で覚書を結んでいます。

 同じ1月20日、アメリカでオバマ政権が発足しました。「グリーン・ニューディール」と称して、環境問題についての開発予算を10兆円くらい出すと発表しています。これが将来どのような大きな波紋となって広がっていくであろうか、このあたりが今後の原子力の影響を与えうると考えています。

 私たちにとっていちばん大切な日本国内の原子力は、昨年1年間は、何事も解決しないまま年を越しました。大事な時間を空費してしまいました。これが、日本が原子力ルネッサンスの流れに乗りきれず、遅れている理由です。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 柏崎刈羽原子力発電所は、2007年7月に新潟県中越沖地震があってから1年半が経ちましたが、いまだに1基も再稼動していません。こんなに放っておいていいものでしょうか。国益の損失です。柏崎刈羽原子力発電所が動いていないために、これまでに1兆2〜3千万円くらいの損失が出ているといいます。

 高速増殖炉「もんじゅ」も、いつまで経っても試運転が再開できません。火災警報が鳴ったという連絡が1、2時間遅れた、排気ダクトが錆び小さな穴があった、というのがきっかけで、それが大問題になったわけです。連絡が遅れたことは良くありませんが、それが原子力の安全性にどれほど関係することでしょうか。関係がないとは言いませんが、火災警報の連絡ミスを恰も安全問題であるかのように取り上げ、そのために原子力発電所が動かない、このことのほうが問題ではないかと思います。

「原子力を巡る最近の諸情勢」  それから、青森県六ヶ所村の再処理工場についてです。試運転は昨年完了しているはずでしたが、これもうまくいっていません。

 その事情を簡単にお話しします。原子力発電所の使用済燃料を薬品で溶かし、まだ使えるウランやプルトニウムを取り出すのが再処理です。使えないカスが、核分裂を起こしたあとの放射性物質、廃液です。これらを分離するところまでは、試運転が済みました。再処理の工程は全てうまくいきました。ところで、放射性廃液はそのまま置いておくわけにはいきませんので、「ガラス固化体」にします。ガラスは物質に溶け出しにくい性質があり、何千年と地中に埋めても大丈夫なものです。六ヶ所の再処理工場はこのガラスを作る工程、つまり、カスの処理ですね、ここでつまずきました。ガラスというのは、原料が違うとうまく作れないようです。再処理で出てくるカスは一つ一つ成分が違っています。つまり、ガラスを作る原料が違うのが、難航の原因です。それに加えて、これまでの装置よりも大きくしすぎ、加熱のバランスなどがうまくいかなかったと聞いています。これらは何とか、昨年末くらいまでに解決しました。ところが、更にこのガラスに不溶解物といって、燃料の端栓などを混入しようと欲張ったのです。この欲張りがいまの難航の原因です。原料が更に違ってくるわけですから、うまくいかないのも当然でしょう。

 このような不溶解物は、一般のガラスを原料としてガラス固化すればよいと思うのですが、廃液ガラスに不溶解物を入れるという方法は既に国に申請をしているので、この実現に難航しているのです。国の認可というのは厄介なもので、変えたいと思ってもなかなか変えてもらえない。柏崎刈羽原子力発電所や高速増殖炉「もんじゅ」の件もそうですが、日本の原子力問題は常にそうした本質的ではないところに集中しがちです。だから進んでいいものが進まない。その結果、お金と時間をどんどんロスしていく傾向にあります。このようなことを続けていれば、国が滅んでしまいます。その意味でも、泊発電所3号機にはぜひいいスタートを切っていただきたい、北海道にとって発展、飛躍の年にしていただきたいと思います。

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