北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '09新春エネルギー講演会 
(5-3)
    【第二部】 「原子力を巡る最近の諸情勢」

アラブ諸国が原子力に注目する理由

 

 さて、中東の情勢についてお話しします。昨年5月、バーレーンから「原子力の安全性について話をしてほしい」と話がありました。なぜ産油地域で原子力の話なのかと思いましたが、せっかくのご招待ですから行ってきました。3日間ほどの会議でしたが、アラブの人たちがなぜ原子力に関心を持ち始めたのか、そのきっかけがわかりました。それはイランの原子力発電所の運転開始です。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 図のように、イランにはブシェール原子力発電所が建設中です。まだ動いていませんでしたが、行ったときには昨年9月から運転を始めるとのことでした。これが運転を始めると、放射性廃棄物がペルシャ湾に放出されます。ご覧の通り長い形の湾です。ここの海水は5年に一度くらいでしか入れ替りません。そうなると、ブシェール発電所の対岸、バーレーンに住む人たちの中には心配する人もでてくるわけです。

 アラブ人である彼らは、「あのペルシャ人が放射性物質を我々の海に流し出そうとしている。こんな危ないことはない」と主張します。他の人は、「なぜペルシャ人にできることを、世界一優秀な我々アラブ人がなぜできないんだ。なぜ私たちは原子炉を持たないのか」とも言います。この2つの気持ちがないまぜになって動き出したのが原子力発電についての関心なのです。その気運をあおり立てたのがフランスです。「あなたたちは石油で儲かって金が余っているのだから、原子力を始めたらどうですか。世界では、炭酸ガスを出す石油に対して厳しい目が向いていますよ」などと言って、原子力への関心を引いたのです。フランスの勧めが効いて、アラブ諸国がその気になったから、不快に思ったのがアメリカです。石油採掘権を持つ石油メジャーは、アメリカの企業です。アメリカからすれば、自分の裏庭のような場所に仲が悪いフランスがまた手を出した、と。

 そんなときに私のところに招待状が来たのです。念のため外務省に尋ねてみたら「行ってもらっては困ります」と言うのです。「では外務省から断ってほしい」と言いましたところ、しばらく経って、「行ってほしい」と言うのです。アメリカがバーレーン、UAEと各々昨年3月、4月に原子力協力で覚書を結んだからです。放っておいてはフランスにやられると思ったのでしょう。それに追随するように日本も今年1月にUEAと原子力協力で覚書を結んだわけです。そのような動きもあり、「構いませんから行ってください」という話になったのでしょう。この日本の煮え切らない外交も原子力ルネッサンスの足を引っ張っています。UAEは2020年までに原子力発電所を作りたいと言っていますが、10年で発電所が10基もできるわけがありません。まずは、法体系と規制機関を最初にきちんと作ることと、一般の皆さんに原子力についてきちんと説明し、理解をいただくことが必要と、話してきた次第です。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 「世界の原子力ルネッサンス」という資料をご覧ください。現在原子力発電所を作ろうとしている国のほとんどが2020年を目標としている点が面白い。10年ほど先となると多少精度が粗くとも物が言えるからでしょう。UAEで原子力発電所を作る動きは、今、本格化しています。UAEと日本が原子力協力で覚書を結ぶというのは、その一つの現れでありましょう。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 ところで、ドバイというのは面白いところで、UAEの中でもドバイだけは石油が出ません。UAE以外のアラブ諸国、サウジアラビア、イエメン、オマーン、バーレーン、カタール、クウェートなどの国には、石油がどんどん出ます。これは気の毒だということで、アラブ諸国はドバイをハブ空港にして、経済的活性化を図ってきました。

 ドバイで建設ラッシュが進んでいることは、このところよく報道されていますね。ドバイの海岸沿いには、この写真のようにホテルが林立しています。私の印象では、シンガポールや香港の10倍くらいのスケールでビルがたくさん建っています。

 砂漠の砂で、海岸を埋め立てて、ヤシの木を植え、ヨットハーバーを持つ高級リゾート地「パーム・アイランド」を造成しています。その近くの沖合いには世界地図を模したリゾート地も作っています。出来上る前に土地は全部完売したそうです。大変な鼻息です。

 私が2002年に行ったとき、僅か6年前のことですが、ドバイの人口は70万人でしたが、いまは400万人です。タイ、インド、パキスタンなどからの出稼ぎ労働者が300万人以上来て、建設に従事しています。1990年の第1次中東戦争以降、ここにリゾートホテルやショッピングセンター、ゴルフ場などが作られ始め、これらが当たりました。

 砂漠は暑いところですが、冷房と水さえあれば、毎日天気が良く、風もないので、生活は非常に快適です。北欧の人などはこれまでアジアのリゾートに来ていましたが、いまはドバイです。より近いからです。また、ロシアの地域によっては、飛行機でも2時間ほどで来ることができます。だからロシア系のリゾートホテルも多いのです。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 これは海岸沿いにそびえ立つ有名な7つ星のホテルの「バージュ・アル・アラブ」です。6年前に私が行ったときは、このすぐ近くに泊まりましたが、建設が大概終わったという頃でした。それが昨年行ってみると、こんな風に様変わりです。(上の写真を比較してご覧下さい)何もなかった周囲には道路もできて、大変な繁華街になっています。先ほどお見せしたロシア系ホテルのあるリゾート地は、ここから15kmほど先です。そこまでの間はビルやリゾートホテルが林立しています。6年間に15kmもリゾートが出来たのです。ハイアットやヒルトンなど世界でも有名ホテルがそれぞれ海岸を占拠し、大きな通りを挟んで一般住宅地があります。ほとんどが他国から出稼ぎに来ている人などの住宅です。それら住宅は全部エアコン完備です。

 アラブの砂漠は、一般的には何もない砂漠地帯ですが、そこところどころとゴルフ場が作られています。砂漠の中に青々としたゴルフ場の森が忽然と現れるのです。

「原子力を巡る最近の諸情勢」

 6年前にはゴルフ場はまだ1つだけでしたが、今回行ったら9つあるとか。水は海水を蒸発させた蒸留水です。それを使ってゴルフ場のグリーンを保っています。海水ですから飲み水としてはあまりおいしくありませんが、生活用水として使っています。ちなみにこの水、石油とほぼ同じ値段で、1リットル40円ほどです。

 そのように、UAEはわれわれの常識とは異なった国です。建設ラッシュで人口は400万人にまで増えました。高層のビルは、シンガポールや香港の数倍はあるでしょう。ドバイは将来、シンガポールや香港にとって替わるのではないかと思ったりもします。しかし、いまの世界的な経済不況がありますし、周辺のアラブ諸国と違って、石油が出ませんから、資金が切れれば建設も止まります。果たして今後どのようになっていくでしょう。

 さて、アラジンの魔法のようなドバイの話から戻って、原子力ルネッサンスという点では、石油の出るアラブ諸国は「原子力を使うようにしないと、国の将来が危ない」という考えで一致しています。いまから原子力に力を入れなければと考えています。こうした動きが現在はっきり出てきています。「世界の原子力ルネッサンス」のところに「アラブ諸国は2020年までに10基?」と書きましたが、そこまでは無理でしょう。1基くらいはできるかもしれません。

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