エネルギー講演会「脱炭素化に向けた日本の針路」
【第一部】講演
(7-7)
●小型モジュール炉の時代と北海道の展望

ここで、ビル・ゲイツの話をします。「黒い象」というのをご存じですか。10年前ぐらいから言われ始めましたが、黒い象とは、そこに確実にあることはわかっているリスクのことです。黒い象が部屋の中にいたら、誰も見過ごしませんよね。誰も見過ごさないリスクだけれども、やっていない。つまり、見て見ぬふりをするリスク。「ブラック・スワン」という予測できないリスクに対する「ブラック・エレファント」という言葉です。
ビル・ゲイツは「黒い象が2頭いる」と言っています。一つは感染症です。ビル・ゲイツはコロナの前から「次に感染症が出たら大変なことになる」と警鐘を鳴らしていました。彼はWHO(世界保健機関)に対して、日本政府以上にお金を提供しています。
彼がもう一つ気にしている黒い象は、温暖化です。温暖化を止めるために彼は個人資産を注ぎ込んでいて、その一つが小型モジュール炉です。
ビル・ゲイツの小型モジュール炉は、左下の写真です。私はコロナの流行寸前の2020年1月にアメリカのビル・ゲイツの会社に行って、研究所を見せてもらいました。小型モジュール炉は、福島第一原子力発電所事故のような電源喪失があったとしても、過酷事故に至る可能性が非常に小さいです。ビルゲイツの炉は、自然対流で冷却ができる優れものです。すごいですね。
右下の写真が、アメリカの連邦政府が大きな補助金を支出しているニュースケールの小型モジュール炉です。日本の会社もここに投資をしていて、2027年に完成予定です。原子炉は水の中に入っています。これは電源喪失後30日間は過酷事故に至らない設計です。

小型モジュール炉は発電設備量1万〜30万kWのものを組み合わせてつくります。水素をつくるために北海道で50万kWの原子炉が必要となれば、この小型モジュール炉、ニュースケールだと1基あたり7万7,000kWなので、これを5基ぐらい組み合わせて必要な分の電気をつくる。工場で作り、現地で組み立てることができ、安いです。ニュースケールだと92万4,000kWで2,900億円。現在の大型炉の半分ぐらいの価格で、コストも非常に安くなります。
下の写真はアメリカのミシシッピ川で、一つのユニットは、このようにはしけに積んで運べるくらいの大きさです。実用に応じて何本か運び、現地で組み立てます。こういうものを日本で早く導入するといいと思います。
世界でいま70ぐらいの設計がありますが、韓国製の設計も入ってきています。日本も早くこういうものをやって、北海道でつくって、先行する。そういうことが非常に大事なんじゃないかと思います。
最後に「リスクと便益」とあります。原子力というと、皆さん「なんだか怖い」と思いますよね。なぜそう思うのでしょう。
例えば、インドのボパール化学工場では、死者1万人、負傷者50万人という大事故がありました。こういう化学工場の事故があっても、石油からつくられているペットボトルの使用をやめようと誰も言いません。インドのこの工場は肥料工場でしたが、農業あるいは肥料を使うのをやめようとは言わない。なぜかというと、メリットが目に見えるから、事故があってもメリットのほうが大きいと皆さんが感じているんです。
原子力も同じです。メリットが目に見えないだけです。「電気代が安くなる」「二酸化炭素が出ません」と言っても、目に見えません。ただ、メリットについては、よく考えなくてはならない。これから小型モジュール炉の時代になったときに、これを地域でどう生かしていくのかを考えておかないと、地域は取り残されます。
最初に示した消滅可能市町村の地図が現実になってきます。そうならないようにすることをわれわれは考えなくてはならない。それが大事だと思います。

≪講演会の様子≫