北海道エナジートーク21 講演録

エネルギー講演会「脱炭素化に向けた日本の針路」
【第一部】講演

(7-2)

●貧しくなって幸福度が下がる国・日本

 こういう話をすると、「世界で幸福度の高い国は人口の小さい国ばかりだ」と言う人がいます。国連の世界幸福度ランキング上位10カ国を見ると、一番人口が多い国でもオランダの1,700万人ぐらい。小さい国だと、アイスランドは34万人しかいません。北海道が400万人になっても、自分の住んでいるまちが半分の人口になったとしても「小さくても幸せならいいでしょう」と思うかもしれません。それは無理なんです。なぜかわかりますか。
 これら幸福度ランキング上位の国は、最初から人口の少ない国だからです。日本の場合はほぼ1億3,000万人の人口に達して、そこから減っていきますから、JRも維持できない。電線や道路や水道は1億3,000万人に合わせてつくられたので、人口が半分になったからインフラも半分でいいというわけにはいきません。
 そう考えると、小さくても幸せな国を日本が目指すことは、残念ながらできない。じゃあどうするかというのが、2050年脱炭素化を考える上での非常に大きな前提条件になります。
山本 隆三 氏  日本の人口は1億2,600万人で世界的に人口が多い国です。どれぐらい多いかというと、世界で230ぐらいの国がありますが、日本の人口は世界11位です。最近、メキシコに抜かれるまでの間、日本は10位でした。先進国の中で日本より人口の多い国はアメリカしかない。アメリカは3億3,000万人で世界3位です。日本は先進国の中でアメリカに次ぐ人口を持っていて、それが日本の経済力につながっています。
 日本が世界第3位の経済大国というのは、実は人口がそれを支えている面があるわけです。では、これから人口が減っていったらどうなるのか。日本の経済力は既になくなってきています。

 これは2019年の平均年収ですが、日本は主要先進7カ国の中で最低です。日本とイタリアは韓国にも抜かれています。いまは韓国人のほうが日本人よりもお金持ちです。日本経済が成長していないからです。

 このグラフは、1991年のバブル崩壊直後から30年間の主要国の平均賃金の推移を示したものです。日本は赤色です。円高でドル表示なので減っていないように見えますが、韓国に抜かれました。30年前の1991年に日本よりも下だったフランスやイギリスは、日本よりもはるかに給料が高くなっています。
 日本人の平均給与が一番高かったのは1997年。平均年収467万円です。2019年で436万円。2020年のデータはつい最近発表されましたが、433万円。収入が約1割減っています。世界広しといえども、こんな国は他にありません。経済が成長していないからです。
 1995年、日本は世界の中でも勢いがありました。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』という本を1979年にハーバード大学の先生が書いて大ベストセラーになりました。その本によれば、1998年に日本はアメリカを抜いて世界一の経済大国になると予想されていました。1994年、日本のGDP(国内総生産額)、つまり日本人の稼ぎはアメリカに迫っていました。世界に占めるアメリカのシェアが24%、日本のシェアが17%でした。世界第2位の経済大国として、世界の富の17%を日本が持っていたのです。

 それから25年経ちました。日本のGDPは赤で示したものですが、まったく増えていません。アメリカはどんどん増えています。その間、中国が伸びてきて、日本は世界第3位になりました。いま世界に占めるアメリカのGDPは1995年時と変わらず、世界の4分の1を占めています。一方、日本のシェアは当時の17%から6%に落ちています。日本は実質的に、この25年間で経済力が3分の1になったわけですね。本来であれば、アメリカと同じように日本は成長していなければならない。中国よりも経済力がなければいけない。でも、残念ながらこの25年間成長していません「平成の失われた時代」というのはこのことを言います。
 こうなったのはなぜなのか。デフレはなぜ起こったか。人によって言うことが違います。
 昔、日銀総裁だった人が、「中国から安い品物が入ってくるから、デフレになるんだ」とおっしゃいました。これは明らかな間違いです。なぜかというと、中国との貿易比率が日本より高い国は世界に20カ国ぐらいありますが、どこもデフレになっていません。
 また、「労働人口が減っているからデフレになる」などと言っているエコノミストもいますが、これも間違いです。なぜかというと、世界で労働人口が減っている国は日本だけではありません。例えば、イタリアは90年代に労働人口が減っていますが、デフレにはなっていませんし、その間、経済成長しています。

 では、なぜ日本だけデフレになって、景気が悪いままなのか。理由の一つは、中国製品でも人口問題でもなく、輸出額です。日本は輸出がまったく伸びていません。20年前、日本とほとんど輸出額が変わらなかったドイツはいま、日本の輸出額の倍ぐらいです。日本は残念ながら、売れるものが少なくなってしまった。アメリカや中国やドイツは、世界中に売れるものをたくさんつくっている。日本はつくれなくなっていますね。技術力を失っているということです。

 技術力が失われているのは、これを見ればわかります。主要国の特許保有数では、日本は中国に抜かれています。アメリカが中国を非常に警戒しているのは、特許の件数、高度な技術力で抜かれるかもしれないから。これは大変な脅威ですね。中国は、宇宙船から中型旅客機まで自国で全部つくることができる。日本よりはるかに優れた技術力を持っています。

 どうしてそうなるのか。これは日本のGDPのうち、どの分野が稼いでいるかを示したグラフです。製造業は稼ぎが大きい分野で、120兆円ぐらい。でも、どの分野も伸びていません。北海道は観光が強いですから、観光への期待が大きいと思いますが、一番下の青の「宿泊・飲食」のところは増えていません。
 なぜかというと、日本人の収入が減って旅行に行かなくなったからです。外国人が来て、少し下げ止まりました。でも、日本人が観光に使うお金のほうがはるかに大きいのです。
 中でも一つだけ伸びているのが「保健衛生・社会事業」、つまり介護です。日本のGDPは少し増えていると、皆さんは安心しているかもしれませんが、増えているのは介護だけです。

 このことは、働く人に関するデータを見てもわかります。産業別就業人口を見ると、介護分野で働く人しか増えていません。アルバイト、パートも入っていて働く人は6,500万人ぐらい。人口は減っても、働く人全体は減っていません。定年が伸びているからです。また、女性の働く人が増えています。働く人の総数は変わっていませんが、製造業で働く人と建設業で働く人は極端に減りました。この20年間で、製造業で働く人は200万人減、建設業で働く人は100万人減。そして、その人たちを吸収したのが介護分野です。

 このように、働く場所が変わると平均年収も下がります。なぜかというと、介護は相対的に年収が低い仕事ですね。宿泊・飲食は大きな産業で一番年収が低い仕事です。観光産業が伸びてもあまり地域が豊かにならないのは、残念ながら給料が安いからです。だから給料の高い仕事をやらなきゃいけない。ということで、製造業や建設業など給料の高い分野で働く人が減ったら、平均年収が下がるのです。

2/7