北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム
「これからの日本のエネルギーを考える」

【第二部・パネルディスカッション】

(4-4)

日本はドイツの一面しか見ていない

川口 日本の製造業は、ハイテクに特化して生きていくしかないと思います。この国は安い製品を大量に輸出して生きていく国ではない。それは皆さんおわかりだと思います。そのためにすばらしい学校教育があるのです。一番重要な、稼ぎ頭の製造業が停滞しているのは残念なことです。

 先ほどのお話のように、20年間も給料が上がらなくて日本人がだんだん貧乏になっていく、それをみんなが何もしないで見ているというのが信じられません。原因をきちんと考えて、対策をとるべきだと思います。

 電力もそうですし、移民もそうですし、いろいろな問題がヨーロッパですでに起こっています。日本はそれを見て学べばいいのに、全然見ないで、固定価格買取制度など、完全に失敗の制度をそのまま取り入れてしまいました。そのあたりに憤りを感じるわけです。

川口マーン惠美 氏 私がドイツに行ったのは、もともと音楽留学がきっかけでした。電気などは一切関係なく、頭はまるで文系の人間です。なぜエネルギーのことをやり始めたかと言うと、福島の事故のとき、日本がすべて放射能でやられているというような報道をドイツがしつこく続けていたからです。水素爆発の瞬間を、遠くから望遠で撮っている映像がありますね。あれを何度も流して、おまけに迫力が足りないと思ったのか、最後には爆発音までつけました。子供達が被ばく検査を受けている映像を、チェルノブイリの怖い映像とサンドイッチにして流したり、とにかくしたい放題でした。結局ドイツは、福島をきっかけにして、急速に脱原発に舵を切ることになったわけですが、私の怒りは収まらず、ドイツの脱原発のフォローをはじめ、いまでは、エネルギー政策の世界にどっぷりと引きずり込まれてしましました。

 日本にとって一番危険なのは、ドイツがやっていることを自分たちもできると信じてしまうこと。日本は島国でヨーロッパのように電気のやりとりができません。また、ドイツには、褐炭という品質の悪い石炭が今も捨てるほどあります。だから、いざとなったらそれを燃やせばいい。いますでに、脱原発をしたときのため、10基ぐらい火力発電所を新設しています。日本人はそういうことを全然知りません。いまEUの火力発電所で、空気を汚すワースト5の発電所のうち、おそらく3基か4基はドイツのものです。褐炭は空気を汚すのです。ワースト1はポーランドにあります。

 先ほどCO2の問題を山本先生がおっしゃったように、ドイツはこのままでは自分たちがパリで宣言した削減目標が守れないということをわかっています。だから、それをどのように修正していくか、修正し切れなかったときに、メンツを潰さずにうまく方向転換していくにはどうすればいいかということを、いま政治家が一生懸命考えているところです。ですから、ドイツが環境大国だというのはある意味では本当ですが、エネルギーに関してはほぼ神話だということを冷静にご覧になったほうがいいと思います。

まとめ

橋本 今後の展望も含めて、最後にそれぞれまとめのご意見をいただきたいと思います。

 

川口 “強い日本”というと、あたかも右翼のように思いがちですが、私は一人一人の国民の力の合計が日本の力だと思っています。それは軍事力という意味ではなく、一人一人が働いて、それに見合ったお金をもらい、国が正常に機能していくということ。一人一人の力をプラスして強い国を作ることはちっとも悪いことではなく、むしろそれを目標にしなくてどうするのかと思っています。そのために必要なことは、しっかりとしたインフラ。特に電気は必要不可欠で、これをすべて市場競争に任せてしまっては後で取り返しのつかないことになるのではないかと非常に心配しています。

 

山本 最近、アメリカやイギリスを見ていると、温暖化の問題はどこかへ行ってしまっています。トランプさんはもともと温暖化を信じていましたが、共和党から大統領に立つことを決めたときに「温暖化は起こっていない」と主張を変えています。彼がいま言っているのは「エネルギー自給率100%」。ベネズエラなどの敵対する国に頼らないということ。まだそういう国から石油を輸入していますが、いずれ化石燃料を100%すべてアメリカ産にする。原子力も20%維持するということです。

 基本的には強いアメリカですが、その一つのテーマはエネルギーです。エネルギーで強いアメリカ。世界一安いエネルギーコストを維持するというのがトランプさんの方針です。ですから、彼にとって温暖化はどうでもいいのでしょう。環境保護局長官に温暖化を信じていない人を任命しましたから、大変なことですね。

パネルディスカッションの様子

 イギリスは、いままで温暖化に非常に熱心でした。昨年、脱EUの結果、メイ首相に変わりましたが、最初にしたことはエネルギー気候変動省の廃止。彼女は気候変動問題には関心がないといわれています。イギリスにとって関心があるのは、エネルギーコスト。電気代。メイ首相は、閣僚12人で産業戦略会議を立ち上げたんです。その会議内容は非公表ですが、新聞報道によると、そこで議論されているのは「強い製造業復活」。そうしないと地方が元気にならないからです。脱EUになったのは、地方の製造業で稼いでいた人がみんな不満を持ったから。アメリカと同じです。だから「製造業復活」なんですよ。そのためには安いエネルギーコストが必要です。温暖化は、彼女の頭の中にはもうないと言っていいでしょう。

 一方、日本はそこまでのことは言っていませんが、アメリカ、イギリスがそのように見切っている中で、やはりよく考えなくてはなりません。日本だけが高いエネルギーコスト、電気代を使っていると、国際競争力、産業競争力では明らかに負けます。

 特に、基礎産業、エネルギー多消費型産業が多い北海道は、本当に電気代、エネルギーコストを下げるようにしないと、地域経済が大変なことになる。少子化も人口流出も止まりません。それを防ぐにはどうしたらいいかというのを本当に考えてほしいと思います。

 

橋本 先生、ぜひ最後に明るくなるような結びをお願いします。

 

山本 あまり明るいデータはないですが、北海道は原子力発電の比率が高いですね。震災前は、電力の半分を泊発電所で供給していたので、あそこが動けば北海道の産業競争力はかなり増すでしょう。泊発電所を早く動かして、北海道経済を元気にしてほしいと思います。

 

橋本

橋本 登代子 氏 今日は新しい情報をたくさんいただきました。エネルギー問題はわからないことがたくさんありますが、自分なりに少しでも勉強して、一歩一歩解決していき、生活の中で逃げないで議論していきたいと改めて思いました。お二方の先生、本当にありがとうございました。

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