川口 日本の製造業は、ハイテクに特化して生きていくしかないと思います。この国は安い製品を大量に輸出して生きていく国ではない。それは皆さんおわかりだと思います。そのためにすばらしい学校教育があるのです。一番重要な、稼ぎ頭の製造業が停滞しているのは残念なことです。
先ほどのお話のように、20年間も給料が上がらなくて日本人がだんだん貧乏になっていく、それをみんなが何もしないで見ているというのが信じられません。原因をきちんと考えて、対策をとるべきだと思います。
電力もそうですし、移民もそうですし、いろいろな問題がヨーロッパですでに起こっています。日本はそれを見て学べばいいのに、全然見ないで、固定価格買取制度など、完全に失敗の制度をそのまま取り入れてしまいました。そのあたりに憤りを感じるわけです。
私がドイツに行ったのは、もともと音楽留学がきっかけでした。電気などは一切関係なく、頭はまるで文系の人間です。なぜエネルギーのことをやり始めたかと言うと、福島の事故のとき、日本がすべて放射能でやられているというような報道をドイツがしつこく続けていたからです。水素爆発の瞬間を、遠くから望遠で撮っている映像がありますね。あれを何度も流して、おまけに迫力が足りないと思ったのか、最後には爆発音までつけました。子供達が被ばく検査を受けている映像を、チェルノブイリの怖い映像とサンドイッチにして流したり、とにかくしたい放題でした。結局ドイツは、福島をきっかけにして、急速に脱原発に舵を切ることになったわけですが、私の怒りは収まらず、ドイツの脱原発のフォローをはじめ、いまでは、エネルギー政策の世界にどっぷりと引きずり込まれてしましました。
日本にとって一番危険なのは、ドイツがやっていることを自分たちもできると信じてしまうこと。日本は島国でヨーロッパのように電気のやりとりができません。また、ドイツには、褐炭という品質の悪い石炭が今も捨てるほどあります。だから、いざとなったらそれを燃やせばいい。いますでに、脱原発をしたときのため、10基ぐらい火力発電所を新設しています。日本人はそういうことを全然知りません。いまEUの火力発電所で、空気を汚すワースト5の発電所のうち、おそらく3基か4基はドイツのものです。褐炭は空気を汚すのです。ワースト1はポーランドにあります。
先ほどCO2の問題を山本先生がおっしゃったように、ドイツはこのままでは自分たちがパリで宣言した削減目標が守れないということをわかっています。だから、それをどのように修正していくか、修正し切れなかったときに、メンツを潰さずにうまく方向転換していくにはどうすればいいかということを、いま政治家が一生懸命考えているところです。ですから、ドイツが環境大国だというのはある意味では本当ですが、エネルギーに関してはほぼ神話だということを冷静にご覧になったほうがいいと思います。
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