北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム
「これからの日本のエネルギーを考える」

【第二部・パネルディスカッション】

(4-1)

【第二部】パネルディスカッション
 

常葉大学経営学部経営学科教授
NPO法人国際環境経済研究所所長
山本 隆三 (やまもと りゅうぞう) 氏
作家 川口マーン惠美 (かわぐちマーンえみ) 氏

電力自由化から1年経った日本の現状

橋本

橋本 登代子 氏 第二部では「電力自由化の日本と世界の潮流〜ドイツの現状とともに〜」をテーマに、山本先生、川口マーン惠美さんと一緒にお話を展開していきます。

 まず、皆さんは山本先生のお話を聞いてどのように感じたでしょうか。泊原子力発電所3基が止まって、5月でまもなく5年になります。それまで道内では、4割以上が原子力発電でまかなわれていました。と同時に、広大な北海道では設備費が多くかかり、大手電力会社の中でも北海道電力の電力料金はかなり高いところにあります。先日、食品製造業の経営者の方が「電気料金が高くて従業員の賃金も上げてあげられなかった。このままじゃ体力が持たない」と嘆いていました。私は山本先生のお話をうかがって、そんなことを思いました。川口マーンさんはいかがですか。

 

川口 私はドイツに住んでもう35年になります。山本先生もおっしゃっていましたが、日本はこんなにいい国なのに、20年間ずっと停滞していることが残念でたまりません。

 私の著書『ドイツの脱原発がよくわかる本〜日本が見習ってはいけない理由〜』に書いておりますが、2015年、世界で幸福度の1番高かった国はスイスで、その年、日本は46位。これは絶対におかしい。日本もスイスも、工作機械から精密機械、薬品に至るまで良いものをたくさん作っています。スイスは、そうしたものを輸出しなければなりませんが、日本は内需が大きく、国内での消費が見込めます。また、日本人もスイス人も教育程度が高く、しかも勤勉で、秩序の整った国を作り上げました。なのに、なぜこんなに差がついてしまったのかと疑問を感じて書いた本でした。

川口マーン惠美 氏 本の中では、エネルギー問題にも触れています。先ほどのお話のように、スイスでは3.11の後に、原発をやめると一度決めましたが、その後に考えが行ったり来たりして、これからまた原発を進める方向になると思います。日本にもそのように、状況を見て考え、修正する力が必要なのではないかと私は思います。

 山本先生のお話には危機感が溢れていました。私も日本を外から見ていて同じように感じていますから、日本の方たちにもその危機感を感じ取っていただき、いい方向に変わっていけばいいなと思います。

 

橋本 ありがとうございます。では山本先生、日本で電力が自由化されて1年経ちましたが、現在の状況を教えていただけますか。

 

山本 電力システム改革は、競争環境を作り出し、選択肢を増やして電気代を下げようというのが目的でした。ヨーロッパではそれを進めている国もありますが、どこもうまく行っていません。なぜかというと、競争環境を作り出しても電気代が下がる保証がないからです。

火力発電設備利用率

 これは火力発電設備の利用率です。電気は貯めるとすごくお金がかかるので、基本的に貯められません。また、一年や一日の中でも電力需要がすごく変動するので、需要が大きいときだけ動く発電設備が必要です。

 日本でその役割を担っているのは、燃料代の高い石油火力です。これは関西電力の震災前の数字ですが、石油火力は年間20%も動いていません。九州電力だと石油火力の稼働率は3%ぐらい。つまり、一年のうち10日間しか動かない設備ということになります。そういう設備を持つと大変ですが、誰かが作らないといけないものなんです。

英国の家庭用電気料金の推移

 しかし、電力を自由化すると、誰もこういう設備を作らなくなります。イギリスは1990年に自由化しました。年月が経つにつれ、古い発電所は閉まっていきました。誰も設備を作らないので設備が減っています。今年はいろいろな事情があって、イギリスの冬の電力予備率は1.6%。設備が1個止まれば停電というところまで追い込まれました。イギリス政府はいま必死です。電力を自由化した結果、イギリスでは電気代が一時的に下がりましたが、その後にものすごく上がりました。設備が減ってきたら電気代が上がるのは当然です。

山本 隆三 氏 イギリスではこの冬、新電力が倒産しました。卸電力の価格が上がってしまったからです。「安く電気を売ります」と約束したが売れなくなり、その途端に倒産宣言しました。続けるほど赤字が増えるわけですから当然です。ですから、電気を自由化して電気代が下がるというのは、どうも世界の例を見ると非常に難しい。

 ちなみに、いまアメリカで最も信頼されている経済学者はポール・クルーグマンというニューヨーク市立大学の先生ですが、彼は、「市場に任せてはいけないものが3つある」と言っています。一番目は教育、二番目は医療、三番目は電気。電気を市場に任せても安くはならない。逆に電力供給を止めて、値段を上げるような会社が出てくる。電気は必需品ですから、そういうことをすると大問題ですね。電気というのは非常に難しい商品だと思います。

 

橋本 日本も電力自由化で約400の企業が新規参入しましたが、今後イギリスのように倒産する企業が出てくるということでしょうか。

 

山本 倒産以前に、名前だけ連ねても何もしていない企業がたくさんあります。実際に商売している会社は数えるほどではないかと思います。皆とりあえず登録しているから、400社近い会社が名乗りを上げているわけですね。

 

橋本 日本の電力業界は、これからどういう方向に進んでいくとお考えですか。

 

山本 それは、なぜ自由化をしたかに関わってきます。日本の電力会社はこれから日本市場だけでは規模の拡大ができないので、海外に出ていかなければいけない。しかし日本の電力会社は、海外の電力会社、例えばドイツの E.ONやRWEなどと比べると規模が小さいんです。ですから、電力会社が規模を大きくして海外で事業をしてほしいと政府は考えていたのではないかという気がします。

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