北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギーシンポジウム
「これからの日本のエネルギーを考える」

【第二部・パネルディスカッション】

(4-2)

ドイツの電気料金は上がり続けている

橋本 川口マーンさん、ドイツを含めヨーロッパの電力事情について教えていただけますか。

 

川口 ドイツが電力とガスを自由化したのが1998年です。その1年前、EUでは「2年後までに25%を自由化しなさい」という決定があったので、それを受けてドイツは全面的に自由化に踏み切ったわけです。

川口マーン惠美 氏 電力自由化の最大の目的は、市場競争の導入によって電気代を下げることでした。電気は以前と変わらず大きな電力会社が作っていましたが、売る会社が増えて1000社ぐらいになりました。さまざまなところで人件費を節約するなどして、最初の4年間ぐらいは電気代が下がりましたが、その後はずっと上がり続け、10年ぐらい経ったころに2倍になり、さらに上がり続けました。電気代が上がった理由は自由化だけでなく、その後に太陽光が増えたことも原因です。2014年から2015年にかけて一瞬止まりましたが、一昨年も昨年も上がって、これからもまだ上がるだろうという予測です。

 ドイツの電気代は、家族3、4人ぐらいの平均家庭で年間13万円ぐらいです。その中から再生可能エネルギー買取価格として年間約3万5000円を負担しています。ですから、日本でも皆さんの家庭で払っている電気代は、かなり高くなっている状況で、これからも高くなるという心配な状況になっています。

 

橋本 国民はどんな反応をしていますか。

 

川口 もちろん電気代が高くなるのは困ると思っています。それを左右しているのが、再生可能エネルギー買取価格の問題です。買取にかかる費用は家庭用の電気代に乗せられていますが、多くの企業は免除されていてあまり負担していません。それで家庭用の電気代が上がっているわけですが、国民はその理由を自然環境のためだと信じていますから、少々の負担は我慢しようと思いがちです。また、自分たちは環境大国だという誇りが強く、他の国もドイツのように再生可能エネルギーを進めて脱原発をするだろうという期待感を持っています。脱原発や再生可能エネルギーの抱える諸問題については、政府もメディアもなかなか言わずにいるという状況です。

電力自由化によってどんな影響があるか

山本

日本の全発電設備量

 これは日本の例ですが、日本の全発電設備量は3億kWぐらいで、そのうち新電力といわれる会社が持っている発電設備は1%もありません。230万kWぐらいです。電気を売っている人はほとんど自前の発電設備を持っていないということです。

 さらに、この230万kWの半分近くは1社、大阪ガスの泉北天然ガス発電所の電気です。つまり、北海道でいえば製紙会社が持っている自家発電の余剰電力のようなものがあります。そうすると、230万kWあっても、現実に使えるものは150万kWぐらいしかない。それを新電力という会社が売るといっても、売るものがありませんね。ではどうしているかと言うと、どこかから買ってくるわけです。極端なことを言うと、電力会社が余っている電気を売って、それを買って新電力として売っている形もあります。発電設備がないのだからしかたありません。

 しかし、こういうことが長く続くかどうか。自分で発電設備を持っていない会社が仕入れて売るというのがうまく行かなくなってくる。それが今年イギリスで起きた新電力の倒産です。安く売ると約束していたものの、仕入れ価格が上がってしまった。日本で、やがてこういうことが起こってくるだろうと思います。

 

橋本 もしもそうなった場合に備えて、国は手立てを考えているのでしょうか。

 

山本 イギリスの場合、停止した代わりの電力会社を政府が指定する形で供給を続けます。新電力が破たんしてそこから電気を買っていた人は、電力供給は保証されます。ただし契約内容は保証されません。今回のイギリスの場合は、契約内容もとりあえず引き継いだ会社が引き受けましたが、政府は保証しないことになっています。

 日本の場合は特殊で、北海道で新電力が破たんしたら、北海道電力が供給義務を負っています。皆さん、電力供給は途絶えることはないけれども、契約内容はどこかでチャラになる可能性はありますよ、ということですね。

 

川口 ドイツでも「電力は商品なので、どこからでも買える、自由に選べる」ということなので、価格を比較できるインターネットのサイトが数多くあります。家族構成、住所、年間のおおよその電力使用量などを入力すると、各社のプランが、何百と出てきます。そこから自分に一番合ったものを探せると。たくさんあって選ぶのも大変なくらいです。

川口マーン惠美 氏 ただ、電気代というのは燃料費を含め発電にかかるコストが変動するうえ、税金など必ず払わなければいけないものが電気代の50%以上を占めているので、自由競争で価格を下げるといっても、切る部分がかなり限られてくる。だから違ったところで差別化を図ることもあります。たとえば、ちょっと高めでも、再生可能エネルギーの電気の割合が多いプランとか、夜間電気の安いプランとか。

 でも、どんな電気を買ったつもりでも、コンセントから来るのはどれも同じ電気で、差額は帳簿上のやり取りでしかありません。そのあたりについて、私たち消費者にはどういう仕組みになっているかよく見えません。

 また、格安で売っておきながら、2年目からは値段が上がる詐欺まがいのものなどもありました。でも、最初多かった販売会社も、つぶれたり買収されたりで、次第に淘汰されていきます。

 

橋本 そのあたりの仕組みはなかなか見えにくいですね。また、先ほど山本先生のお話の中で、ドイツでは輸出産業に関しては電気料金が安いというお話がありましたが、よく考えたものですね。

 

川口 ドイツでは元々、政府と企業の結束力が強い。そのうえで、国際競争力を落としてはいけないということでは意見が一致していますから、企業は再エネ電気の買取価格の負担については、ほとんど免除か割引してもらっています。一方、中小企業は高い電気代を払っており、経営が圧迫されています。

 電気代がどんどん高くなっていると言いましたが、毎年10月15日に電気代に乗せる買取価格の翌年分の比率が決まります。そこで電気の販売会社は翌年の値上げ幅、値下げ幅を決め、11月1日に翌年の電気料金を発表します。昨年11月には328社が値上げを宣言しました。

パネルディスカッションの様子

ヨーロッパの最新電力事情

橋本 スイスやフランスなどの事情も教えていただけますか。

 

川口 EUでは、エネルギー政策も各国別々ではなく、基本的にEUで統合しようとしています。電力網は毛細血管のようにつながっていますから、売ったり買ったりが常に行われています。

 ドイツでは脱原発を決め、2022年に原発を全て停止することを目標にしましたが、そうなると電気が足りなくなる可能性があります。一方、再生可能エネルギーは増えすぎており、今でもしばしば余っている。余った分は貯めておくわけにいかないので、いまのところ、隣国に流して引き取ってもらったり、また、足りないときは隣国のあちこちから買ったりなど、融通をつけています。ドイツの周りには9カ国ありますので、採算を度外視するならどうにかなる。

 ただ、今年の1月は異例の寒波が来て、ヨーロッパは本当に寒かった。普通は北極からの空気が海に出て温度を上げてからヨーロッパに流れ込みますが、今年はロシアから東欧に流れ込んで、ヨーロッパ全体はもちろん、アフリカ大陸のモロッコやチュニジアあたりまで寒波で包み込みました。

 

橋本 何度ぐらいまで下がったんですか。

 

川口 一番寒かったのは、ノルウェーのマイナス40度。私のいるドイツのシュツットガルトでも、寒い日はマイナス18度になりました。もっとひどいのは東欧のブルガリアやルーマニアで、マイナス30度になった日がありました。そうなると、電気が足りなくなるわけです。

 もともとフランスは、原発の電気が8割ぐらいで電気代が安いため、電気暖房が多い。厳冬の時期、気温が1度下がると、電気使用量が中型の火力発電所1基分も上がるのだそうです。ところが、1月に寒波が来るということがわかった12月の時点で、原発が点検で何基か止まっていた。政府はその対応を協議し、国民に対して「洗濯機や食器洗い機はなるべくいっぱいにしてから使ってください」「エレベーターではなく階段を昇りましょう」ということまで言っていました。もちろん、電気を多く使う企業には節電の協力を申し入れたようです。

 結局、フランスは停電にはなりませんでしたが、ルーマニアでは起こったそうです。要請を受けたブルガリアも逼迫していて回してあげられなかったとか。ヨーロッパで電力網がつながっていると言っても、全部の国で同じ条件になってしまうと、そういうこともあります。

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