北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

エネルギー講演会
「環境とエネルギーについて、一緒に考えてみませんか?」

【第二部・対談】

(4-4)

ベストミックスの観点から見た原子力発電

増田 化石燃料も、再生可能エネルギーも、原子力発電も一長一短ですね。安全で安定していて安いという条件が揃うものはないんですね。駅伝チームのように得意なところと不得意なところを混ぜ合って良い結果が出るような、専門用語で「ベストミックス」といわれますが、上手に持ち味を発揮しながら進んでいけたらいいなと思います。

 

山本 ベストミックスの話が出ましたが、原子力発電には不安を感じている方が多いと思います。そこで、ベストミックスの観点から原子力発電の話をします。

 ベストミックスというのはいろいろなことを考えなければいけません。一番は安全保障ですね。日本のエネルギー自給率は6%しかありませんから、他のエネルギーをどうやって調達させるかということが非常に大事です。原子力発電は一回燃料を装着すると2、3年使えるので、国産エネルギーとみなされているわけです。

世界の原子力発電所

 実は、世界の原子力発電所はこれくらい増える予定です。なぜこんなに原子力発電が増えるかというと、安全保障の問題です。イギリスは安全保障と温暖化問題ですね。北欧の場合は電気料金の安定化と温暖化問題などの事情があって計画しています。また、電力量が増える中国やインドは、電力需要をまかなうために原子力発電を進めるしかないということでどんどん増えています。

原子力発電に関する意見の変化

 やはり皆さん安全性の心配があるだろうと思います。福島の事故のあと、世界の世論はどのように変わったか。ドイツは「直ちに閉鎖」という意見が半分になりました。日本は「直ちに閉鎖」が4分の1ぐらいになっています。ところが、イギリスやアメリカは「直ちに閉鎖」が減ります。「新設すべき」は、アメリカはほとんど変わりません。イギリスは「新設すべき」は増えます。これはどういうことでしょう。事故があった後にもっとやれというのが増えたのはおかしいですね。これには理由があります。

 ヨーロッパでいうと、イギリス政府は「原子力発電所にはリスクはある。でも、なければもっと大きなリスクを抱える。それは安全保障や温暖化の問題だ」という考え方をします。

リスクをどう見るか

 これは温暖化問題に対するイギリス政府の判断です。イギリスではこのように考えます。原子力のないリスクのほうが原子力のあるリスクより大きい。原子力のもたらす便益は原子力が引き起こすかもしれない事故のリスクよりも大きい。こういうふうに考えます。便益とはエネルギーの安全保障、温暖化、電気料金です。イギリスは島国ですが、日本と違うのは大陸とパイプラインも電線もつながっています。それでもやはり原子力があるほうがいいということです。

原油生産量と原子力発電支持率推移

 また、アメリカの田舎に行って車に乗せてもらうと、車の中に100%拳銃を持っています。護身用です。アメリカ人は自分の身は自分で守るという考え方が徹底していますから、原子力発電所も必要です。自給率はまだ11%ぐらいですね。いまアメリカは石油も天然ガスも世界一の生産量です。石炭は中国に次いで世界2位。それだけ生産していてもやはり原子力を進めます。それは自給率の問題。万が一のときに他国に頼らなければいけないのは避けたいということ。事故のリスクよりも自給率です。ですから、近年のように石油の生産が増えると原子力発電の支持が下がってきます。非常にはっきりしています。何のために原子力発電所がいるのかを考えているということです。

浜岡原発再稼働に関する意見

 これは静岡県で原子力発電所の再稼働に賛成か反対かを調査したグラフです。これを見ると、20歳代は再稼働に「肯定」が66%です。年齢が上がるに従って減っていきます。60歳代が一番少なく、「反対」が一番多い。70歳代以上になると「肯定」が上がります。

 NHKによると、世論調査を実施すると回答者の半分は60歳以上です。20歳代の回答者は3%しかいない。世論調査には高齢者の意見が強く出ている可能性があります。ということは、年齢によって意見が違う場合、特に60歳代以上の意見に引っ張られている可能性があります。世論調査で再稼働の反対が多いというのは、本当はどうだろうと思います。例えば静岡県の場合、日本の年齢構成で調整したのが上から2番目の数字です。実は日本の年齢構成で調整すると、再稼働に「肯定」が半分を超えています。

山本 隆三 氏 なぜ若い人はこんなに再稼働を「肯定」するのか。それは安全保障と温暖化問題に関する知識が高いのかもしれません。もう一つは生活が苦しいということです。私の学生を見ていても、授業が終わったらほとんどアルバイトに行っています。実感として電気代が上がったら耐えられない、だから再稼働して電気代を下げてほしいというのが20歳代の考え方ではないかと思います。

 私は再稼働反対派の集会に行って話をすることがあります。よく「子どもの将来のために反対します」と言いますが、子どもの将来のために原子力発電所を止めたら、電気代はますます大変なことになります。子どもの将来のためであれば、リスクとベネフィットをよく考えて、何がいまの日本にとって大事なのか。この20年間給料の下がっている国を何とかしなければと考えなければいけないのではないかと思います。子どもの将来とは何なのかというのを、最近大学で教えながら考えさせられます。

 

増田 日本はこれからどうなっていくのでしょうね。

 
 

年収と生活実感の推移

 

山本 実は、日本の年収は2014年韓国と同じぐらいです。世界46位です。日本はそんなに立派な国ではなくなってしまいました。いま「生活が苦しい」という人は国民の3割弱。「大変苦しい」が3割弱。「やや苦しい」が3割強。合わせると、国民の61%が「生活が苦しい」という国です。これはもう先進国ではないですよ。国民の6割以上が「生活が苦しい」というのは非常に問題です。なぜこうなっているのか。

 格差が拡大しているのかというと、そうではありません。「1億総下流」に向かっています。いま働いている人の40%以上が年収300万円以下です。働いている人のうち、年収1000万円以上の人は3%台にまで落ち込みました。要は、格差は拡大していません。これはどういうことかというと、80年代に1億総中流という言葉が流行りましたが、いまは1億総下流。全員貧しくなっています。これが、学生にとって「希望が持てない」ということです。就職先を聞くと一番は「安定」です。公務員志望、銀行員志望ばかり。夢がない。そうなったのは、こういう1億総下流があると思います。

2人以上世帯月平均支出額推移

 電気代がすごく問題です。これは2000年からの2人以上世帯の月平均支出額推移です。右下がりの青い線は消費額。32万円あったのがいま29万円を割っています。10%ぐらい支出が減りました。何を減らしているかといえば、例としてパック旅行。月6000円使っていたのが4000円になっています。観光業は中国人に期待するしかないですね。日本人は遊びに行かなくなったわけです。お金がなくなると、最初に削るのは外食費と旅行代ですね。

 ところが、そんな中で一つだけ増えているものがある。電気料金です。電気料金は単価で25%上がっていますが、世帯の支払額は10数%しか上がっていません。ということは、消費を減らしています。皆さん努力して節電をしています。でも支出が増えています。これは何とかしないと旅行に行く気にもならない。やはり収入を増やして電気代を下げるというのは、日本経済にとって非常に大事なことだと思います。本当に子どものためということであれば、何ができるかということを日々考えなければいけません。電気料金は世の中のいろいろなものに影響を与えています。私たちは物の値段や鉄道料金などを考えて行動しなければいけないなという気がします。

 

橋本 ありがとうございました。エネルギーの情報というのは、変化がないように思っていましたが、日々変わっていきますし、お話をしていただく方によって違うので、いろんな情報を得て自分で判断することが必要だなと改めて思いました。

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