北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

'12新春フォーラム『日本のエネルギーを考える』
【第二部】 座談会「日本のエネルギー問題をどう考えるか」

(4-4)

質疑応答

司会 では質疑応答に入らせていただきます。ご質問をお願いいたします。

 

質問者A  お二人に共通の質問です。仮に風力、太陽光で発電をすると、どんなに頑張っても稼働率は30%くらいです。そうすると、ある瞬間には日本全体の設備容量の3倍近い出力が出てしまいます。そのあたりについてはいかがでしょうか。

 

十市  太陽光発電5,300万kW、風力1,000万kWで計6,300万kWで、日本全体の発電設備容量の稼動ピークは1億6,000万〜1億7,000万kWくらい。実現すれば、だいたい3分の1が入るという形です。これだけの量を安定的にしようとすると、いまおっしゃったように相当な蓄電設備を設置しないといけません。同時に、ガス火力発電所が電力の変動に対してかなりうまく対応できるので、ガス火力発電を入れてそれで対応するとともに、蓄電池などを活用する。そういうコストもある程度考えたうえで、本当にここまでやれるかどうかを今後検証する必要があります。

 

森本  風力や地熱、太陽光というのは今後の技術開発の大きな目玉になると思いますが、安定的に供給するだけではなくて、需要に応じて変動させることが難しいという技術上の問題があります。ですから、それに対して投資しようというインセンティブがなかなか働かないので、国が相当補助しなければいけません。

 しかし、国が補助をすればするほど、その他の技術に転向しようというインセンティブがなくなるので、非常に難しいやり取りをしなければなりません。

 ただし、限られた地域で太陽光や風力や地熱を使って、そのコミュニティでスマートグリットの電力網をつくっていくことには可能性があります。たとえば、村の全員で風力と火力と地熱を使って地域の電力を維持する。足りない分はガス発電機を使って供給するという方式です。そういう非常にうまいやり方を地域で考えていく方法があるだろうと思います。

 

宮崎  はい。スマートグリットがいま大変注目されていますね。従来の大容量電力を一斉に使うのではなくて、IT技術を生かして地域の拠点ごとに電力網をネットワークしていくというものです。十市先生、一言お願いします。

 

十市  まさにこの分野に非常に力を入れています。座談会の様子スマートグリットは、日本の企業が非常に競争力を持っている分野ですから、いくつかモデルプロジェクトがすでに立ち上がっています。実際にやってみてどういう結果が出るか、うまくいけば輸出産業としても広げていき、国の成長戦略につなげようということで、日本がこれからもっと力を入れるべきだと思います。

 

質問者B  原子炉には加圧水型、沸騰水型という2つのタイプがあると聞いていますが、その長所と短所について教えてください。

 

十市  私は原子力工学の専門ではないので十分ではないと思いますが、私の理解する範囲でお答えします。

 世界的には加圧水型軽水炉(PWR)が圧倒的に多いです。ただ、沸騰水型軽水炉(BWR)についても日本やアメリカを含めてかなり実績があります。福島第一原発で使っていた「マークⅠ」という日本で最初のBWRについては、安全性の面で不十分さがあったということも指摘されていますが、最新型のもので比較すると、どちらが優位ということにはなりません。PWRとBWRのしくみについては冷却の方法が違うということで、必ずしもどちらが良いということではないと思います。

 

質問者C  十市先生にお聞きします。オホーツク海など寒冷地の深海にメタンハイドレートがあって、世界的にいうと石油の埋蔵量に匹敵するともいわれています。ただ技術的に取り出すのが難しいと聞きます。このメタンハイドレートの評価はいかがでしょう。

 

十市  いまおっしゃったように北海道沖や熊野灘沖に大量のメタンハイドレートがあります。これは水の分子の中にメタンが閉じ込められているので、分離するための技術開発がまだうまくいっていません。

 それと、海底水深が800〜1,000mからさらに数百m下にメタンガスを含んだ層があり、それを回収するわけですから、環境面への影響も考慮しなくてはなりません。もしもメタンガスが地表に漏れれば温暖化の原因になるので、経済的かつ環境にマイナス影響を与えずに回収できる技術開発を、いままさに日本が先頭に立ってやり始めています。

 これには相当時間がかかると思われ、10年後に実用化まではいかないと思います。日本としては技術開発を着々と進め、備えの資源として考えるべきではないかと思っています。

 

質問者D  CO2を地下に閉じ込めるという技術の将来像をお聞きしたいと思います。また、世界的にはCO2についてどういう対応をしようとしているのかをうかがえればと思います。

 

十市  CCS(炭素回収貯留)といい、これは日本でも進めているほか、ヨーロッパ、アメリカなどもやっています。

 一番経済的で技術的にも簡単なのは、生産している油田にCO2を注入し、それで油の回収を増やすという増進回収法をアメリカなどが行っています。また、天然ガスが枯渇したガス田に戻すという方法も有効です。さらに、帯水層といって地下に水を含んだ層があり、そこにCO2を高圧で注入して閉じ込めるという技術があります。この技術を実用化しようと、世界中でプロジェクトが立ち上がっています。ただ、もしもCO2が漏れたら環境に影響するので、ドイツなどでは発電所の近くでそれをやろうとして地域住民に反対され、結局できないということも起きています。

 ですから、化石エネルギーを使う以上、CO2が出てくるのを地下に戻すというのは理想的ですが、貯蔵する場所の問題に加え、100〜200年間安定的に閉じ込められるかという安全性についてもまだ保証されないこともあって、時間がかかると思います。

 

まとめ

宮崎 では最後に、お二人からまとめのコメントをいただけますか。

 

森本  当たり前のことですが、国家や産業はエネルギーなしに発展しません。一つのエネルギーにすべてを託すことはあり得ないので、「ベストミックス」という考え方が不可欠です。つまり、エネルギーをどう組み合わせるかという将来目標に基づいて技術開発を進める必要があります。

座談会の様子  先ほど、アメリカがイランの原油を買わないように経済制裁をしようとしているとお話ししましたが、そういうアメリカのやり方は、第2次世界大戦のときと同じで、いつまでたっても変わらないなと感じます。一つの国を締めつけ、国家の命運をかけて戦わなければならないような窮地にまで追い込むというのは、決してやってはならないことです。

 そう考えると、いまの国際情勢は70年前と本質的に変わっていないということをつくづく感じる一方、今後日本が発展していくためには安定的なエネルギーを確実に手に入れることに知恵を絞らなくてはなりません。

 そこで申し上げたいのは、やはり原子力を捨てるわけにはいかないということです。事故が起きたことは不幸だったけれども、人間がつくったものは人間の知恵で乗り越えられるはずです。人間の知恵でこの困難な事態を克服し、新しい技術開発の道を求めて乗り越えていかなければ。「事故が起きたからやめましょう」というのでは、何のために人間の知恵があるのかと。知恵を使って自然と技術を乗り越えていくということをしなければなりません。

 いま、世界の中で日本人の勇気が試されていると思います。恐れずに事故を乗り越えていくという覚悟を日本国民が持つことが、何より重要なのではないかと思うわけです。

 

十市 森本先生と同じ意見です。エネルギー問題は、国の基本的な形をつくるための長期的問題です。それがいま、福島第一原発事故をきっかけに感情的要素からくる批判が多い中で、国の将来を決めるための非常に大事なことをあまり急いで決めないほうがいいと私は思っています。

 3.11以降、エネルギー問題については連日マスメディアで報道され、国民の知識も相当増えたと思います。あとはきちんと冷静に議論し、将来日本はどうあるべきかについて時間をかけて決めていかなくてはなりません。あまり拙速に物事を決めて、あとで取り返しのつかないことになるのが一番良くない。普天間の問題なども同じことです。

 政治には理想を掲げることが非常に重要ですが、同時にそれを具体的にどう実現していくかというプロセスがないといけません。原子力についても、単に「脱原発がいい」と言うだけでは政治家とはいえない。それを実現するためのいろいろな道筋をきちんと提示し、国民の理解を得たうえで、やるならやる。そういうプロセスを踏まなければならないと思います。

 

宮崎  ありがとうございました。お二人にはさまざまな角度から語っていただきました。「木を見て森を見ず」という言葉がありますが、木だけを議論するのではダメですね。いかに豊かで美しい森を子孫に残すことができるかという視点で考えていかければならないと思います。今日のフォーラムは、私たちがちょっと立ち止まって考えるための大変良いチャンスだったのではないかと思います。

 本日はご参加いただきまして、誠にありがとうございました。

 

森本 敏(もりもと さとし)氏 宮崎 緑(みやざき みどり)氏 十市 勉(といち つとむ)氏

拓殖大学大学院 教授
海外事情研究所長
森本 敏(もりもと さとし)氏

1941年 東京都生まれ。専門は、安全保障、国際政治。外務省で在米日本国大使館一等書記官、情報調査局安全保障室長。退官後、野村総合研究所、PHP総合研究所などを経て現職。『米軍再編と在日米軍』『普天間の謎-基地返還問題迷走15年の総て』など著書多数。最新刊は『それでも日本は原発を止められない』(共著)。

千葉商科大学
政策情報学部長 教授
宮崎 緑(みやざき みどり)氏

神奈川県生まれ。1982年からのNHK「NC9」初の女性キャスターに起用されたジャーナリストとして経験を活かし、専門の国際政治学、政策情報学に実学としての体系を導入。2000年より千葉商科大学に。奄美の屋久杉と大島紬の保護に取り組み、「奄美パーク」園長、田中一村記念美術館館長も兼務している。

(財)日本エネルギー経済研究所
顧問
十市 勉(といち つとむ)氏

1945年 大阪府生まれ。理学博士。73年入所後、米マサチューセッツ工科大学エネルギー研究所客員研究員、総合研究部長、常務理事、専務理事・首席研究員などを歴任。2011年7月から現職。『21世紀のエネルギー地政学』『石油-日本の選択』『第3次石油ショックは起きるか』などの著書がある。


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