北海道エナジートーク21 講演録

 
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北海道エネルギー環境教育研究委員会

'12新春フォーラム『日本のエネルギーを考える』
【第二部】 座談会「日本のエネルギー問題をどう考えるか」

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'12新春フォーラム『日本のエネルギーを考える』 【第二部】 座談会 「日本のエネルギー問題をどう考えるか」
 

  拓殖大学大学院 教授、海外事情研究所長 森本 敏 (もりもと さとし) 氏
  (財)日本エネルギー経済研究所 顧問 十市 勉 (といち つとむ) 氏
  千葉商科大学 政策情報学部長 教授 宮崎 緑 (みやざき みどり) 氏
     

エネルギー自給率の低い日本の現状

宮崎 皆さま、こんにちは。基調講演で森本先生のお話を聴いて、大変な世の中になってしまったという思いを強くした方も多いのではないかと思います。

宮崎 緑 氏  また、東日本大震災で深い傷を負った方々にあらためて心からお見舞いを申し上げたいと存じます。マグニチュード9.0や十数メートルの津波などの非常な事態に私たちは深く傷ついたわけですが、その後の展開を見ると、私は「人災」という言葉が最も合うのではないかと思います。原子力発電所の技術担当の方や消防・警察・自衛隊、市民の方々など、現場の皆さんは最大限の努力をされて頑張っていたと思いますが、一方で政治の役割はないに等しいという、このあたりの「人災」は甚だしかったのではないかと思います。

 しかし、そうしている間に世界は大きく変わっています。ひと頃は、アメリカ同時多発テロの前と後で世界が変わったといわれましたが、私は東日本大震災の前と後で人類社会そのものが変わりつつあるのではないかと実感しています。そこで、基調講演での森本先生のお話を踏まえながら、十市先生をお迎えし、お二人にお話をうかがいたいと考えています。

 特に現在は、福島第一原発事故を受けて脱原発の動きが大きくなっています。仮に原子力発電所がなくなった場合、石油はどうかというと、政治的な問題で確保できるかどうかわからないと森本先生もお話しされていました。

 まず十市先生、エネルギーの専門家として、エネルギーは今後も確保できるのかということをお話しいただけますか。

 

十市  私がエネルギーの研究を始めたのは1973年、第1次石油危機の直前に現在の研究所に入りました。それから現在まで40年ぐらいの間に、石油危機や今回のような原子力発電所の事故もあり、エネルギーについて先を見通すのはいかに難しいかということを大変実感をしています。特にいま日本の置かれている立場を考えるとそう感じます。

 私がエネルギーの研究を始めた1973年は、日本はエネルギーの約8割を石油に依存していました。そこで、第4次中東戦争が起きたために石油が来なくなるというオイルショックがありました。トイレットペーパーなどがなくなって日本経済が大混乱に陥ったことを会場の皆さんもご記憶かと思います。それ以降、いかにエネルギーの安定供給を目指すかが課題となり、石油に代わるエネルギーとして、原子力のほか太陽光発電など新エネルギーの開発が40年前から進められてきました。

主要国のエネルギー自給率 (2009年)

 この図は主要国のエネルギー自給率の比較で、日本のエネルギー自給率は4〜5%。国内の地熱発電、太陽光発電、風力発電などを全部集めても4〜5%で、残り13〜14%は原子力発電です。「ウランは100%輸入だから国産ではない」という議論はありますが、原子力の場合は一度燃料を装荷すると3〜4年は安定的に使えますし、使った燃料を再利用すれば国産になることから「準国産エネルギー」という評価をしています。それを入れて日本は18%という自給率になります。

 ドイツはこのたび脱原子力を宣言しました。国内に石炭がたくさんあり、自給率は39%。フランスは、電力の75%を原子力でつくっています。それを入れると自給率は50%です。アメリカは原子力を入れて75%。アメリカは国内でシェールガス(頁岩から採取される天然ガス)を生産し、天然ガスは完全に自給体制です。石油も新しい技術開発でどんどん生産が増えてきています。そういう意味では非常に高い自給率といえます。中国は90%を超える自給率です。

十市 勉 氏  こうして見ると、日本のエネルギー自給率は極めて脆弱です。食料自給率40%でさえ「もっと上げろ」といわれていますが、エネルギーについてはこれから相当努力をしても極めて低い自給率です。森本先生のお話のように国際情勢では難しい問題がある中で、日本にとってはエネルギーの安定供給が重要な課題です。しかも、いくら値段が高くてもいいわけではありませんから、経済面も考えて安定供給できることが大事です。いずれにしても日本の置かれている立場が脆弱だということは、過去40年間変わっていないと思います。

 特に、福島第一原発事故を受け、国内では原子力への依存度を下げようという動きが出てきています。どこまで減らすか、あるいはゼロにしろという議論もありますが、日本のエネルギー事情を踏まえたうえで国際情勢を見すえ、日本の経済社会や暮らしを維持するためにどうするべきかという冷静な議論をしなければならないと思います。

 

宮崎 十市先生、再生可能エネルギーが大規模な工場地帯などでも有効に使えるようになるにはあと100年かかると聞きますが、実際はどうなんでしょう。

 

十市  太陽光や風力などの再生可能エネルギーは、資源量は確かにたくさんあります。しかし、最大の問題は供給が不安定なことです。

 太陽光の場合、曇ったり雨が降ったりしたら発電しません。日本全体で見ると、1年8,760時間のうち発電できるのは平均1,100時間なので、年間を通して12%という計算です。風力の場合、陸上で平均20%、海上で平均30%ですが、安定して風が吹くかどうかという問題があります。たとえばヨーロッパの北海などは比較的安定した風が吹きますが、日本の場合は山が多いことなどから不安定といえます。

 ですから、そうした不安定な電源を産業用エネルギーに使おうとするなら、電気を大量に安く蓄えられる蓄電池の技術開発が進めば、現状は大きく変わる可能性があると思います。現在、リチウムイオン電池を使ったハイブリッド車なども出てきていますが、もっと効率の良いものが開発されれば可能性はあります。それにはまだ時間がかかり、いつ実現するかわからないというのが現状です。

 

宮崎 ありがとうございます。実験レベルと実用レベルには相当大きなギャップがあるということですね。

 

ヨーロッパのエネルギー事情と国家間関係

宮崎 では、日本のエネルギー自給率が低いのであれば、他国に融通してもらうことはできるのかどうか。それには政治的問題が絡んできます。資料を持ってきたので、ここでお見せしてよろしいでしょうか。

ヨーロッパにおける天然ガスのパイプライン網

 この図はヨーロッパに張り巡らされたガスパイプライン網です。ものすごい網の目ですね。ガスだけでなく、電力送電網や石油パイプラインなどが国境を越えて張り巡らされています。見方を変えれば、どこか1カ所で止まったら、他国も全部止まってしまいます。そうならないためにはエネルギーの安全保障が重要で、これを確保するためにも国家間関係がどのように動くかという問題もあります。

 ちなみにガスはロシアから来ています。1989年にベルリンの壁が崩れ、翌90年に東西ドイツが統一し、その後ソ連が崩壊して15の共和国に分かれました。そのとき真っ先にロシアを承認すると手を挙げたのは隣国のドイツでした。ロシアがつぶれてしまうとドイツにエネルギーが来なくなるからです。つまり、そのような形で国際社会が動いているんです。

 こうして見たときに日本の安全保障は大丈夫なのかどうか。森本先生、いかがでしょうか。

 

森本  おっしゃる通り、ロシアはガスパイプラインを政治的にうまく使ってきたわけですが、冷戦後にパイプラインの栓を止めたことで東欧をはじめとしてヨーロッパに大恐慌をもたらしたわけです。

 ヨーロッパのように国同士が地続きの地域では、電力やガスなどを融通し合えるという利点があります。たとえば、ドイツは福島第一原発事故原発を受け、2015年から2022年までに現在稼動中の原発9基を段階的に止めていくと言い、脱原発の道を歩み始めました。でも、ドイツの電力はフランスから来ていて、その電力はフランスが原子力発電によって供給しているわけです。また、ロシアからガスを送るには電力が必要ですが、それにはロシアの原発でできた電力を使ってガスを送っている。結局、元を正せば原子力なんです。それをドイツは「自分は原発を一切しない」と言っている。ドイツの脱原発というのは見せかけの禁煙と同じで、「自分のタバコは吸わないが、人からもらうタバコは吸う」というのによく似ています(笑)。

 エネルギーの相互依存というのは非常に大事ですが、日本の場合は四方を海に囲まれているので、どこかから電力を融通してもらうことができません。せいぜいできるのは、サハリン2プロジェクトの海底パイプラインを使って天然ガスを持ってくることくらいです。

森本 敏 氏  アジアで電力を融通できるのはASEANで、たとえばミャンマーはタイから電力を融通してもらっていて、それ以外にアジア大陸国の中で電力網をつくろうという動きがあります。しかし、日本の場合は地形的に難しいので、どうしても自国のエネルギーを作るか、海外に依存するか、この2つしか道はありません。

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