北海道エナジートーク21 講演録

 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会

'12新春フォーラム『日本のエネルギーを考える』
【第二部】 座談会「日本のエネルギー問題をどう考えるか」

(4-2)

日本は近隣諸国と手を組めるか

宮崎 そうなると、日本ではたとえば尖閣諸島の地下資源の行方が気になりますね。あそこに眠っている資源量はイラン一国分くらいあるといわれています。しかし近年では中国が領有権を主張していて、かつて日本の領土だと認めていたのに、いまや「わが国の領土だ」と言い始めました。十市先生、やはり豊富な地下資源が目的なのでしょうか。

 

十市  地下資源がどれくらいあるかについては、実際に探査して掘ってみないとわからないところはあります。

十市 勉 氏  日本は島国なので、いままでは日本国内だけで電力やガスを供給する体制でしたが、これからは別の可能性を探ることも必要です。たとえば九州と朝鮮半島は距離が近いので、天然ガスパイプラインや送電線をつなごうという議論が始まっています。ただし、すぐに実現するわけではありません。日韓関係もありますし、北朝鮮も指導者が変わって今後どうなるかわかりませんが、北朝鮮の核問題が解決に向かえば、ロシアの天然ガスパイプラインを朝鮮半島に通して日本や中国と結ぶなど、北東アジア地域でエネルギーネットワークをつくることができます。私は十分可能性があると考えていますが、その前に政治的な問題を解決しなければいけないので、時間はかかると思います。

 そのように、エネルギーのネットワークを持つことは国同士が仲良くしようというプラス面に働くので、日本のエネルギー安全保障の問題も、国境を越えた地域で考えていくことが非常に大事だと思っています。

 

宮崎 そうすると、ここ北海道はロシアと非常に近い地域ですね。地の利を生かしたエネルギーネットワークを考えたとき、北海道はすごくメリットがあるかもしれない。でも逆の見方をすれば、先ほど森本先生のお話にあったように、極東軍事力を増強しているロシアの前で、どのようなことが起こるかという不安もあります。森本先生、北海道から見たロシアと関係についてはいかがですか。

 

森本  ロシアという国は非常に現実的で、政治と経済をうまく両天秤にかけて戦略的に動かしていく国だといえます。しかし、今後プーチンが政権を握ったとしても不安定な要素が多いですから、日露交渉は進まないと思います。

 他方、ロシアは極東の資源を一番大事にしています。極東には未曾有の資源が眠っているわけですが、ヨーロッパ諸国はこれに出資したくないんです。パイプラインが長すぎますから。アメリカは、わざわざ相手の資源に手を出してロシアを強くしたくないと考えている。中国は手を出したいけれども、逆にロシアのほうが嫌がっている。なぜかというと、中国人というのは出資したら金が動くだけではなく、技術を持って人間がその土地に入っていきます。極東部の人口は約620万人で、大したことはありませんから、中国の労働者が1割も入っていったらロシアの極東は乗っ取られてしまいます。したがって、ロシアにとって一番の脅威は中国の人口です。

 ところが、日本は出資してもそこに行きません。外資を導入してくれて資源を買ってくれる、しかし人は来ないということは、ロシアにとって最も望ましい。北方領土返還を期待して資源のパイプラインをつくってしまったら、日本は手足を抜けなくなります。日本は資源を安定的に得るためにロシアの顔色をうかがわなければならなくなり、ロシアにメリットがあるので、おそらく次のプーチン政権では、最初に日本に手を出してくるでしょう。そして、日本は非常に重大な選択を迫られ、領土問題を放置して資源にだけ乗り出していくことが、長い目で見て本当に国益になるのかということを真剣に考えなければならないと思います。

 

宮崎 ロシアの大統領選挙は3月ですから、目前の問題ですね。少なくともいままでの伝統的な外交交渉では通用しない時代になったことだけは確かだと思います。

 

世界で注目されるシェールガス

森本 十市さんにお尋ねしたいことがあります。アメリカやロシア、オーストラリア、カナダなどで生産されるシェールガスは、世界のエネルギー事情に革命的な変化を起こそうとしているようですが、なかなか実態がわかりません。

 シェールガスは頁岩という深い岩層の中にあり、90%以上のメタンガスからできている新しい形の天然ガスです。こうした技術開発がうまくいけば、日本でも非電力のエネルギーとしてシェールガスを生活に生かせるのではないかと。しかも、生産地がアメリカやオーストラリアなど政治的に安定した国なので、資源を安定的に確保できます。このシェールガスの将来性をどのように考えたらいいですか。

 

座談会の様子 十市  シェールガスは新しい資源ですが、もともとあるのはわかっていました。頁岩という非常に硬い岩盤に入っている天然メタンガスを回収するのはコストが非常に高く、技術的に難しいといわれていたのが、3,4年前にアメリカで技術的にクリアでき、安く生産できるようになってどんどん増えています。

 しくみとしては、井戸を掘って、化学物質を含んだ高圧の水を注入し、岩につくった割れ目から天然メタンガスを回収します。アメリカで経済的に安く生産できるのは、掘削技術が進歩したからです。井戸はたいてい垂直に掘りますが、「水平掘削」といってシェールガス層に沿って水平に掘る技術が非常に進んでいます。こうした技術革新を経て3,4年で実用化しました。シェールガスはアメリカ、カナダ、中国、インド、ヨーロッパ、オーストラリアなどにあり、資源量としては、ロシアなどが持っている通常の天然ガスに比べると数倍の資源が世界にあるといわれています。

 そのほか、炭層ガスというものもあります。北海道など石炭が採れる地域には、石炭層にメタンガスがあります。昔はよく炭塵爆発がありましたが、あれは炭田のメタンが発火して爆発していました。いわゆる危険物ではありますが、このメタンを安定的に回収しようと、中国ではすでに商業的に進めています。大石炭国のオーストラリアでも、炭層ガスをLNGとして日本に輸出しようとするプロジェクトがすでに始まっています。

 こうした化石エネルギーはいずれ枯渇しますが、従来いわれていたよりも資源量は豊富だといえます。ただし問題なのは、今後はより条件の厳しい地域で開発しなければならないことです。先ほどの北極圏の話もそうですが、氷で覆われているために探査できなかった地域が、地球温暖化の影響もあって氷が融け始め、開発できるようになりました。ただし極地なので条件は非常に厳しいです。ということは、高いコストをかけないと開発できないし、環境にもかなり影響が出るということですね。

 

宮崎 その通りですね。環境問題は非常に重要です。メタンは温室効果ガスの一つで、燃やせば燃やすほどCO2が出ます。環境問題を考えると、地球が傷んでしまったら元も子もありません。そこで日本は国連総会で「CO2を25%削減する」と言っていたわけですが、これは実現できるのでしょうか。

 

十市  鳩山前々首相は「1990年比で2020年までに25%削減する」と国際公約で発表しました。あのときですら実現は難しいという見方でしたが、福島第一原発事故を受けてこれから原子力を大幅に減らす計画ですから、25%削減はますます難しくなりました。CO2を出さず、なおかつ化石エネルギーを使わずにエネルギーの安定供給をできるかというと、非常に難しい状況です。原子力をどこまで安全に利用できるか、あるいは国を挙げて再生可能エネルギーに取り組むことも必要だし、省エネルギーも重要です。どれか一つではなく、いろいろなことを全部やらないといけません。

 

台頭する中国のエネルギー事情

宮崎 森本先生、先ほどお話に出た中国についてですが、いろいろな意味で存在感があり、これからは中国の動きなしに考えることができないくらいですね。すでに国際社会もG8からG20にスライドしています。また「BRICs(ブリックス)」といわれるブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国のGDPを足すと、G8と釣り合うくらいです。中国はそれほどすごい勢いで高エネルギー消費国になっていますが、このあたりの現状を教えていただけますか。

 

森本  このまま中国が経済発展していくと、間違いなく2020年頃に中国の石油需要はアメリカの石油需要を抜いてしまいます。中国の問題は産業の発展だけでなく、1,800万台の自動車のことを考えてもそうです。自動車の大半はガソリンで走っているので、日本の自動車産業もハイブリッド車や燃料電池自動車がいずれ中国で必要になるだろうと考えて輸出を伸ばそうとしています。

座談会の様子  しかし、中国が地球温暖化の排出規制になかなか乗ってこない。それをやると国内産業の育成を阻害することになり、COP16、17に中国がなかなか乗らないので、中国を環境問題にうまく組み入れ、結果として中国のエネルギー事情を変えていくという方法を日本は考えていかなければなりません。そこが第一の鍵です。

 第二に、中国は天然資源を求めて世界中に出ていくだろうと思います。いまは中東湾岸だけでなくアフリカにも出ていって、中国型のODA(政府開発援助)をねらっています。私が昔、アフリカの日本大使館にいたときに、中国が現地に入ってきて軽工業の工場をつくりました。しかも刑に服している人を労働力として使って工場をつくり、そのまま現地に放置するというやり方でした。最近ではその中国人が人質になっているケースが増えている。金になるからだと思います。

 中国はそのように、アフリカの資源国との協力関係を通じて資源を手に入れるだけでなく、海洋の領有権を主張して、軍事力でそれを守っています。つまり軍が海洋資源を守るという任務を持っています。おそらくアジアでものすごい資源競争が起きるでしょう。特に中国とそれを追いかけるインドが、中東湾岸の資源をほとんど食ってしまう状況になると思います。

 中国との関係を考えるときに、日本は国際社会でどういうことを進めるべきかが問われます。日本だけでやってもダメですが、環境汚染を制限するために中国に協力を求める大きな枠組みをどうつくっていくかが大事です。

中国の一次エネルギー消費の見通し (IEEJ)

 この図で中国の一次エネルギー消費を見ると、石炭に半分近く依存しています。これを燃やされるとまずいわけです。そこで石炭を液化し、CO2の排出を少なくするような技術開発が必要です。「脱硫」といって硫黄の部分を除いて石炭を使う技術を開発してくれないといけません。北京に行くとわかりますが、曇って向こう側が見えないくらいの環境です。

 そういうことを放置して国内産業を育成しないと、中国の共産党支配が安定しないという政治的背景があるので、中国の自助努力は非常に重要です。世界のCO2の3〜4割を排出している中国が、経済発展に邁進するためだけにエネルギーを外に求め、自分で使いまくっている。この状態を日本がどう受け止めるかということです。

 

宮崎 ただ、国際社会では内政干渉だと言われやすいですから難しいですね。

 

森本  もう一つ難しいことがあります。CO2を抑えるためには中国が原子力を使ってくれると環境に良いんですが、仮に100基以上の原発が中国の沿岸に並ぶとして、一つでも事故が起きたらどうなるか。中国はアメリカやイギリスの技術協力を受け入れないでしょうから、なかなか難しい問題です。中国の専門家にこのことを指摘しても「中国の原発は福島のような事故は絶対起きません」という一点張りです。かつてロシアもチェルノブイリ事故の前は、そう言っていましたが(笑)。

 だから、中国の原発というのは日本にとってプラス・マイナスの両面があり、日本海に面したところに原発がたくさんできるという状況を、我々はどう受け止めるかという問題もあります。

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