北海道エナジートーク21 講演録

 
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北海道エネルギー環境教育研究委員会

'12新春フォーラム『日本のエネルギーを考える』
【第二部】 座談会「日本のエネルギー問題をどう考えるか」

(4-3)

日本の原子力発電所は大丈夫か

宮崎 ちょうど原子力の話になったので、原子力発電所の安全が本当に守れるかどうかについて、十市先生にうかがいたいと思います。かつて日本も「チェルノブイリのようなことにはなりません」と言っていたわけですね。今後は本当に大丈夫なんでしょうか。

 

十市  確かに、日本の原子力発電は絶対安全ということで地域の皆さんの合意を得て進められてきました。私自身、今回の福島第一原発事故については、自然災害とそれに対する人間の対応、特に東電さんの対応に未熟な面があったと考えています。たとえば同じ地域でも、女川原子力発電所は安全に止まり、冷却もされ、放射線の漏れもありませんでした。福島第二も問題なく冷却機能が働きました。ですから、今回の事故で原子力すべてがダメだという結論になることは、私は相当飛躍があると思っています。

 今回のように大規模な津波に対して電源を冷却するための機能や、電源供給の多重化という点で、非常に不十分な点があったことは事実ですが、きちんとやっていたところは、震源に一番近い女川でも問題なく止まっているわけです。ですから今回の教訓を生かして、冷却機能が喪失されないような電源の多様化や、非常用電源の設置などが必要です。また、各電力会社さんは防波堤をつくっていますが、たとえば中部電力の浜岡原子力発電所では18mの防波壁の建設を進めていて、今年12月に完成するということです。

 各電力会社さんは、原子力を安全に運転しないと、自分たち企業がもう存続できないような事態になるということを身にしみて感じていますから、今回のような事故を二度と起こさないための安全対策を十分に取ることが重要だと考えています。

世界の原子力発電現状

 この図は世界の原子力発電の現状ですが、アメリカは世界最大の保有国で104基あり、今回の福島第一原発事故を受けて安全対策を強化しました。フランスは世界第2位です。また、ドイツは徐々に原子力への依存を減らしていくと決めましたが、これには長い道のりがあります。

 ドイツは1986年のチェルノブイリ事故をきっかけに原子力への依存を下げようと決めましたが、法律によって脱原子力を決めたのは2001年です。その15年間、彼らは何をしたかというと、原子力を減らしても電力を安定供給できるように、さまざまな対策やシナリオを考えて検討を重ねた結果、風力などの再生可能エネルギーを進めながら徐々に原子力を減らしていくことにしたわけです。

 ですから、今回の事故の教訓を踏まえ、日本でもどういう対応を取るかが重要です。まずは安全確保が最大の課題ですから、事故対策調査委員会による調査結果を受けて、どうすれば同じ過ちを犯さなくて済むか、万が一事故が起きた場合も、外に一切被害が及ばないような対策が講じられています。そうしたことも踏まえたうえで、日本としてこれからどの程度原子力に依存していくかという議論をきちんと行う必要があるだろうと思います。

 

日本のエネルギー選択の道筋

宮崎 では十市先生、いま投げかけた問いにご自身で答えるとしたらいかがでしょう。エネルギーの専門家としてどういう対策を取るべきか、電源比をどのようにしていくべきかについて、どのようにお考えですか。

 

十市  私自身は、太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーを開発していくことには大賛成です。ただし、それには時間もかかるのも現実です。そこで、ご覧いただきたい図があります。国はいま「エネルギー基本計画」の見直しを進めています。今年夏に出る最終報告でどういう数字が出るかはわかりませんが、私が考えるイメージを示したのがこの図です。

非化石電源の設備容量のイメージ図(2030年)

 太陽光発電については、現行のエネルギー基本計画では2030年に5,300万kWという目標です。日本で太陽光発電に適した一戸建て住宅は約1,700万戸といわれ、そのすべての屋根に3kWのパネルを置くと5,100万kWなので、概ねこういう数字になります。

 風力は1,000万kWです。大きな2,000kWの風車なら5,000基分です。いまは日本全体で200万kW以上の風車があり、その5倍なので相当な数です。

 地熱についても、現在の52万kWを3倍ににしようという計画です。

 問題は原子力ですが、原子力は事故が起きる前で約5,000万kW。日本では54基の発電所がありますが、定期検査が終わったものも再稼動できずにいます。動いているものはどんどん減り、いまは4基です。今年4月には泊発電所1基だけという状況で、このままではいずれ全部止まる危険があります。

 再稼動も大きな問題になっていますが、私は安全基準をきちんと決めて動かせばいいと思います。2030年では、既設の原子力発電所は40年以内のものにし、島根3号機や大間など建設中のものについては安全対策を徹底強化して稼動させるべきだと思います。これにはもちろん、国民的合意や地域の皆さんの合意がないといけません。残りについては、40年を超えた発電所で安全対策を取れば大丈夫なものと、リプレースをするものを5,6基程度考えれば、2030年には3,000万kWで、いまの6割くらいに減るイメージを持っています。

発電電力量の内訳のイメージ図 (2030年)

 そうした前提で考えると、2030年の構成比も変わってきます。省エネルギーに徹底的に取り組むことによって経済は1〜2%成長し、電力需要は10%ぐらい減らすというイメージです。相当な努力を必要としますが、電力需要は全体として減らすことができます。その中で原子力を23%程度にする。現行のエネルギー基本計画では53%ですが、これは大幅に減らさざるを得ないと考えています。

 問題は再生可能エネルギーですが、頑張っても12%です。発電量の10%以上を太陽光、風力でまかなうのは相当大変です。稼働率が非常に低いので、あと半分はやはり化石エネルギーに頼らざるを得ないでしょう。

 

宮崎 「ベストミックス」という言葉がありますが、さまざまな手段を組み合わせてバランスを取っていくということですね。いま国民的合意という言葉が出ましたが、これから日本をどうしていくかについての国民的合意はとても重要だと思います。森本先生、このあたりの進め方についてはいかがですか。

 

森本  私は、福島第一原発事故の影響が日本国民の原子力に対する概念を質的に変えたということについては、認めざるを得ないと思います。しかし、そもそもなぜ原子力を選んだかというと、日本はエネルギー自給率が4%しかないので、戦後の経済発展をするために、やむを得ざる選択を60年代に行って原子力という道を歩み始めたわけです。

 さらに、中東湾岸への依存体質に加えて環境問題、この2つの問題を解決するためにもっと原子力に依存せざるを得ないということで、2010年6月に「エネルギー基本計画」ができたわけです。先ほどの図をもう一度見せていただけますか。

非化石電源の設備容量のイメージ図(2030年)

 私は国の基本として原子力を持つということは、単にエネルギーの問題だけではないと思います。いままで積み上げてきた日本の原子力技術を我々は失うべきではないし、国家遺産と言っていいくらいのレベルですから、さらに技術を上げて人材を育成するべきです。日本が原子力について高い能力を持っているということが、周りの国から見て非常に大事な抑止的機能を果たしていることを考えると、私は決して捨てるべきではないと思います。

 国家の発展を考えた場合に、将来のベストミックスに関する考えは私も十市さんとよく似ていますが、少しだけ違うところもあります。

 あえて2つだけ言うならば、まず原子力については、40〜45年ぐらい経った発電所を、アメリカが進めているような第三世代の小型の原発に取り換えていき、25%ぐらいの原子力を維持し続けるということが、国の将来にとって非常に重要だと思います。

 また、再生可能エネルギーについてですが、技術革新をやって蓄電技術が向上したとして、一般家庭で太陽光エネルギーを使うことはできても、それを大企業のエネルギー源にすることは難しい。水力を増やすこともこれ以上は無理だろうと思うので、再生可能エネルギーと水力と合わせてもせいぜい15%ぐらいだろうと私は思います。すると、化石エネルギーを約50%にして、約10%の省エネを進め、同時に約10%をシェールガスのような非電力エネルギーで進め、結果として電力消費量を10%ぐらい減らす努力をしなければいけないと思います。それには、社会の構造や我々の生活のしかたを変えなくてはいけません。私は江戸時代の生活様式にこだわるわけではありませんが、「暗くなったら寝て、朝早く起きよう」と言っています。つまり、我々のライフサイクルを変えて、夜に煌々と電気を点して一人でテレビを見てという生活を少し改善すると、相当に電力を減らすことができます。

 福島第一原発事故後の対応を見ると、国、地方、企業それぞれの責任や権限が非常に曖昧だと思います。本来原発を動かすかどうかは電力会社の仕事ですが、知事がNOと言ったらダメと、法律に書かれていないようなことがまかり通っています。やはり国が原子力の安全管理にきちんと責任を持ち、県知事の責任はここまで、企業の責任はここまでと、明確に説明責任を果たすようににしないと、本当の意味での国民の理解は得られないのではないかと思っています。

 

宮崎 どの分野にも言えることですね。いまずっとお話をうかがって思ったことは、宮崎 緑 氏 これまではエネルギー問題というと経済原理で語られることが多かった気がします。 しかし、もう一歩展開してライフスタイルや文化という面からも、これから私たちはどう生きていくかという考え方が必要かもしれないと思いました。

 

水面下で深刻化する日本経済

宮崎 ベストミックスについて、十市先生からほかにお話はありますか。

 

十市  昨夏の猛暑を節電で乗り切ったように、原子力がなくても停電は起きないじゃないかという議論がありますが、まだ震災から1年も経っておらず、いまも非常事態は続いています。この夏、冬も停電は避けられるかもしれない。なぜかというと、お金に糸目をつけずに火力発電所を全部持ち出して、LNGや石油をどんどん焚いてしのいでいるからです。

 たとえば政府の試算ですが、原子力発電所が止まったことによって余分に石油火力、LNG火力を焚いた分のお金は、2011年度に2兆4,000億円です。さらに2012年度、もしもこのままの状態で全部止まると、3兆1,000億円も余分にお金がかかります。いまは東電が電気料金の一部値上げを申請していて、こういう状況下では国民は当然認めないですから、電力会社はいままで積み立てた資金を全部吐き出しています。 何兆円というお金が毎年出るわけですから、いずれ限界は来るでしょう。ですから、電気料金なり何らかの形で転嫁しないと、停電が起きる可能性はあります。

 そういう議論をしないで「停電起きないからいいじゃないか」と言うのは非常に一面的です。これから電気料金がものすごく上がるということを含めたうえで、それでも原子力をやめるのか、あるいは安全なものについては再稼動を認めるのかという国民の判断が大事です。そのためにも、政治家がきちんと責任を持って決めるプロセスを経ないと、日本の産業はどんどん海外に出ていき、雇用問題も深刻化するのではないかいうことを大変懸念しています。

 

森本 この問題についてはまったく同感です。あえて言うならば、この1年間、電力会社はなんとか電気を安定的に供給しようと、電気事業法に基づく電気の供給を本当に重く受け止めて原発を化石燃料で補ってきたわけです。その努力がなかなか伝わらないから「原発がどんどん減っているのに電気はいつも点いてるじゃん」という単純な考えが広がるわけです。

森本 敏 氏  家庭の電気を毎晩2時間ぐらい止めたら皆わかると思うんです。ところが、一生懸命努力している結果、毎日電気が煌々と点くという状態がずっと続いているので、痛みとして感じない。普通の国だったら平気で電気を止めると思いますが、それをせずに電気料金を上げるのも嫌だという滅茶苦茶なことを我々は言って生活しているわけです。

 十市さんがおっしゃったように、いずれこの構図は破綻すると思います。破綻した結果どういうことが起こるかというと、地方の産業が空洞化して企業がどんどん外国に逃げていき、日本の電気事業に対する海外の投資がどんどん減って投資環境が悪くなり、電力会社の信頼性がどんどん落ちていく。これは社会にとって非常に重大な問題です。

 どこの国もそうですが、特に日本では、電力・ガス会社が地域の産業の基幹です。経済同友会や経団連など経済団体のトップは電力会社、ガス会社の重役さんで占められている。このシステムをそんなに簡単に変えられると、学生の就職先がないという状態が続くわけで非常に深刻です。若い人がこの国の将来に期待が持てないような社会を、我々は決してつくってはいけない。やはり我々が生きている時代に、この痛みを自分たちで共有しながら次の時代をつくっていくというベストミックスを考えなければならないと思います。

 

宮崎  ありがとうございます。会場からは賛同の拍手もいただきました。さて、ここで会場の方々からご質問をいただきたいと思います。

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