北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '09「原子力の日」記念フォーラム
(5-5)
    低炭素社会とエネルギー問題 〜CO削減目標と核燃料サイクル〜

    【第一部】     低炭素社会へ向けたCO削減目標の実効性



25%削減で生活はどう変わるか

宮 崎   秋元さんにうかがいたいのですが、私たちが経験した1973年のオイルショックは、石油が初めて政治的兵器として使われた出来事でしたね。コーディネーター宮崎緑氏中東・ペルシャ湾岸の石油輸出国機構(OPEC)によって戦略として行われ、実際に石油がなくなったわけではなかったけれども、当時の社会はパニックに陥った。生活物資がなくなり、土日はガソリンスタンドを閉じ、夜中の放送はいけないなど、非常に制限がありました。それでも25%削減までは行っていませんね。当時は、あれだけ生活の変化があったにも関わらず、石油換算で減ったのは数%といわれています。どうすれば25%を削減できるかについて、生活実感として知りたいと思うんですが、ご説明いただけますか。

 

秋 元   25%削減というのは2020年までの目標ですが、今後10年間に本当にそれだけのことができるのかを時間軸で考えなければならないと思います。

パネリスト秋元勇巳氏 オイルショックのときは、日本だけでなくフランスなどいろいろな国が大変苦労しました。特にフランスは戦略を立て、これから作る発電所をすべて原子力発電所にするという方針を決めた。そのため、その後の第2次オイルショックが起こったときに、フランスは他国に比べてかなりショックを軽減できた。日本もそうです。第1次のときはトイレットペーパー買いの行列が出来たけれども、第2次のときは日本はそれほど影響を受けずに済み、他国ほど大騒ぎをしませんでした。日本が石油代替エネルギーへの転換を積極的に進めたからです。

 ただ日本は石油を切り替えたのに原子力だけでなく、石炭も使った。石炭はCOが出るので地球温暖化を止めるには、もうひと工夫しなけれがならくなりましたが、少なくとも石油依存から脱出するという成果をこの時期にあげましたね。そういう具体的な戦略で「数年先にはこうなる」という姿をある程度示せるよう、進めていくことが重要だと思います。

 

宮 崎   生活の質は下げずにCOを減らす道もあるという意味ですか。

 

秋 元   いや、2020年に25%を減らすというのは、私から見ると幻想でしかない。本当に達成しようとすれば、大変な額の排出権を海外から買ってくるしかないんです。国内だけでなく、海外の削減に身を削ってでも貢献するというのであれば、それも政策なのかなとは思いますが、今年の夏、麻生前首相が宣言した15%削減という目標がありましたね。これも大変厳しい数字ですが、少なくとも削減目標を立ていろいろな施策を積み上げていくと、何とか14%までは行くそうです。経済界は無理だと言いましたが、シナリオの描き方によっては不可能とまでは言えないだろうと。それに政治的加算として1%を乗せたのが15%という数字だったわけです。ここまでは我々もイメージ出来るんですが、そこから先の10%については、鳩山内閣ではエネルギーに試算をやり直してみるそうですが、計算し直したら10%分が出てくるかというと、そんな打ち出の小づちはあり得ないと私は思います。技術は一朝一夕では出来上がらない。

 

宮 崎   橋本さんはいかがですか。

 

橋 本   25%削減というのは数字ありきなんですよね。「大きな目標を立てれば技術革新もできるだろう」と何とも楽観的です。では、どういう技術革新があるかというと「それはこれからだ」と言う。目標を高く掲げれば、いろいろ努力をすることによって道は自ずと開けてくると言うが、そうなのかどうかはわかりません。

 

宮 崎   経済競争力はどうなんでしょう。ちなみに経済界からはこんな話が出ています。「100mを20秒で走っていた人が、練習して10秒で走れるようになるのは可能かもしれない。でも、10秒で走っていたのに1秒で走れというのは無理だ」と。橋本さん、これは国際競争力を考えるとどうなんでしょうね。

 

橋 本   25%の削減目標についてはヨーロッパ諸国や国連からはずいぶん称賛された。しかし、そのことによるプラス面、マイナス面がどうなのかについてきっちり示さないといけませんね。まず経済が大きくダウンするのは間違いないでしょう。そして国民一人ひとりに対して、先ほど紹介された1家庭あたり年間36万円の負担が生じるなど、厳しいこともきちんと示す。ただ、お金のことを言われてもピンとこない場合もあるので「あなたの生活はこう変わるんだ」と言うほうがわかりやすいと思います。

 そうなると「徹底的に電気を消そう」「テレビを長く見ないようにしよう」という話にもなるんです。そこまで具体的な話に置き換えないと、自分とは関係のない話のように思いがちですから。25%削減のためのいくつかの道筋を、専門家が「具体的にこうしなきゃいけない」という風に、一般の人たちにわかりやすく説明してもらいたいと思います。

 

宮 崎   ちなみに、私たちはどれだけのことをすればいいんですか、秋元さん。

 

秋 元   フローとストックという考え方があります。いま車を持っている人も何年か先には買い替えますね。家もいずれは老朽化するので、建て替えをしたり新しい家を買ったりします。そのときにいちばん新しい技術のものを導入するのであれば、それほど無理なくやっていけそうです。例えば「新しく家を建てる場合は必ず省エネ仕様にしてください」「車もハイブリッドカーか電池自動車にしてください」など。そのようにやるのが、フローの場合のいちばん厳しい規制のしかただと思います。こういう方法でギリギリできる数字が、麻生前首相の示した15%削減の道筋だろうといわれています。

 それに対して25%という数字は、「いま持っている車を2年以内に全部買い替えなさい」「家の屋根にもすべて太陽電池を付けなさい」というやり方です。これは法規制を敷いてかなり強引に進めていかないとできない数字だと思います。しかし、それでも私が25%削減を難しいと思うのは、今から原子炉を一つ建て増やそうとしても、10年という短い期間ではできないからです。少なくとも10数年はかかるものなんです。

 ここにいくつかのシナリオがあります。政治家は誰もはっきりと言いませんが、すべてのシナリオが、いま建設を計画している原子炉が全部建つことを前提にしています。

「平成21年度電力供給計画の概要」における原子力開発計画

 具体的には、2018年までに新しい原子炉が国内で9基建つことになっています。そのうち3基は現在建設中のもので、今年12月に運転開始予定の泊発電所も含まれています。残り6基の建設はこれからです。それらが全部建って、現在70%に下がっている原子炉の稼動率を80%まで戻し、エネルギー全体の3分の1くらいを原子力でまかなうことが前提です。さらに一人ひとりの省エネ行動なども全部やって、それで初めて15%削減できるかどうかというところです。

 25%削減のために残りの10%を上乗せするとすれば、いま計画中の原子炉9基を12基、あるいは15基に増やそうとしても無理があります。そう簡単に2020年の目標数値を上げても現実には不可能です。2020年はかなり先だと思うかもしれませんが、あと10年しかありません。もしも2030年や2050年をゴールと考え、いまから頑張って社会のインフラを変えていこうと一所懸命にやれば可能かもしれない。しかし、25%という数字の厳しさに加え、それを2020年に達成するという考え方が非常に現実離れしていると思います。

 

宮 崎   いまのエネルギー構成を家庭用・産業用・運輸用で見たときに、産業界はこれまでギリギリのところまで省エネをしていて、CO排出量は増えておらず、ほとんど横ばいですね。増えているのは輸送用と家庭用が非常に大きく、この20年くらいで排出量が約2.5倍になっていることを考えると、生活を見直すことで少しはできるかもしれないけれども、ウルトラCのようなわけにはいかない。

 また、原子力の場合は、先ほど橋本さんがおっしゃったように避けて通れない問題がありますね。社民党は原子力反対で、全部凍結すると言っています。原子力以外で夢のような方法はあるのでしょうか。

 

橋 本   いや、それは難しいでしょう。やはり世界の動向を見る必要があります。原子力の問題でいちばん大きいのは安全性ですね。また、感情的に「危険だ」というイメージが依然として払拭しきれていない。再開しようとすれば、本質的でないところで事故が起きたり、不祥事が起きたりする。その繰り返しです。そうすると信頼感がなくなりますね。やはり専門家と一般の人たちとの意識のギャップを埋める作業が非常に重要だと思います。

 

宮 崎   ありがとうございます。では、ここで前半を終わり、後半の第2部では一つひとつの問題についてもう少し詰めていきたいと思います。

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