北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
 '09「原子力の日」記念フォーラム
(5-1)
    低炭素社会とエネルギー問題 〜CO削減目標と核燃料サイクル〜

    【第一部】     低炭素社会へ向けたCO削減目標の実効性


低炭素社会へ向けたCO2削減目標の実効性
 

コーディネーター  
  千葉商科大学 大学院政策情報学研究科 教授 宮崎 緑 (みやざき みどり) 氏
     
パネリスト  
  (財)日本原子力文化振興財団 理事長
三菱マテリアル(株)名誉顧問
秋元 勇巳 (あきもと ゆうみ) 氏
  読売新聞特別編集委員 橋本 五郎 (はしもと ごろう) 氏
     


CO削減目標達成のための課題

コーディネーター宮崎緑氏宮 崎   皆さん、こんにちは。「Point of NoReturn」という言葉があります。あるところから先に行ったらもう引き返せないというギリギリの地点のことです。「私たちは地球の限界に直面した初めての世代である」という言い方もされますが、待ったなしの地球温暖化にどう対応していくかが私たちに問われていると思います。

 最近はわが国で劇的な政権交代があり、民主党政権になって「COを25%削減する」という目標が打ち出されました。世界では思い切った策だと評価されていますが、国内で見ると、高速道路を無料化にしてどんどん車を走らせ、一方ではエコカー減税など矛盾していることもあります。これで25%削減は本当に大丈夫だろうかという気もします。

 では、どうすれば25%削減ができて、そのためにどんな犠牲を払えばいいのか。今日はその分野の専門家であるお二人に、率直にお話をうかがいたいと思います。

 問題点を整理するために、資料を作りましたのでご覧ください。地球温暖化は、温室効果ガスが地球の周りを覆うことで地球の平均気温が上がっていく現象です。

温室効果とは

 温室効果ガスの種類はCOだけでなく、フロンやメタンなどがあります。特にCOは経済競争力と直結しているので、政治的色彩も帯びて大変注目されているわけです。

温暖化への寄与度、CO2増加による気温上昇の実績と予測

 COの増加による気温の上昇は、過去100年間の実績で見た場合、世界平均で0.7℃、日本で約1℃です。

地球温暖化の影響予測

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の試算によると、このまま放っておけば2100年までに1.4〜5.8℃気温が上がるだろう、海水面が約80cm上昇するだろう、生態系が乱れるだろうなどの予測が示されています。

各国のCO2排出量増加率(1990→2002年)の比較

 COを抑制するために京都議定書が作られ、日本も努力を重ねてきましたが、1990〜2002年の実績値で比較した場合、日本はその段階で11%増えています。他の国もやはり増えています。

 ただし、ドイツが減っているのには理由があります。東西ドイツの統一前、東側は公害のたれ流し状態でした。ベルリンの壁が崩壊したとき、私は取材で現地に行っていましたが、国境を一歩東側に越えたとたん、排気ガスなどで頭がクラクラするほど大変な公害の渦でした。そういう状態から環境を改善するのは比較的簡単ですから、ドイツは数値を減らすことができたわけです。

 では途上国はどうかというと、いままでエネルギーを使っていなかった国が今後どんどん使うようになる。中国は石油埋蔵量がありますが、生産量よりも消費量が増え、いまは輸入量で中国が日本を抜いています。

中国における石油輸入依存度の見通し

 途上国における一人あたりの1次エネルギー消費量は、先進工業諸国と比べると、まだずいぶん開きがあります。中国と日本を比べると6倍くらい。アメリカやカナダなどは浪費体質ですから、同じライフスタイルを求めようとすると消費量が高くなります。

主な国の国民1人あたりの一次エネルギー消費量

 ただし今後、途上国も同じようにエネルギーを使ったらどうなるか。大変なことになります。しかも途上国は人口が非常に多い。世界人口は今世紀中ごろには90億人前後になると見込まれています。今後のエネルギー消費量を考えるとき、環境活動家レスター・ブラウンは「地球が6個ないともたない」と言っていろいろな試算を出しています。そうした中で、25%削減という日本の提案が世界で脚光を浴びたわけです。

世界人口の推移と見通し

 ところが25%というのは大変な削減量です。京都議定書で日本は2008〜2012年の間に「6%削減する」としていましたが、2013年以降の枠組みをどうするかについては、今年12月にデンマークの首都コペンハーゲンで行われる気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)で話し合われる予定です。

 国内での排出抑制はもちろんですが、それだけではとても25%削減に追いつきません。では国外との排出権取引はどうか。これは途上国などに日本の省エネ技術を輸出することによって浮いた分の排出量を換算してもらう取引ですが、こうした国内外のバランスをどう考えればいいのでしょうか。

 これにはいくつかのケースが考えられ、内閣では10%、15%、20%、あるいは25%をまるごと国内で削減した場合のシミュレーションを作ろうとしています。国際エネルギー機関(IEA)は、気候変動による平均気温上昇を世界レベルで2℃に抑えるために各国の削減量を試算し、「日本は10%程度でいいのではないか」という割り当て数値を示しました。ただし、それを実現するには、世界全体で毎年約5000億ドルがかかるだろうと試算しています。そのため12月のCOP15では、スタートラインとして約100億ドルの途上国援助を考えているようです。

 わが国ではどうかというと、これを実現するために1家庭あたりの負担が年間約36万円になるだろうといわれています。日本全体で25%を削減する場合は、毎年約2兆7000億円がかかるだろうといわれています。こうして削減していくと、石油消費などが1兆5000億円くらい減るだろうから、その差額分は少し浮くかもしれないという試算もされています。これらはあくまで試算なので、方程式が少し変わるだけで結果は大きく変わっていきます。

 こうした現状を正しく認識したうえで、いかに適切な戦略を立てていくかがいま問われています。エネルギー問題をどう見るかという切り口について、秋元さんにご説明いただこうと思います。

 

秋 元   産業革命以降、人間はさまざまな機械を発明し、動物としての人間の力では到底及ばないことまでできるようになりました。20世紀には、新しいエネルギー資源として石油や天然ガスが登場し、機械文明も非常に進化した。それに伴って一人ひとりのエネルギー消費量も急増したわけです。

文明社会はエネルギーで進化する

 中世期までの世界は農業中心の社会でしたが、当時から現在までの間にエネルギーの使われ方は数十倍、人口も10数倍増えています。このことにより、人間のエネルギー消費が地球に与える負荷は1000倍くらいに跳ね上がりました。

化石燃料等からのCO2排出量と大気中のCO2濃度変化

 それがなぜ可能だったかというと、地球には、生命体が何億年もかけて貯め込んだ“埋蔵金”があります。それが石炭、石油などの化石燃料です。化石燃料はもともと地球に住む生命体全員の貯金であって、人間が勝手に使っていいものではありません。それをどんどん使い出したのがここ100年あまりのことで、エネルギー消費量が急増するにつれ、地球全体がバランスを崩すようになりました。

 では、私たちは何をしたらいいか。人間がこのような暮らし方を続けていく限り、少なくとも他の生命体から収奪している分は元の自然にお返ししなければならない。自然のおっぱいに頼って大きくなってきたライフスタイルから乳離れをして、自前のエネルギーで自立できるようにしなければならないと思います。

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