橋 本
秋元さんからは何十億年の話がありました。私はたった1年の話をしたいと思います。
北海道洞爺湖サミットはいつだったのだろう、そんな感じがします。あのときはサミットを目前に、福田康夫首相が「世界は低炭素社会に向け大きく変わらなくてはいけない」と、歴史的な演説をしました。先ほど秋元さんのお話にあったように、産業革命によって人類は大きく変わったが、いま我々は、環境という視点から社会を大きく変えなければならない。まさにそれは革命的なことです。私は40年くらい新聞記者をしていますが、これまで見てきた中で、総理大臣としては最も格調の高い演説の一つだったと思います。
ところが、その後に金融危機がやってくると、皆すっかりそのことを忘れてしまったかのようです。サミット開催前までは皆言っていたはずです。「歯磨きのときに水を出しっ放しにしちゃダメ」「コップに水を取って無駄遣いしないようにしよう」「家庭のすみずみまで省エネに取り組もう」と。それがいまはどこかへ行ってしまった。それでいいのだろうかということを、私たち自身の問題として考えなければならないと思います。
そうした中で新しい政権ができ、25%というCO2削減目標を、日本の総理大臣が世界に対して公約した。その意味とは何でしょう。いままでのさらに3倍も努力しないとできないことを宣言したのです。しかし、それをどうやって実現するかという道筋を示すことなく内外に表明した。これについてはいろいろな評価があるでしょう。オバマ大統領がノーベル賞を受賞したときに「実績がないのになんだ」という批判が出ました。しかし、先に高く評価されてしまえば、それがきっかけで実現できるかもしれない。
25%の削減目標は、衆議院選挙を圧倒的多数で勝った政権が表明したことで、日本国民が選んだ政権の方針です。国民もいろいろな形で実現できるように、私たちが何をしたらいいかということを考えなければならない。もちろん、私たちが考える前に、まず言ったほうの政府がちゃんとやらなきゃダメですね。ただ、あれだけ忘れ去られていた環境意識をもう一度呼び戻す効果はあったと思います。
25%削減を考えるとき、2つの問題があります。一つは国内で実現できるかどうか。もう一つは国際的な問題です。「日本がやってくれるならそれで結構。我々はそれに縛られることはない」という国もあるでしょうから。特にアメリカ、中国をはじめ多く温室効果ガスを出している国々がどこまでやるか。自分だけ走って後ろに誰も付いて来ない、そういう政治では困ります。
それには、国内でどう実現できるかを政府が早く示さなければならない。国際的に日本が評価されたからといって、それで喜んでいる場合ではない。どうやって他の国を同じ方向に向けるのか。いままでそのための努力をしたとは思えないので、これから必要になってくるでしょう。
もう一つ、生々しい話ですが、連立政権の問題もあります。民主党は国民新党、社民党とともに3つの政党で政権を作っている。しかし、エネルギー問題では意見をまったく異にしています。社民党のマニフェストには「脱原発を目指し、核燃料サイクル計画を凍結し、使用済燃料の再処理、プルサーマル計画を中止します。原子力発電からは段階的に撤退します。特に耐震性に問題のある原子炉は速やかに廃炉にします」とある。
連立政権といっても、衆議院では民主党308議席に対して社民党7議席、国民新党3議席という割合ですが、連立政権を組んでいる以上、エネルギー問題は、「子ども手当を明日もらえるか、明後日もらえるか」という話とは違う。もっと長い年月で考えなければなりません。国をどうするか、私たちの子どもたちの時代、さらに次の世代をどうするかということで非常に大きな問題です。沖縄の普天間基地も大きな問題です。アメリカと新政権との関係、地元と新政権との関係、そして連立政権内の関係。解きほぐさなければならないことがたくさんあります。原子力の問題についても、連立政権内でどうするのかを曖昧にしたまま政権を作っているわけです。
新政権がいろいろな花火を打ち上げることによって、それなりに新鮮さはあります。いままで50年以上にわたって一つの政権が続いてきた。いわば富士山を駿河湾からしか見ていなかったけれども、今度は山梨はじめさまざまな方向から見るということです。いろいろな姿が見えるようになったことで政権交代の意味は非常にあると思う。ただし、調整しなければならないことがたくさんあり、議論を急がなければならないと思います。
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