北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
パネルディスカッション
 地球温暖化とエネルギー問題 〜なぜ今、核燃料サイクルなのか〜

 
(4-3)
    【第一部】 「北海道洞爺湖サミットの結果をふまえた
地球温暖化と日本のエネルギー事情」

原子力ルネッサンスと日本の原子力技術

宮 崎    奈良林さん、科学技術はどれくらい貢献できるかという点ではいかがですか。


奈良林    里中さんが指摘されたように、北海道の米が日本でいちばんおいしくなっていますね。これは北海道の方たちが自慢していいと思います。また、国内炭が海外炭に比べ割安になってきて、石炭も少し元気が出てきたのが現状です。また、私は大学で原子力工学を教えていますが、最初は30人くらいだった学生が今は100人になりました。なぜ原子力にそれほど人気が出てきたかというと、今は世界中で原子力発電所を必要としていて「原子力ルネッサンス」が始まっているからです。

 先ほどの話のように今は中東でも原子力発電所を作ろうとしていて、化石燃料がこれから枯渇していく中で最も必要とされているのは、原子力発電所を建設・設計する技術、それを運転・点検する技術です。こうした分野のエンジニアが世界中で求められています。

原子力ルネッサンス

 今年5月にアメリカのオーランドで国際会議があり、世界中から800人の技術者が集まりました。そこでは地球温暖化をどう防ぐか、原子力発電所をどのように安全に運転するかについてディスカッションをしました。それくらい、原子力が地球温暖化の切り札として世界に認識されています。

 ただ残念ながら、国内ではマスコミの方たちがこういう状況を正しく伝えていないような気がします。北海道大学だけでなく、日本の国立大学では原子力を専攻する学生が増えています。これは北海道の米がおいしくなったことと同じくらい、非常に嬉しいことだと思います。

 また、原子力ルネッサンスについてですが、世界の原子力発電所は米仏と日本のメーカーが作っています。三菱、日立、それと私がいた東芝の3大メーカーがそれぞれアレバ、GE、ウエスチングハウスとグループを作りました。日本は原子力発電所を作り続けていたので、プラントを作る技術を世界中が必要としている。アメリカで作られる原子力発電所も3大メーカーとアレバによるものです。


宮 崎    原子力に関するこうした情報を、日本のマスコミはきちんと報道していないのではないかというご意見です。
 この点について中村さん、いかがですか。


中 村    日本のメディアが公平に情報を伝えていないということには同感です。NHKで過去50年間に放送したニュースと特集番組のデータがコンピュータに入っていて、それを放送文化研究所が分析しました。これを見ると、最初の10年間くらいは「日本でも原子力を推進するのはすばらしい」という明るい取り上げ方でしたが、それ以降の40年間はトラブルや事故の報道ばかりです。おそらくNHKばかり観ていた人は「原子力は非常に危ない」「やらないほうがいい」という印象を受けると思います。こうした論調は、他の放送局や新聞でもだいたい同じだと思います。

 今、世界で動いている原子力発電所の数は435基。建設中と計画中はあわせて96基。それほどすごい数が計画されているわけですが、どこもそんなことを報道しない。危ない、危ないという報道ばかりでしょう。

 新潟県中越沖地震のときも、柏崎刈羽原子力発電所の原子炉はびくともしていない。トランス(3号機変圧器)が焼けて黒い煙が出ましたが、原子炉からは離れていますから、トランスが焼けたからといって原子炉が危なくなるわけでもないのに、本体が大丈夫だということを報道しませんでしたね。また、この地震で新潟県では15人の方が亡くなり、2300人の方が負傷しました。それすら東京のNHK、東京の新聞は報道しなかった。だから新潟の放送局は「東京のメディアはたるんでいる。いちばん大事なことを報道しない」と怒っていました。原子力と聞けば何かと突つき回して「これが正義だ」という顔をするのはおかしいと思います。もちろん、危ないなら危ないと報道していい。理由を正確に挙げて説明すればいい。でも多くの場合、あまり理由はありませんね。

 それから、原子力が今世界で非常にブームになっていることもほとんど報道されません。それでは一般の人は原子力を支持しないのじゃないですか。では原子力はなくていいかというと、何といってもエネルギー自給率が4%だし、石油もだんだんなくなっていきます。今の食料問題よりもっとひどいことになったときに、日本はエネルギーがなくなったらどうしますか。そういうことを一人ひとりが考えたうえでエネルギーを選択する必要がありますね。

 バイオだってブームといいますが、バイオは発酵させてアルコールを作るまでにエネルギーが必要です。アルコールを燃やしたカロリーと作るために要したカロリーとどちらが大きいかというと、トントンかマイナスくらいです。だからやらないほうがいいという学者はたくさんいます。そういうことも理解したうえで、バイオをやるべきかどうか、どれだけ頼れるかを考える必要がありますね。


宮 崎    もう少し長く読売新聞にいていただきたかったですね、中村さん(笑)。


中 村    読売新聞は原子力をずっと推進してきましたし、非常に公平な報道をしてきたと思いますよ。私がおりましたから(笑)。


奈良林    2007年7月16日に新潟県中越沖地震が起きてから、私も報道をずっと気にしていました。新聞の見出しと中身を全部チェックしました。その中ですばらしかったのは、フランスのル・モンド紙が7月18日に「日本の原子力発電所は安全に停止している」と真っ先に報道したことです。日本の新聞じゃないんですね。次に、読売新聞さんが社説で「あまり危険だという印象を与える報道はやめましょう。柏崎刈羽原子力発電所は安全に停止している。この事実と今後行われる点検対策とは峻別して考えましょう」と報道していました。こういう報道は公平だと思います。


秋 元    公平さはもちろんですが、世界的な視野が大事ですね。奈良林さんのお話と似たようなことが2年くらい前にありました。

 ジェームズ・ラブロックという環境学者が「これからのエネルギーを考えると唯一の解は原子力しかない。これまで環境学者には原子力嫌いが多かったが、今後は考え方を改め、正当に原子力を評価すべきだ」という意見を発表しました。それをル・モンド紙は1面のトップ記事にしました。アメリカやイギリスなど各国も大きく取り上げたのですが、日本では一部の新聞が小さく扱っただけ。そのように、日本のメディアは海外の動きにあまり重きを置かず、重箱の隅を突つくような問題にとらわれすぎているように見えます。もう少し世界的な視野に立った報道が必要なのではないかと思います。


宮 崎    ラブロックさんは「ガイア理論」、すなわち「地球は全体が生態系で、ひとつの生き物なんだ」という理論を出している方ですね。「Think globally, Act locally(地球規模で考え、足元から行動しよう)」という視野が必要かもしれません。
 では里中さん、お願いします。


里 中    質問したいことがあります。アメリカが原子力発電をストップして急に再開した理由には、経済的な側面もあるのだと思いますが、石油の枯渇などを見越して環境問題も関係しているのでしょうか。


奈良林    アメリカで原子力発電所の建設が止まったのはスリーマイルアイランドの事故からです。その後アメリカでは1カ所も建設していませんが、原子力発電所の性能を上げるためにいろいろな努力をしています。例えば、一つの発電所の出力を1.2倍にすれば、5基分で新しい発電所を1基分作るくらいの出力になります。また、日本の原子力発電所の設備利用率と比較すると、柏崎刈羽原子力発電所の7基が停止しているため70%を切っていますが、アメリカは95%くらいです。原子力発電所を休まずに動かし、燃料を入れ替え、点検して、また動かす。「状態監視」といい、人間でいえば聴診器で脈拍を測るようなことを運転中に行っています。

 日本だと2カ月間原子炉を止めて分解して点検しますが、今アメリカやヨーロッパでは原子力発電所をなるべく止めずに、動かしながら点検しています。故障があれば、動かしながらそこだけ直す。日本はそういう部分で遅れてしまっていると思います。日本は世界一の原子力発電所を作る技術を持っていますが、点検や検査などの技術については逆にアメリカやヨーロッパに学ばないといけません。


秋 元    例えば「計画外停止」といって、原子炉は何か予期しないことが起きたら止めなければいけませんね。そういう不都合な事態が起こる頻度は、日本の原子炉がいちばん少ない。原子炉を安全に運転する技術については日本もしっかりやっていると思います。ただ違うのは、それを評価する社会の目なんです。

 アメリカは合理的な国ですから、安全だとわかると「では動かそう」となりますが、日本の場合は「安全だ」と認定されても「いやそれでも不安だから、安全、安心となるまで動かすな」ということになる。一度原子炉を止めると、アメリカの4、5倍の時間をかけないと運転させてもらえない状況に置かれている。これは、日本の技術というより、日本の原子力を進めていく仕組みが硬直化しているということだと思います。

 一方、この25年間、アメリカは核燃料サイクルの面で完全に立ち遅れました。スリーマイルアイランド事故の2年前、カーター政権が誕生して「リサイクルは一切ダメだ。再処理はやめろ。プルトニウムを使うな」と核燃料サイクルの開発を禁止し、そこで多くの原子力研究者が雲散霧消してしまった。今となってネバダ州ユッカマウンテンで最終処分をしようと決めたのはいいのですが、燃料のまま埋めたのでは処分場がすぐ一杯になってしまう。しかし「やっぱり再処理路線をもう一度」やろうにも核燃料サイクルをやる人材が途絶えてしまっているわけです。 日本の場合、核燃料サイクル路線については灯りを消さずにやってきた。ただ海外では今すごい勢いで原子力が復活しつつありますが、日本は反応が非常に遅い。先日アメリカに行ってきましたが、アメリカの大学では原子力工学科の人気は高いですね。奈良林さんがおっしゃったように、日本の若者の考えも少し変わってきたかもしれませんが、「うちの息子だけは原子力などに行かせたくない」という親御さんもいて、原子力に冷ややかなムードはあまり変わっていない感じがします。


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