北海道エナジートーク21 講演録
 
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エネフィーメール21
 
北海道エネルギー環境教育研究委員会
パネルディスカッション
 地球温暖化とエネルギー問題 〜なぜ今、核燃料サイクルなのか〜

 
(4-2)
    【第一部】 「北海道洞爺湖サミットの結果をふまえた
地球温暖化と日本のエネルギー事情」

宮 崎    その点をぜひうかがってみたいと思います。
 奈良林さん、技術的にはいかがですか。


奈良林    はい、資料をご覧いただきたいと思います。私は北大の大学院工学研究科で、技術者の卵である学生たちに教えています。

家庭用電力の伸び
(出典:電力需給の概要(2005))

 【資料解説】これは家庭用の電力の伸びです。1972年から2003年度までの統計ですが、このようにずっと右肩上がりの状況が続いています。これをどうやって減らすかが大きな問題です。講義では、二酸化炭素をできるだけ出さない技術、省エネにつながる技術などについて学生に教えていますが、現状ではなかなか切り札がなく難しいですね。

北大に水素で走る自動車が来ました

 【資料解説】これはキャンパスを走っている燃料電池バスです。これには水素を使っていて、水素をどのように作るかについてもディスカッションしました。学生たちには燃料電池のしくみや電気自動車、バッテリー、原子力や風力、水力などの技術を講義で教えています。

 こうした学生たちが今後世の中で活躍して、新しい技術が生み出されていく。大学にいる者としては、まず学生を一人前にするために鍛え上げていくことが大切だと考えています。


中 村    今後は車もガソリンではなく、このように水素や電気で走る車に変わっていくと思います。ただ、今の水素は石炭を分解して作っているので、意味がないですね。バッテリーも原子力などで作らないといけませんね。


宮 崎    水素を作るために二酸化炭素が出てしまうわけですね。
 秋元さん、2050年までに半減できるかどうかについてはいかがですか。


秋 元    勇ましい数字ばかり飛び交うのも困った風潮ですが、半減はともかく、努力してかなりの成果を上げることは可能だと思います。

 というのは、1973年のオイルショックを思い出してみてください。電気が来なくなり、夜にネオンサインが消え、地下鉄の照明も間引かれ駅も薄暗い状況でした。あのときに比べると今は石油の値段ももっと高く、オイルショックが起きてもおかしくない状況ですが、我々は今日も比較的平穏に暮らしています。なぜかというと、当時から今までの間に、日本は技術を進歩させ社会インフラをすっかり変えたからです。1973年には電力のほとんどを石油に依存している状況でしたが、今は1割くらいしか依存していません。さらに、あの時代にはほとんどなかった原子力が、今は日本の電力の約30%を支えています。原子力は非常に安定していて、石油の値段が少々上がっても大丈夫だし、炭酸ガスを出す心配もありません。そういうベースがあること が、日本にとって大きな力になっていると思います。

グラフ
(出典:IEA Energy Balance 2004)

 また、日本は省エネ技術では世界一です。

 【資料解説】これは日本を1としたときに、同じ付加価値を上げるのにどれくらいエネルギーを使うのかについて、各国を比較したデータです。日本はダントツの1位です。ヨーロッパは日本と同じものを生み出すのに1.6倍、アメリカは2.7倍、ロシアは15倍もエネルギーを使っています。

 日本はここまで省エネ技術を向上させましたが、にもかかわらず、先ほど奈良林さんのお話にあったように家庭の電力は増えています。これだけ便利になると、今まで一家に1台だったテレビが2台、3台と増え、各部屋にエアコンがほしいという家庭も出てきます。そうなると、省エネ効果が台数の増加で打ち消され、日本は努力していなかったかのような錯覚に襲われますが、実は、日本は世界最高の技術で貢献しているのです。

グラフ
(出典:経済産業省平成17年5月 京都議定書の目標達成に向けた取り組みをグラフ化)

 【資料解説】先ほどはどれくらいエネルギーを使うのかで比較しましたが、これは同じ付加価値を導くためにどれくらい炭酸ガスを出すかで比べた図です。日本を1としてヨーロッパ1.6は変わりませんが、アメリカは、エネルギー比較では2.7倍でしたが、炭酸ガスでは3.2倍。なぜかというと、アメリカは車社会のうえに、ここ25年間原子力発電所を作らず、石炭や石油エネルギー依存が増えている。中国は、電力はほとんど石炭ですから、9倍が12.2倍にもなる。

 先ほど中村さんのお話にあったように、電気を使っても、電気を生み出す燃料がクリーンでなければ意味がない。日本の場合は電気そのものもかなりクリーンに作るし、使う側でも、省エネ機器を先駆けて開発していく活動では、日本は世界のトップレベルにある。日本は世界をリードしていくいいポジションにあると思います。


宮 崎    こういうグラフを見ると、日本がいかに優秀であるかが見えてきます。しかし日本はそういう情報を上手に発信していませんね。サミットでそういうメッセージがきちんと他国に伝わっているのかどうか。
コーディネーター 宮崎緑 氏  80年代は貿易摩擦が激しく「ジャパン・バッシング」といって日本は叩かれていました。90年代はバブル崩壊で空白の10年があり、日本経済は「ジャパン・パッシング」といわれ、パスされていました。今は世界から「ジャパン・ナッシング」といわれています。世界の中で日本の存在感がないという意味です。

 日本が省エネ立国としてトップレベルにあることを、もっとしっかり情報発信していけたらと思います。国内のトップランナー方式というのは各メーカー間で効率の良さを争うものですが、世界の中で各国が争えば日本は間違いなくトップランナーになるにも関わらず、実際にはそういう役割を果たしていないのがとても残念です。
 中村さんは、そのあたりについていかがですか。


中 村    もちろん日本の技術はすばらしいですよ。でも、今まで以上に省エネ技術を上げるのは難しいですね。他国は日本の真似をすればいいわけですが、日本は大変だと思います。もはや省エネ努力だけでは追いつかないでしょうね。


宮 崎    そのようなことが個人の生活にかかってくるという点で、里中さんはいかがですか。


里 中    今、私たちはこうして便利な生活をしていますが、一度手に入れたものはなかなか手放せないものですね。

 日本は存在感がないといわれますが、私が身を置いている漫画界で日本は世界中から注目されています。そんな中で、私は若い人たちに教えたり、教育機関で著作権について話したりするために中国に行く機会が多くあります。ところが現地に行くと喉が痛くなり、声がかれてくる。中国に行くたびに空が汚いと思います。高度成長はいいのですが、日本の隣国があれだけ広い面積で水も空気も汚れ、化石燃料に頼って、日本にも黄砂が来たりしますから、これは他人事ではなく、自分の家の電気の明るさについて考えることから始めていいと思います。地球全体の問題なので、結局は自分の身に降りかかってくる問題です。

 また、技術や省エネのノウハウの輸出など、日本が世界に存在感を示せるものはたくさんあると思います。

 例えば、北海道は独立国のつもりで農業輸出国になるといいと思います。中国でどれだけ日本の農産物が高く売れているか。すでに7、8年前から中国の富裕層は日本のものを食べています。自国のものは危ないからです。でも、日本の農業や酪農がどういうシステムになっているかというと、生産者に努力や忍耐を強いて、非常に経済効率が悪い。

 省エネについて日本はここまでできたのですから、その技術を流通や工業だけでなく、農業や酪農にも生かして効率のいい農産物を世界中に輸出すればいいと思います。それを支えるのは日本の技術であり、国の政治のあり方ですね。「存在感がない」などといわれたままではなく、日本はもっと自信を持って進むべきだと思います。


宮 崎    農業の話が出ましたが、エネルギー問題も同じですね。例えば1トンの米や小麦、トウモロコシを作るために多くのエネルギーがいるわけですね。1のものを作るのに100のエネルギーを使ったりしていますね。


里 中    風力や水力、地熱などの自然エネルギーはかなり大規模な土地を必要としますね。私が小さいころは「ダムができた、日本もすごい国になった」と喜んでいましたが、それによって川の環境も変わったりします。では風力発電かというと、効率良く運転するためにはかなり広い土地が必要です。ですから、土地は農業に使い、電気は効率良く送り出す。そのための技術開発にお金をかけるべきです。

 北海道洞爺湖サミットで「日本は100年先を見ている国だったんだ」と100年後にいわれるように、今我慢しても頑張らなければいけませんね。でも皆、気がつくと、水をジャブジャブ使ったりしているんですよね。


宮 崎    もともと日本には「もったいない」という言葉があるのに、ケニアのワンガリ・マータイさんが「MOTTAINAI」の言葉を世界に広めてくれたりして、せっかく足元にあるいいものを見ていない気がしますね。


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